第17混ぜ 安いには理由がある
お待たせしました!
よろしくお願いします!(´ω`)
「串焼き二本! へい、お待ちっ!」
「どうもー」
何の肉かは分からないが、とりあえず美味しそうな匂いに釣られて、軽めにお腹を満たそうと串焼きを購入した俺とビスコ。
最近は分かる文字も増えては来たが、まだ自信が無い。メニューが独特な名前だと尚更に。
だから注文はビスコにお願いしていた。読めたのは値段くらいだったからな。
「これって、何の肉ですか?」
「鳥ですよ。タレの香りが強いですけど噛んだ時の弾力が良い、美味しい鳥です」
たしかに、食欲をそそる香りだが些か強い。それに加えて、袋もパックも無い直の手渡しだ。タレがどんどん手元に垂れてくる。
露店串屋のおっちゃんが見てくる中で食べにくいが……動きながら食べるのは難易度が高いため、ここで食べる他ない。
「いただきます」
「うんうん……ふぅ。美味しかったです」
「速っ!?」
「主人、とても美味しい串焼きでした」
ビスコが店主に向かって礼を述べている間に、俺も口に頬張ってみる。
「うっ……美味い!!」
口元にタレが付くのも気にせず、どんどん食べ進めていく。
鶏肉の弾力を楽しみながら、鼻から抜けていく癖になるタレの濃さに感動すら覚えた。
絶対に食べたら太る――そんなリスクがある、悪魔的ジャンクフードだったからかもしれない。
ビスコの食べるスピードが速すぎに思えたが、違った。これは、誰もが速くなって然るべき食品だったのだ。
「店主、お代わりを」
「私もお願いします」
「あいよっ! 良い食いっぷりだなぁ~兄ちゃん達!」
都度二回のお代わり、一人三本ずつ食べた所で冷静になってきた。
僅かばかり残った理性が「宿代……」とストップを掛けてくれた。
四本目を注文しそうになっていたビスコを強引に止めて、店主に礼を言ってからその場を離れていく。
振り返ったり、あっちこっち視線を向ければ誘惑に負けそうになるからやや俯き加減で歩いていった。
「……ここまで来れば大丈夫かな」
「ホムラ? 急にどうしたんですか?」
「あれは食べ過ぎてはいけない物ですからね、離れたんですよ」
「たしかに、幾らでも食べられると思うくらいに美味しかったですね」
「そういうのを中毒性と言うんです……目的を見失って大食いチャレンジになる所だった」
食べ物の露店の集まっている場所から、工芸品や大道芸をやっている広場の方に来ていた。
今の目的は受けたクエストを消化しつつ、宿を見付ける事だ。
それを見失って金を使い果たしたんじゃ、何もかもの意味が無くなってしまう。
そこそこ腹が満たされたのも事実だが、財布が軽くなったのもまた、目を逸らせない事実だ。
「ここも賑わいがありますね……見てください、似顔絵を描いてくれる方も居ますよ! 誰をモチーフにしたのでしょうか……綺麗に描かれてますね」
「し、師匠!?」
早くクエストを消化して……なんて考えていたのが一気に吹き飛んだ。
師匠とはもちろん俺の師匠だが、絵を描いてるのは芸術性の高そうなお姉さんだ。そして、大々的に「こんな絵描きますよ」と宣伝に使われている人物が師匠だった。
しかも、普段よりちょっぴり大人な雰囲気に美化されている。きっと、正規の価格よりも多くのお金を握らせたのだろう。
ビスコが言った通りに、綺麗に描かれているのだ。
「あちゃー……でも、師匠にしたら男を集める為には手っ取り早い方法になるのか?」
「師匠とは……?」
「あ、あぁ……実は王都には師匠とメイドのキャサリンさんと一緒に来てたんですよ。あの絵の人物が師匠です……第一印象はどうですか?」
「そうですね……とても綺麗で、それは外見ではなく内面もそうだろうと思わせられましたね」
ビスコがこれなら、あの絵を見た男性は近かれ遠かれ似たような感想を抱いているに違いない。
この王都で自分の顔を売っておいて、良縁に恵まれようとしている師匠の努力を嗤う訳では決してない。
でも、やっている事から滲み出る焦りを知ってしまうと……あの絵からは目を背けたくなってくる。
「ビスコ、たしかに師匠は見た目は良いかもしれません。ですが、最強の錬金術師という事を忘れないでくださいね?」
「それは……凄い事ではないのですか?」
「凄いですが、頂点に立つ人物が普通な訳がないでしょう? それでもという人が居るなら俺も全力で応援をしますけど……軽い気持ちなら、それが誰であっても止めますよ」
