第19混ぜ 疲れる予感
お待たせしました!
最近調子がどうも悪い……気を付けねばですね
では、よろしくお願いします!
我が師匠ながら、とんだ無茶振りをしてきた。
最後に師匠のアイテムが登場して、会場が沸いて終わるなら錬金術師の株は上がったかもしれない。
だが、どう頑張っても……というか、今から師匠の剣を越えるアイテムを用意することは不可能である。
しかも、師匠のアイテムのインパクトが強いせいで、俺のアイテムだってどう見られるかわかったものじゃない。
「では、最後の方。作品の紹介をお願いします!」
「あ、はい!」
俺は鞄からアイテムを取り出した。
俺が用意してきたアイテムは、ミルフさんに作ってあげたぬいぐるみの改良版みたいなものだ。
魔力を吸収して膨らむという所を発展させ、ある種のジョークグッズへと変化を遂げさせた。
「えー、はい。このウサギの形状をしているアイテムですが――」
師匠が言う審査委員長に向けて、プレゼンを始めた。
ウサギにしたのは特に意味はない。
ただ、前とは明らかに違う機能。それはと言うと……。
「このウサギですが、なんと! 手にした人の魔力を吸いつづけるという機能があります!」
そう。前は自分から与える事でウサギが膨らんでいく仕様になっていたが、今度の作品は、触れるだけで吸われていく。
しかし、吸った瞬間に大気中に吐き出すという仕組みになっている為、際限無く吸われるという危険性も兼ね備えている。
ぬいぐるみと思って抱いて寝た日には、寝てる間に魔力がゼロになって、朝の寝起きから苦しいなんて事になり得る。
なぜこんな意味不明なアイテムを作ったかと言うと、表の理由としては『魔法師がトレーニングで無意識に魔力で強化を使用しない為に』というものがある。
魔力が少ない状態での効率の良い動き方の練習にもってこいだ。
それならば、魔法を放って魔力を減らせば良いと思う人が多いかもしれない。
だが、街中での攻撃魔法の発動は御法度だ。
騎士の訓練所ですら、使える人数は限られている。効率を考えるなら、俺のこのアイテムも需要はあると言えるだろう。
そして――表の理由があるのなら、当然裏の理由もある。
それは凄く単純なものだ。
どちらかと言えば嫌っている、魔法師という存在。
錬金術師を下に見ている彼等に、魔力が無くなった自分達の脆弱さというものを、戦い以外の危険の無い状況下で存分に味わって欲しくて作った。
凄く凄く……単純で器の小さい理由である。
自分でも分かっているからこそ、名目上はジョークグッズにしていた。
「それ……だけ?」
司会進行の女性が、そんな一言を呟いた。
会場も審査員も、やはり反応は似たようなもので、拍子抜けって感じになっていた。
「キミはまた……魔法師だって悪い人ばかりじゃないと言っているだろ?」
「それは、分かっていますけど……」
「まぁ、それはいいとしても。そうだね、そのアイテムとこの剣を上手く合わせられたら……雷の発動時間を人の魔力で補って延ばす事も可能かもしれない。中々に良いと、私は思うわよ?」
師匠には、裏の理由までバレているみたいだったが、アイテムについてはそこそこの評価を得れた。
師匠に褒めて貰える事。俺にとってはそれだけでも、十分な結果だったと言える。
「えー……はい。時間も余りないので進ませて貰います。ここから少しお時間を頂いて、審査員一同で協議に入らせていただきます。その後、今年の発表会での最優秀錬金術師の発表と表彰に移らせて貰いますので、参加者の皆様はしばらくお待ちくださる様、お願い申し上げます!」
(長い台詞をよく噛まずに言えるよなぁ……)
