第23混ぜ キャサリンの役得
今回は視点を変えて、キャサリンさんですよ
シララさんの所へ行った感じで……
よろしくお願いします!
◇◇◇
「飲み物は紅茶で良かったかね」
「お茶なら私が……」
ホムラ様を見送り、彼女と共にシララ様のアトリエにお邪魔させて貰っていた。
大きな釜があり、薬品類が棚に置いてある。錬金術師のアトリエらしいアトリエだった。
大量の本や紙が、丁寧に置かれている点は彼女やホムラ様のアトリエと違う点でしょうか。
ホムラ様は丁寧ですが、主に彼女が……結果として、私を呼んでくれる事となったので、あまり責められませんけど。
「いいのいいの。お客さんはゆっくりしといておくれ」
「ですが……」
メイドである以上、給仕は私の本分だというのに、シララ様が全てやってしまう。
もどかしい気持ちがどうしても心に在るけど、時と場合によって、相手の好意に甘える必要性もちゃんと理解はしている。
頑なになり過ぎるのは、これから仲良くしていこうと思う相手にならマイナスになる事もある。
――『メイドとしての境界線は、相手がメイドをただのメイドとして扱う場合に持っておけば良い』
これは私がメイド学校に通っていた時の恩師の言葉である。
つまり、メイドをお客の一人と数える相手には臨機応変に対応するのも、また、メイドとしての在り方ですね。
「おぉー! これは良い! ……こっちも面白い! キャサリンもちょっと見てよ」
「大人しく……は、出来ませんよね。申し訳ありませんシララ様」
「ふふっ。興味を持って貰えたなら良かったわ。あなたも気を張らず、楽にしてね」
「ありがたい御言葉ですが、私の事はただのメイドとして接して貰えると……」
「そう? じゃあ、お茶を運んで貰おうかしら」
「――かしこまりました」
シララ様の見た目は七十代でもおかしくはない。
戦闘メイドとしての経験から、相手を見た目のみで判断する危険性は知っているが、それでも品の良いお婆様という印象を強く受ける。
でも、シララ様は見た目を偽っていると、彼女は言っていた。
錬金術師ならば不思議ではないのかもしれない……そうあっさりと受け入れられるくらいには、私も染まってしまっているのでしょうね。
「貴女も席に着いてください。シララ様とお話があるのでしょう?」
「はいはい、キャサリンはせっかちなんだから」
「貴女の注意が散漫なだけでしょう……それに比べ、ホムラ様はしっかりと成長なされているというのに」
彼女の弟子であるホムラ様。
幼少期から成長を見守って来ましたが……師匠に似ず、真面目でご立派になられて、昨日は同姓のお友達まで。
それなのに彼女はいつまでも、子供っぽい所が直りませんね。
「ホムラとは、隣にいた男の子かい?」
「えぇ。今の私の仕える主です」
「あの子も面白い子だったねぇ……まだまだ伸び盛りってとこかね?」
「はい。いずれは、逞しい男性へとなってくれるでしょう」
今は自分の力を付ける事で忙しいでしょうが……いずれは恋愛をして、結婚をして、私に赤ちゃんを抱かせてくれたりするのでしょう。
ですが……今のホムラ様だとその日が来るのに時間が掛かりすぎるという懸念もありますね。
彼女が夫を見付けるよりは早い様な気はしますが、どうやらこちらの世界だと十八歳を待たずして家庭を持つ事も珍しくはないらしいですし……画策するのも一興かもしれません。
「おばあちゃん、おばあちゃん」
「はいはい……次は何だい? 騒がしいお嬢ちゃんだね」
「――そろそろ、正体を見せてくれても良いんじゃない? 結界も貼ってるアトリエなら盗み見も無いでしょう?」
「命の短い生物だというのに……本当に恐ろしい子ね」
――言葉の質が変わった。
喋り方や言葉遣いも変わっているが、そういう意味ではなく、言葉の重みが違っていた。
脳内から出る危険信号に従って『構え』に入ろうとしたのを、ギリギリの所で耐えて、でもすぐに動ける状態にはしておいた。
まだ敵対行動をされていない内に、こちらが臨戦態勢に入るのは好ましく無い。
それに、危機が迫っているならまだしも、彼女が動じていないのにメイドの私が勝手な行動をする訳にもいかない。
「私が長年の研究によって生み出したアイテム『偽装指輪』、特別に外してあげるわ」
シララ様が右手の中指に嵌めていた、綺麗な指輪をソッと外した。
それは一瞬の出来事。
瞬きすらしていないのに、理解が追い付かない早さで、その変化が起きていた。
今まで立っていた場所からシララ様が消え、まったく違う姿をした綺麗な女性が、さもずっと居たかの様に佇んでいた。
同姓すらも魅了されてしまいそうな妖艶な外見ではあるが、その中で特徴と言える部位がシララ様には存在していた。
「おぉ! 耳が尖ってる! 凄い!」