「ホムラ、例え話で何かありますか?」
「そうですね……錬金術のアイテムの実験台に真っ先にされますよ。髪の色が七色になったりします」
しかも、日に日に別の色が増えていくという仕様になっている。
なぜ、そんなアイテムを作ったのかは師匠しか分からない。予想をするならば、“面白いと思ったから作った”だ。
俺は師匠の面白半分の為に、今までどんな目にあってきたのかを聞かせてあげた。
途中からあのビスコでさえ笑顔が引きつっていた。話していた俺でさえ、改めて師匠のヤバさを認識したぐらいだから、ビスコの反応は至って普通。仕方のない反応だろう。
「凄い方なのですね……」
「『凄い方』いただきました。ビスコ、師匠に会うのが楽しみですね!」
「な、何を言うつもりですか!? 卑怯ですよ! ホムラっ!!」
「うははははっ!」
しばらく笑わせて貰った後に、工芸品を一通り見て回り、次のクエストまでの短い休憩時間とすることにした。
綺麗な食器類をお土産に一つ買おうか迷ったが、結局は金の問題で断念することになった。
金があればとつくづく思う。金持ちに恩でも売れたら最高なんだけどな。
「そろそろ、残りのクエストを終わらせに行きますかね」
「ですね。明日はお祭りですから、休める場所も探さないとですから」
宿を探しながらクエストを終わらせ、そしたらギルドに戻ってまた宿に……暗くなると物騒な世間だから少し急がないと、そろそろ時間的にもギリギリだろう。
明日は朝に会場入りをしなければいけないと考えると、今日は早めに休みたい。と、なると……。
「急ぎましょうか。明日はすぐ来ちゃいますからね!」
◇◇◇
クエストで朝から夕方まで歩き続け、流石にクタクタになった。
ビスコは……見た目からは意外だけど、全然平気そうだった。思ったより体力はあるみたいだな。
「宿……あそこしか空いてないもんなぁ」
「仕方ありませんよ。眠れる場所が見付かっただけ良かったと思いましょ?」
高級そうな宿屋は金銭的に無理と最初から除外して、格安そうな裏道にある宿屋を探し回り、明るい内にどうにか空いてる部屋を見付けていた。
風呂無し、トイレ共用、飯も無く施錠すら本当に簡易な物しか付いていないという、危険だらけの宿だったが、仕方ないと諦め半分の気持ちで予約だけしておいたのだ。
クエストを消化して報告後のギルドからの帰り道。
冷静になると、やはりもっと良い宿を求めてしまう自分がいた。
「そうだ、ホムラ。大衆浴場にでも行きませんか?」
「大衆浴場……ですか。そこの水って綺麗なんですか?」
「うーん……定期的に魔法師が水の入れ換えをしているらしいですが」
「なんとなく却下です! こう見えて綺麗好きなので」
「では、宿の水を汲んで身体を拭きますか?」
「あそこの宿の井戸に流れてくる水が綺麗な訳は無いですが……そこはいろいろと考えがありますので、とりあえず宿に帰りましょう」
日が暮れ始め、暗くなる前に帰ろうとする人達で道は混雑している。……というか、今日一日はずっと混雑していた。
明日からはもっと混んでいるとするなら、ちょっとそろそろ疲れが凄いことになりそうだ。
――ギルドから歩いて約二十分。ようやくボロボロの宿屋へと帰って来た。
「先程、二四号室を借りたビスコです」
「あいよ、明日の朝までだね。他の客には迷惑掛けないこと。水は井戸のを自由に使って良いからね。階段は奥にあるから」
「はい。よろしくお願いします」
記帳した紙を確認するだけの雑な対応に、セキュリティーレベルが心配になる。
他の部屋に、指名手配とかされてるレベルのヤバイ奴とか紛れててもおかしくない程だ。実際に居たりするかもな。
こんな格安の宿に強盗というのも考えにくいが、部屋には厳重なロックを掛けておかないと心配で夜も眠れそうにない。
言われた通りに階段を上り、二階へと進む。そして、二四番と刻まれている部屋を探し、扉を押して中に入った。
「うっ……」
鼻が曲がる程では無いが、臭う。
溜まりに溜まり、染み付いた臭いが。
「はぁー……ようやく一息つけますね」
「よく平然としていれますね……ちょっと窓開けて良いですか?」
窓を開けて空気の入れ換えをしてみるが、それだけじゃとても追い付かないくらいクサい。格安なだけはある。
「くっ……この部屋の為にシュッシュするのもな。ビスコ、臭いを消す魔法とかありませんか?」