協議とはどんなものか。話し合いでも始まるのかと思っていたら、予想とは少し違った展開になった。
審査員達は、少し離れた席に横一列で座っていたのに、今は席を立って、各々作品の近くまで来てアイテムの品評をし始めた。
アイテムを作った錬金術師と言葉を交わしたり、ただ作品を見て回ったり。
おそらく、この後に誰の作品が一番だったかの多数決でも取るのだろう。もしかすると、審査員長の一存……なんて事もあり得るかもしれないが。
「師匠、こんな時に何ですが……二日間、どうされてました?」
「調べたい事もあったし、王都を散策していたよ。まだ、行ってないエリアも沢山残っているけどね」
「誰かに迷惑とか……掛けてないですよね?」
「ハッハッハ! 私に迷惑を掛けられたかどうかは、相手がどう思うかだろ?」
「それはそうですが……あっ! 師匠に報告したいことがあったんですよ!」
ビスコの事や五神について。特に五神についての話は、師匠も興味の出る話題に違いない。
その話をしようと思った時に、俺と師匠に割って入ってくる声があった。
「少し……話を聞いても良いかい?」
その声はとても優しく、穏やかだった。
手には杖を持っており、腰は少し曲がっているものの、まだまだ元気に歩けている。
お世辞を少し混ぜて言えば、白髪の似合う綺麗なご婦人だ。
「もちろんよ。私もお婆ちゃんと話してみたいと思っていたもの! あっ……こっちは私の弟子のホムラね」
「ホムラです。よろしくお願いします」
「ほっほっ……まだ若いのに面白いアイテムを作りましたね。もちろん、お嬢さんのも感心しましたよ」
「それはありがとう。それで、お婆ちゃん……話って何かな?」
「うむ……少し言いづらいのじゃがな。本来ならお主達二人のどちらかを賞に選ぶべきなのだが……すまぬ」
とても言いづらそうに、口ごもりながら、審査員長は時間を掛けて俺と師匠に事情を話し始めた。
例年、あまり盛り上がっていない発表会とはいえ、最優秀の錬金術師に選ばれた者は、それ相応の名誉や地位、賞金なんかが与えられる。
王都にアトリエを開く事も可能だし、その後の活躍次第では、名誉爵位が与えられる事もあるそうだ。
今回、俺はともかく師匠のアイテムですら最優秀賞に選ばれないのかという理由も、ちゃんと教えてくれた。
「量産は難しいと言っていたが……あれは嘘であろう? 武器の錬金はたしかに難しい。じゃが、お主なら難なく作れるじゃろう。そこが問題での……最優秀に選ばれた物は世の為に量産が義務付けられておる。私達、錬金術師の事を理解せぬ上の者達の取り決めでの……」
量産の義務付け……か。
回復薬や植物成長剤みたいな物なら、たしかに量産も良いだろう。
だが仮に、師匠の剣が量産された世界になったとしたら……争いが激化し、自分の力と勘違いしたアホ共が手を付けられなくなり、治安の悪化に繋がってしまう。
たしかにそう考えると、審査員長の判断は当然のものとなってくる。
「なるほどねぇ。そこについては詳しく見てなかったわね……なら、仕方ないっか! 別に面白半分で参加しただけだし、文句は無いわ」
「俺も師匠とは同意見です。が……俺のはそう危険な代物では無いと思いますが?」
「使い方によっては、危険であると勝手ながら判断させてもらったのじゃよ……」
「なるほど。ただ、魔法師のキツい顔を見たかっただけなのですけどね。審査員長の判断にお任せします」
「ほっほっほ……やはり愉快じゃな。それと、私の名前はシララじゃ。そう呼んでおくれ」
師匠が面白い人と言うだけあって、錬金術師としての腕は、今日の参加者と比べても圧倒的だろう。
シララさんの持っている杖が証拠の一つとなる。普通の杖ではない。