「たしか……エルフという種族ですよね?」
「あっ、私のコンタクトも正常になった……って、えぇ!?」
新しい発見をした子供みたいにはしゃぐ彼女が、シララ様を観察して、驚愕の声を上げていた。
今までにいろんな経験をしてきただけあって、声を出して驚く事が少なくなったと嘆いていた彼女。
エルフという事に関して驚いた訳ではなさそうとなると……何か別の情報で、驚かされたのでしょう。
「キャサリン!! ヤバい……というか凄いんだけど、シララさんの内包する魔力量がおよそ人じゃ耐えきれないくらいある……」
「……なるほど。それがエルフという種族の特性なのでしょう。我々の知る知識としてのエルフとあまり変わらないのかもしれませんね」
「だね! いや~、生きてる内にエルフと会えるなんてねぇ……それもこんなに美人だし。エルフはやっぱりみんな美形なのかな? おばあちゃん……じゃないか、シララさんに聞きたい事があるんですけどっ」
彼女の好奇心というよりは、同じ錬金術師だから理解があるのでしょう、シララ様は快く彼女の質問に答えていた。
年齢、出身、錬金術師になった理由、偽装している理由、エルフという種族について。
私はそれを近くで聞いていて、一言一句しっかり覚えようとしているが、だからと言って、彼女ほど興味がある訳ではない。
それよりも自分の仕事……無くなりそうな紅茶を注ぎ足したりする事で、より円滑な質疑応答の場を保つ役目に回る方が、メイドとして重要なことである。
メイドとして新たな知識、新たな技術を会得する事も重要ではあるが、基本は裏方であるというのを忘れてはいけない。
彼女が今は自分の知的好奇心を満たそうとしているのなら、私が優先すべき事はそのお手伝い。
『メイドの幸せとは、主人の為に死ぬことである』――これも恩師の言葉だが、これに関しては共感はしていても、そこまで納得はしていない。
私の思うメイドの幸せとは、主人の為に死ぬことでは無く――『主人と共に死ぬこと』だと思うから。
主人より先に死んだらその後が気になるし、主人より後に死んでも寂しいだけだ。
そう考えると、共に死ねたらそれが幸せなのではないかと気がついた。
私がホムラ様に厳しい指導を行うのも、単に軽々しく死んで貰っては困るから。
年齢的には私の方が先に死ぬでしょうが、万が一という事もあり得ますからね……道具に頼るばかりではなく、より強くなって貰わなければなりません。
「へぇ……シララさん、学校の校長先生もやってるんだ」
「えぇ、成り行きでね。長く生きてると、いろんな縁があって……最初は錬金術科の先生だったのに、いつの間にかね」
「錬金術科なんてあるんですね! うーん……ホムラの修行になるかなぁ? キャサリンはどう思う?」
「ホムラ様の為になる事なら、何でもやらせるのが良いかと。いろんな経験のその全てが、錬金術師には糧となるのでしょう?」
「ふふっ……あの子の実力なら、生徒としてよりも、むしろ先生として雇いたいくらいよ」
シララ様の言った台詞から、いろんな方向へと話が広がっていく。
途中から我慢できずに、私もホムラ様の育成計画について意見を述べさせて貰った。
本人の意思はこの際関係なく、あれをさせたい、これをさせたいと話題は尽きなかった。
――夕方になって、ようやく話が落ち着く。
晩のご飯にお呼ばれして、その日は宿泊までさせて頂いた。
夜はまた別の、錬金術に関する事で盛り上がっていた二人だったが、私は先に休ませて貰い、朝を迎えていた。
「良い天気ですね。そろそろギルドに向かわなければ……」
ホムラ様とビスコ様との待ち合わせである魔法ギルド。
その後、既に購入して清掃を頼んである、新しい王都のアトリエの鍵を受け取りに行かなければならない。
「ほら、シャキッとしてください。ホムラ様に呆れられますよ?」
「うぅ……朝は弱いんだから仕方ないでしょ?」
「ほっほっほ……アトリエの場所が分かったら、ぜひ教えてくださいね」
「はい。その時にまた伺わせて頂きます。では……ありがとうございました」
綺麗なエルフの姿から、品のあるお婆様の姿となったシララ様に見送られ、私達は街中へと向けて歩き出した。
ホムラ様の用件も、無事に終わっていれば良いのですが……まぁ、心配する程のたいした問題はないでしょう。
引き受けた事は最後までやり通すという事を教えましたし……何より、雑な仕事はホムラ様自身が自分に満足しないでしょうから。
そういう所に拘るのは、やはり師弟なのだと思えますね。
メイドとしてお側で見ているからこそ気付ける、ホムラ様と彼女の似た一面。役得とは、この事なのでしょうね。きっと。
◇◇◇
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