第26混ぜ ライバル登場
ギリギリ間に合った……
今回はちょっと、熱い展開!?
ということで、よろしくお願いします!
アトリエに戻って来た俺は、鏡型転移装置を起動させて王都へと一瞬で戻った。
「只今、戻りました」
そう言ったが、アトリエに三人の姿は無かった。
ワンルームだと――師匠の場合は消えているドッキリの可能性もあるが――見えない場合、外に居ると思って大丈夫だろう。
外に出て周囲を探すと、家の裏手に姿を見つけた。三人で井戸を囲み、ビスコが水を組み上げていた。
俺から見れば、鬼の力を使っていないビスコが一番非力に思うのだが……断れなかったのか、自分から買って出たのか少し気になった。
「うーん、この水……綺麗とは言えないねぇ」
「そうですね……。一度、別の器に溜めてから浄化魔法を掛ける必要がありますね」
三人は井戸の水について話しているみたいだった。さっきまで行ってた街にあるアトリエ付近の井戸は、最初から綺麗だったが……もしかすると、工業区であるこの辺りの井戸は駄目なのかもしれない。
俺は「戻りました」と声を掛けて、三人に近寄って行った。
「お帰りなさいませ、ホムラ様」
「うん。えっと、水……使い物になりませんか?」
「飲み水にはちょっとね」
「そうですか。とりあえず、パンは買ってきましたよ」
アトリエの中に家具は無いし、鞄の中には一人分の椅子しか無い。師匠に椅子を譲るにしても、ビスコに譲るにしても、どっちみち俺は立ったまま食べるしかない。
なら、最初からみんな仲良く立食で良いだろう。
師匠にはいつものパンを。キャサリンさんとビスコにはテキトーに見繕ってきたパンを渡した。
「あ、師匠! ちょうど良いかもしれません」
「ん? 何がだい?」
「フランのお姉さんを治す為に、いろいろ部品が必要でして、一度『世界繋ぎ』をお借りしようと。ついでに、水を買ってくるかタンクに汲んで来たら良いと思いまして」
魔素や素材の品質はこっちの世界の方が上だけど、生活を潤す品物については、元居た世界の方が圧倒的に上である。
どうせ行くなら、ついでにその手間を掛けても良い……そう思っての提案だ。
「そうね。ついでにいろいろ買ってきて貰おうかな……キャサリン、必要と思うものを全て紙に写してホムラに渡しておいて!」
「承知しました」
「……えっと、ホムラ? 何処かへ行くのですか?」
この場でただ一人、ビスコだけが疑問を浮かべた表情をしていた。
言ったとて……とて、である。
騙すとかビスコを蔑ろにするという訳ではなく、信じれないだろうからだ。
「転移装置のもう少し凄いので、買い物に行ってくるんですよ。ビスコも何か欲しいものがあれば買ってきますよ?」
だから俺は、簡単に纏めた言葉でビスコには伝えた。
「そうなんですね……なら、何か食べ物をば」
「分かりました。一週間近くは居ないので、渡しておいたメモの通りに作業を進めておいてくださいね」
「えぇ。では……そろそろ私はタルトレット邸へ戻ります。ホムラ、無事に戻って来てくださいよ」
ビスコにはこのアトリエの場所を伝えて貰う役目もお願いしている。上客になってくれるランドール氏にしっかりと場所を把握しておいて貰わないと困るからな。
ビスコは待たせている馬車の所へと戻って行った。
俺もキャサリンさんのメモを受け取ったらすぐに出発できるように準備を進めておくか。……まぁ、買うものリストと換金できる物を纏めておくだけだけど。
◇◇
「ホムラ様、こちらがドンチーホーテで購入して欲しい物のメモ。こちらが食品メモ。そして……最後にこれが日本へお戻りになってからの行動を記したメモにございます」
「ありがとう、キャサリンさん」
「あと、いざとなったらこの宝石を渡すと良いでしょう」
「……ん? いや、まぁ、はい。分かりました。受け取っておきます。キャサリンさんは……」
「私は、少しやることがありますので……メイドとして側に控えなければならないのですが、申し訳ありません」
行動メモを渡された時点で気付いてはいたが、キャサリンさんならついて来るのではないかと少し思ったけど……どうやら来ないらしい。
まぁ、用事があるのなら仕方ない。一人でも特に問題はないからな。
後は――師匠に挨拶をすれば、しばしの別れにおける流れは、一通り済んだことになるだろう。
「師匠! 一週間ほど空けますが、規則正しい生活を心掛けてくださいね? あと、食べ物もしっかりとお願いしますよ」
「わかってるよっ! ほら、さっさとコレを持って行って来なさい」
「……なんか、心配です」
「大丈夫だって! ほら、早く早く」