杖から聞こえてくる声の張りや喜びから、品質はかなり高い物であると判断ができる。
どんな効果が付与されているのか、そこまでは分からないのが少し残念だ。
「シララさんね、分かったわ。ひとつ聞いておきたいんだけど、良いかしら?」
「なんじゃ? ただ……答えられる事ならの」
「それは大丈夫だと思うわよ。シララさん……『歳はおいくつなのかしら』?」
師匠の何気ない質問に、シララさんは押し黙った。
お年寄りに年齢を聞く師匠の精神に驚かされるが、二人の間に流れる空気を読むと、何かしらの事情がある感じだ。
「お主には……何が見えておる?」
「一言で表すなら……そうね、『違和感』かしら?」
「――これは面白い。よろしければ、私のアトリエで話でもどうかな?」
「あら、素敵なお誘いね。是非ともお願いしたいわ」
(なんか、意気投合? してるんですけど……)
何がなんだか分からないが、師匠もシララさんも楽しそうだ。
それから二、三言くらい言葉を交わして、シララさんは別の参加者の元へと向かった。
「ホムラには教えておくけど、シララさん、お婆ちゃんの姿をしているけど『そう見せている』だけなのよ。私のコンタクトですら、完全に解明出来てないの」
「それって……」
「可能性として一番高いのは、そもそも『人族』じゃないって事かしらね」
とんでもない爆弾発言に、他の誰かに聞こえてないか周囲を見渡した。
人族にしか見えないシララさんが人族ではない。
それが本当なら、この国からしたらどういう事態になるのだろうか。法に照らし合わせると詐欺罪……とかになる可能性があるやもしれない。
ただ……何ら関係のない俺や師匠からすると、発表会の審査員長に抜擢されるまでバレなかったシララさんが凄いってだけの話になるのだが。
「アトリエ……見てみたいかもですね」
「そうね。せっかくだから、お茶でも飲みに行きましょう? あわよくばこの世界ならではの素材の使い方なんかもレクチャーして欲しいけどね」
しばらくすると、審査員達による協議が始まった。
参加者達はドキドキで待っているのかもしれないが、俺と師匠はまったく別の事……観客席に居るだろうキャサリンさんを探していた。
メイド服だし、すぐに見付かるだろうと安易に探しだした結果……未だに見付けられていない。
三六〇度、観客席を見渡したのにも関わらず、キャサリンさんらしき姿は見当たらない。
気配を消しているのか、それとも本当に居ないのかの判断が難しい所だ。
「お待たせ致しました! 審査員一同による協議の結果が出ましたので、発表に移らせていただきます!」
特に沸く事の無い会場。
結果も大人の事情的な部分が絡んで、観客の期待通りにはならない事が既に決まっている。
(そりゃ、錬金術師が人気とかにはならないか)
別に構いはしないのだけど……次の魔法演舞が盛り上がるとすると、また魔法師と錬金術師の間の溝が深くなるだろうと思った。
最優秀の錬金術師に選ばれたのは『植物用の回復薬』を発表した優しそうな女の人だ。
残念ながら寝坊したせいで使い方を見れてはいないが、優しい人が作った優しいアイテムが選ばれた事は、個人的にそれで良いと思える終わり方だった。
最後に審査員長であるシララさんからの言葉があり、今年の錬金術発表会は幕切れとなった。
発表会を終えた感想としては、それほど面白いものではなかったと言えてしまう。
ただ、発表する機会なんてこれまで無かったし、新鮮さがあったのはたしかだ。
でもやはり……俺の目指すべき、そして越えるべき壁は、師匠だけという事だ。
「キャサリーン!」
「お呼びですか?」
(い……いつの間に背後に!?)