「ありますけど……それは水魔法か風魔法の領域だったかと思いますよ。私にはつかえませんね」
「そうですか……あっ! 消臭剤でも置いとけば良いか!」
俺は鞄の中を漁り、設置型の臭いを吸収してくれる消臭剤を取り出した。
これを置いておけば、気にならない程度には臭いが薄れるだろう。
「とりあえず臭い問題はこれでよし! 次はドアの方ですね」
「どうするんですか?」
「こんな格安宿に強盗なんて来ないと思いますが、念のためです」
ドアの施錠は壁とドアの境界線に木の板を置き、開けなくするタイプだ。
つまり、隙間から硬めの紙でも差し込んで上にあげれば開いてしまう。
ドアの一番下にそれが設置されているならまだしも、ちゃんと真ん中あたりに設置されていた。
極端な話をすればだが……そもそも力ある者が体当たりしようものなら、簡単に壊れてしまうドアの脆さである。
「きっと、強盗ですから押し入って来ると思うんですよね」
「その手にしてるものは……まさか」
「はい! 切れ味抜群の針金ですよ。あっ、ビスコも不用意に触らないでくださいね?」
「それを設置するというのですか……?」
「仮に、この罠に掛かって死んだ強盗がいるとします。自業自得ってやつですよ。でなければ、死んでいたのは俺達なんですから」
人を襲って金品を盗む奴等に慈悲はない。
盗賊とて盗む相手にいちいち同情なんてしないだろう。これは、盗む方が上手か、自衛の方が優れていたかの勝負である。
盗賊がこの宿を襲うなんてほぼ、無いだろう。心配し過ぎなのも自分で理解しているが、自分が死ぬ可能性をゼロに近付ける努力は惜しんではいけない努力だ。
「では、私もこの部屋一体に魔法を掛けておきましょう。彷徨うのは人だけではありませんからね」
「ありがとうございます! やはり、頼もしいですね」
「いえいえ」
まったりと足を伸ばして休み始めた。
ビスコも今は笠を外し、壁に背を預けて座っている。
基本的な一般市民の生活は『労働』がメインの活動となってくる。
朝早く起きて、夕方まで働いて、夜は早めの就寝。つまり、娯楽を楽しむ時間がとても少ないということだ。
貴族の間では、娯楽は生活の一部という認識みたいだが、市民にとっては贅沢という認識らしい。
何が言いたいかと言うと……暇過ぎて死にそうということだ。
馬車の移動でもそうだったが、退屈とは無縁に近い生活をしていたせいか『何もしなくていい時間』というのが、とてもとても落ち着かない。
暇さえあれば釜を掻き混ぜていた俺である、いざ自由になると目的が無い事への不安が膨れ上がっていく。
足を曲げたり、伸ばしたり、落ち着かない。視線をあちこちに向けてみるが、こんな宿じゃ面白い箇所も見付からない。
「どうしました、ホムラ?」
「あぁ、いえ……暇過ぎるとどうも落ち着かなくて。ここでアイテムを使って遊ぶ訳にもいきませんしね」
「では、買っておいた料理でも食べて早めに寝ますか?」
「まだ、暗くなり始めたばかりですよ? 身体を拭いたとしても早すぎますね……まぁ、寝るしかないのでしょうが」
二人で次に何をするかの案を出していくが、これというアイデアが出てこない。
昨日も寝ていないから寝ようと思えば眠れるのだろうが、今は睡魔が襲って来ている状態でもない。
どうしようか迷っていたその時、ふと視線がビスコの右手首に釘付けになった。手から少し下の位置に数珠を通してアクセサリーみたいに身に付けていたからだ。
法衣と言えば良いのだろうか、白を基調とした清潔感のある服装をしていたビスコ。手の先に近いとこまで袖があったため、数珠の存在に今まで気付かなかった。
今だって、たまたまビスコが袖を少し上げたから見えたに過ぎない偶然だ。
「数珠なんて、付けてました? それとも工芸品売り場で買ったとかですか?」
「あ、あぁ……いえ。これは、ですね」
歯切れの悪さ、つまりは言いづらいこと。秘匿、神秘。
脳内でやや強引にピースを繋げていく。普段ならただのアクセサリーで気にも止めない物だが、今はちょっと……暇という出来事が重なっていた。
だが、その話に突っ込んでみて良かったかもしれない。
ビスコの言っていた『怖がらせてしまう』と言っていた意味を知る事となったからだ。
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