師匠から受け取った星型の光輝く石。魔力に満ちて、使用可能な状態になっている。
数年ぶりの日本に、少しだけ緊張してくる。
特に愛着がある訳じゃないけど、故郷という認識が、俺の中にもあるみたいだ。帰ると思っている事がその証拠になるだろう。
「分かりました……では、行ってきます!」
俺は『世界繋ぎ』を握り締める。
「キャサリンとホムラの学校で先生をやる事について話を詰めておくから、こっちは任せて!」
「ちょ、え!? 先生のほ――」
あ、来る――そう感じた。まだ言いたい事があったのに、発動したアイテムは止まってくれない。
俺を学校に入れるというから生徒側だと思っていたのに、まさかの先生側なんて聞いてなかった。だが、それを伝える前に俺の意識は暗転し、途切れた。
◇◇◇
「――ハッ!?」
気が付くと、当然だが、師匠達は居なかった。目の前にあるのは灰色の壁のみ。
今回は尻を打つ事もなく、立ったまま着地できたみたいだ。
上を向けば青空が広がっており……どの世界も空は変わらないという感想を抱いた。
地面の固さ。空中で繋がる電線。遠くから聞こえてくる喧騒。とても懐かしく感じる。
「戻って来たな……」
耳に着けていた翻訳機を外して、鞄に入れておく。自分の服装が異世界風だと気付いて、慌ててマントを取り出した。
「これは……セーフか? いや、普通に浮くよな」
コスプレとしては良いかもしれないが、街中でイベントもなくこんな格好をしていたら、注目を浴びてしょうがない。
「落ち着け……こういう時のキャサリンさんメモだろ……」
運良く、人の気配は感じない。今の内に行動すべく、メモを開いた。
『・おそらく、新宿に辿り着いているはずです。この下に指定する住所へ向かってください。服装は気にするだけ無駄です。彼女も気にしてませんでしたよ』
たしかに住所が記載されてあった。さすがに土地勘が無いし、スマホの地図アプリを開かないと辿り着くのは厳しいだろう。
スマホの充電は……たぶん、残っていると思う。
「気にするだけ無駄か……それもそうだな」
鞄を漁って……昔に買って貰ったけど、師匠とキャサリンさんとしかやり取りをしていないスマホを取り出した。
電源を点けるとすぐに、更新がどうとか表示が出る。それを全部拒否して、地図アプリを起動させた。
メモに書いてある住所を打ち込むと、ここからでも歩いて行ける距離にその場所があると表示された。
「メイド喫茶?」
ただ、その場所に違和感を覚える。キャサリンさんに限って間違えたなんて事はないだろう。
つまり行くしかないのだが……その前に、メモを全部読んでから歩く事にした。
――読んだ結果として、何も間違ってないという事がわかった。
それに、これから面倒臭い手順を踏む流れになっていた。錬金術師が裏家業だから仕方がないのかもしれないが、キャサリンさんの指示する最後の目的地に辿り着くまでに、合言葉を用いたやり取りが十を越えて存在している。
厳重にセーフティを設定しているのはキャサリンさんらしいが……些かやり過ぎなのではないだろうか。
これはもう、目的地が海外でも驚かないレベルだ。
「行きますか。まずはメイド喫茶だな」
それから俺は「裏へどうぞ」「車にお乗りください」「こちらに御座います」等々……歓待されながらいろんな場所をたらい回しにされていった。
キャサリンさんの名前を出した途端に、みんなの態度が恭しいものへと変化する様は、恐ろしさがそうさせているのだろうと察しが付いた。
気持ちはよく分かるからな……。
最後に辿り着いたのは、海外ではないが、最初の場所からかなり移動した場所にある山小屋だ。車で運ばれて、後は歩けと指示された時は面倒とも思ったが、道が均されていたお陰でそう大変では無かった。
それに、来る途中の道中で沢山の景色を見れたのは楽しかった。
もしかすると……俺がこう思うだろうと先読みしたキャサリンさんの、粋な計らいだったのかもしれない。怖いけど優しい人だからな。
「人が住める大きさじゃないし……何か仕掛けがあるのか?」
山小屋とは言ってみたが、正確に言えば、大きめな物置みたいな感じだ。子供の秘密基地とかなら最高だろうが、人が住むとなれば狭過ぎるくらいだろう。
(自然が人払いをしてくれてるのか? だとしたら……同業者だろう。少なくとも裏家業なのは間違いないな)
警戒心を持って、小屋へと近付く。
キャサリンさんの指示だから相手が俺を狙う人物とは考え難いが、もうここは相手のテリトリーと言っても良い場所だ。
いつ、どこから攻撃が飛んで来るか分かったもんじゃない。
(ほら今も、ひゅ~んという音が聞こえ……て……?)