師匠が呼んだら、キャサリンさんは背後に居た。
それが事実なのだが、どうにも腑に落ちない。
観客席には居なかったはずだ。でも、今のタイミング的には師匠が呼んだ時点で少なくともすぐ近くには居ないと成立しないはずなのに……。
キャサリンさんだからと言ってしまえばそれまでなのだが……やはり怖すぎるぜ、キャサリンさんは。
「これからシララさんのアトリエにお邪魔させて貰う事になったから、行くわよ?」
「承知致しました」
「あっ! その、ちょっと待って貰っても大丈夫ですか?」
「ホムラ様、何かご予定でも?」
「予定と言いますか……」
ビスコを置いて来た事を思い出していた。
会場に行くと伝えたし、起きたらビスコも来てくれるとは思う。
ただ、その時に俺がここに居なかったらビスコは彷徨う死霊の如く、どこかへフラフラと行ってしまう可能性がある。
それも困るのだが、何よりせっかくできた仲間というか友人を、師匠達にも紹介したかった。
「ホムラー! ホムラーっ!」
観客席の方から声が聞こえて、俺は視線を右、左と動かして、ようやく待っていた人物の姿を発見できた。
大きめの笠を被り、顔は見えない。だが、昨日今日で見慣れた姿に、彼が一人でここまで来れた事に安堵した。
「ビスコ! こっちですよ!」
「あれは……誰だい?」
「友達ですよ。散らばった後に出会って、一緒に行動してました」
「まぁ……!! 良かったですね、ホムラ様。ようやく同性で歳も近そうな方が……」
ビスコが到着する前に、既に泣きそうなキャサリンさん。
俺が師匠にベッタリというか、修行ばかりで友達という友達が居ない事を一番心配してくれていた。
だから、師匠よりもキャサリンさんに紹介したいという気持ちが強い。
「ちゃんと起きれたみたいですね」
「えぇ、人混みで中々前に進めず……着くのが遅れましたが。それで……この方達は?」
「紹介しますね。メイド服の方がキャサリンさんです。俺と師匠のお世話をしてくれています。そして……こっちが昨日のほら……絵の」
「あぁ! たしかにあの綺麗な絵の人物と一緒ですね! なるほど、この方がホムラの師匠なのですね。初めまして。私は、ホムラに困っている所を助けていただいたビスコと申します」
礼儀と思ったのか、ビスコは笠を外して顔を晒してお辞儀をしていた。
キャサリンさんはビスコの容姿にあまり興味は無いのか、友達が出来た事について、ずっと喜んでいた。
ただ、問題は師匠だ。
昨日の絵についての話が出て、然り気無くビスコが褒めた時には既に浮かれていたのに、今はビスコの見た目の良さで更にテンションが上がっている様子だ。
「ビスコ君ね! 弟子のホムラが迷惑を掛けなかった?」
「いえ、むしろ世間知らずな私を気遣ってくれたり、良くして頂きまして……感謝してるんですよ」
「そっか、そっか……ちなみにビスコ君は幾つなのかな?」
「十八です」
「ふむふむ……それにしてもキミは格好いいね! 性格も良さそうだし……女の子からの人気が凄いんじゃない?」
師匠の質問攻めにもビスコは動じずに、答えていく。
友達になったビスコを狙おうとしているのが見て分かるが、正直な気持ちは、申し訳ないが今すぐ止めて欲しいと思っている。
だが、師匠の目的である婚活。そしてビスコの人柄を考えると、俺が口を挟んで師匠の邪魔をするなんて、出来るはずもないのだが。
「ホムラ様、良かったですね……私はとても嬉しいですよ」
「心配掛けましたね。でも、もう大丈夫ですよ」
「この二日間、私がギャンブルで荒稼ぎしている間に……ホムラ様は立派になられました」
(いや、俺に解散を告げておいて何してんだこの人……)
この後の正午付近から魔法演舞の予定がある為、会場への人の出入りが頻繁になってきた。
俺達も合流から流れで会話をし始めたとはいえ、いつまでも中央に居るわけではない。
ちゃんと目立たない壁際へと移動してきた。
「師匠、ビスコもシララさんのアトリエに連れて行っても大丈夫でしょうか?」
「ホムラの友達ならもちろんよ」
「あっ! そうですよ、さっきも言い掛けましたが、師匠に教える事があったんです」
ビスコが来た事で伝えたい事が半分に減ったが、神の存在についてはまだ話してなかった。
さっきはシララさんの割り込みがあった為に話せなかったが、今はその話のスペシャリストでもあるビスコが加わった事で、より面白い話に仕上がるだろう。
「えっと、ですね――――」
「見付けたわ! そこの貴方に話があるんだけどっ!」
声の聞こえた方を振り向くと、そこには見知らぬ金髪の女の子が俺を指差していた。
本当に何となく、この子と関わると疲れる……そんな予感が全身を駆け巡った。
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)
新しい子が登場の予感!?٩(๑'﹏')و