俺は勢いよく上空を確認する。
太陽は傾き、空がオレンジ色に染まっている。その中で一点、黒い点が大きくなりながら近付いてくる。
「くそっ……!!」
落下地点は俺。
どこの誰だか知らないが、えらく好戦的な人物らしい。
鞄に手を突っ込み、飛翔系のアイテムを掴み取ってぶん投げた。
爆風から少しでも遠ざかる為に同時にダッシュしたが、一番良い性能のアイテムが裏目に出て、地面を転がる結果となった。
「待っていたゾ! よくも私の前にノコノコと姿を現せたものだナ!!」
「その……声は、まさかッ!?」
聞き覚えのある声のする方へ視線を向けると、彼女が小屋の屋根の上に立っていた。
日本語は上手くなっているが、まだ語尾が少しおかしく、カタコトのチャイナ娘の様になっているが……彼女の実力は相当である。
褐色の肌にダークブラウンの髪を二つのお団子ヘアーにして、白スーツを着ているその姿はまるで……あれ? 本当にマフィアのチャイナ娘みたいになってない? マフィアのチャイナ娘ってよく分からないけど。
「おい、エレノア! お前、何だその姿は! 昔あった時は普通のショートヘアーにしてたろ? そして、何で白のスーツなんだよ!!」
「うるさいヨ! 馴れ馴れしい奴メ!! これは……その、我が師匠が戦う女はこうしろって……動画を見せられただけネ!」
なるほど。実にあの人らしい。
エレノアと俺は、簡単に言えばライバルだ。
俺の師匠とエレノアの師匠が錬金術師界隈に君臨する存在だったが故に、弟子である俺達はよく師匠達に勝負の道具にされていた。
俺や俺の師匠はアイテムを作成する錬金術師とするならば、エレノアやエレノアの師匠は主として戦う錬金術師――『錬闘師』だ。
実力的に拮抗していたのが、おそらく師匠達の育成意欲を刺激していたのだろう。
エレノアの師匠はナンバー2と呼ばれ、師匠とよく比べられていた。だが、二人の仲は決して悪くないと、子供ながらにして思っていたのを覚えている。
自由人な師匠とは違って真面目な人だから忙しかった筈なのに、よくアトリエに遊びに来ていたしな。
「形から入る……いかにも『魔女』さんらしい。そして、お前はずっとアホだ。何も考えずに受け入れるから変な方向に誘導されるんだろ?」
「馬鹿にするナ! 師匠を馬鹿にするのは許さないゾ!」
魔女とは、エレノアの師匠の呼び名だ。
戦う時は脱ぐのだが、普段の格好が黒のとんがり帽に、黒のローブだからそんな呼び名が付けられていた。
ただ、実力は本物である。師匠とサシで殺り合えるのは、魔女さん以外で俺は知らない。
だから、その弟子であるエレノアもよく着せ替え人形の様にコスプレをさせられていた。
本人は可愛い洋服が着れると、何も考えずに育った結果……今、こうして『褐色白スーツお団子ヘアー』という、よく分からない取り合わせになっているのだろう。
昔から勉強は苦手だったが……さては、俺が居なくなってから定期的にしていた勉強をしなくなったな?
「魔女さんは馬鹿にしてねーよ! 流石のセンス。似合ってはいるからな! 俺が馬鹿にしてるのはお前だ、エレノア!」
「ムキィー!! それはそれでムカつくネ! ここで、クルスとの決着! どっちが上かハッキリさせるネ!」
エレノアが屋根から飛び降り、地面に着地するなり、両手で地面に触れ……術を発動させる。
「――ハッッ!!」
地面が隆起しながら、まるで土石流の様に俺へと迫ってくる。術の発動の早さ、精巧さ、威力。当然だが、以前よりも強くなっている。
だが、それは俺も同じだ。
鞄から『吸着ウェット短剣』を取り出して、地面に突き刺し魔力を流す。
――吸い込んだのは土の力。その力でエレノアの術に対抗させ、迫り来る土石流を押さえ込んだ。
「くくっ……久し振りに血が滾るネ――!!」
「安心しろ――手加減せずに吹き飛ばすッ!!」
エレノアは拳を、俺はアイテムを。
お互いの武器を構えて、対峙した。
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