第16混ぜ ビスコの教え
お待たせしました!
どうぞ、よろしく٩(๑'﹏')و
街の混み具合もさることながら、ギルドも中々に騒がしい状況だった。
朝にクエストを受け、夕方までに終わらせて、仕事終わりの一杯を楽しむ。これはまぁ……環境的には公務員みたいで、健全で健康的な働き方と言えるのかもしれない。
ただ……例えるなら通勤ラッシュと言った感じの混み合いは精神的に疲れてくる。
「報告ひとつするにしても、時間が掛かりそうですね」
「盛況なのですね」
「冒険者ギルドの方はもっと血気盛んらしいですけど……貯蓄してないんでしょうね、きっと」
物価云々は置いておくとしても、冒険者なんかは特に一攫千金を狙える職業の筆頭だろう。
国の警備をしている騎士の方々の給金は、固定給+αと聞いた記憶がある。
それに比べると、一日辺りの稼ぎに関しては冒険者の方が良いという場合もある。さすがに低ランク過ぎると無理だろうが、そこそこ稼げる冒険者がちゃんと貯金をすれば、毎日こんな混む状況も多少なり回避出来るだろうと思う。
「お金を預ける事に不安を覚えているのでしょうね。生活ギルドが管理してくれはしますけど……自分で持ち歩いた方が安心だと思っているのかもしれません」
「冒険者ですから……そうかもしれませんね。でも、金があったら使っちゃうのが冒険者」
「ホムラはどうですか?」
「決まっているじゃないですか……自分で管理するのが一番安全ですよ」
生活ギルドに預けたとして、建物が燃えたり、管理が杜撰で無くしたり、盗まれたりする可能性が無い訳ではないのだから。
そう考えると、自分のマジックバッグに入れておくのが一番安心できる。なんせ……『防水機能』『防火機能』『防腐機能』が付いている上に、盗難されても俺以外には中身を取り出せないという盗難対策まで施してあるのだから。
さすがに、盗んだ奴がズタボロにしたらどうしようもないがな。
「ははっ、ホムラらしい答えですね。たまに教会へお金を預けに来る方もいらっしゃいましたが……お断りしていましたね」
「どうしてですか? 教会に盗みに入る罰当たりな人は居ないでしょうに」
「信者達からのお布施の一部は教会の建物の補修金に、また一部は我々の食費等に充てられますが……」
「あぁ、はいはい! 知ってますよ! 教会の闇ってやつですね!」
「あまり声を大にして欲しくはないのですが……その通りです。もちろん全ての教会がそうではありませんよ? 現に、私の居た所では、頂いた額を紙に記して必要経費に全て使っていましたから」
教会での立場が上になると、何故か信仰心よりも現実的な思考になる人が増える現象。
お布施のピンはねに、権力争いみたいな教会の闇。信仰心の名の下にやらかす大人達は少なくない筈だ。
ビスコの言う通りに全員が全員そうでは無いのだろう。
だが、それを見分ける事なんて難しいし、俺の中での教会は、裏でいろいろとやっているというイメージに固まっている。
「教会には、お金を落とさないって決めてる」
「気持ちが大事なのですよ、ホムラ。それでこそ昔はお金ではなく、食べ物を捧げていたらしいですから」
「今、そのやり方にしようものなら、上から圧力を掛けられそうですね」
「それは……間違いなく」
俺とビスコは受付の列に並び、そんな話で時間を潰していた。
他の魔法師達の会話も広ってみても、大概は数日後の祭りの話ばかりだった。魔法演舞を楽しみにしている者も居れば、武術大会を楽しみにしている者も居た。
そんな似たり寄ったりの話を盗み聞きするよりは、ビスコと教会の闇について話していた方がよっぽど……よっぽどだ。
「次の方、どうぞ……あっ!」
立ったまま待つのは疲れるし、番号札でも渡せば混雑は避けられる気がする。
ただ……機械的な表示システムが無い分、受付の連携が大変そうだ。裏で番号札の売買が起きたり、力ずくで奪うなんて事も起きるかもしれない。
「クエストの報告です」
疲れるからどうにかして欲しいという他人事の様な気分で思っただけで、本気でギルドを心配している訳でもないし、そこまで興味も無い。
なんなら今は、ビスコに夢中になっている昨日の受付嬢の方をどうにかして欲しいくらいだ。
「ほ、本当にあのクエストを一日で!? でも、たしかに証明書がありますね……」
「えぇ、まぁ。あの……残り半分の報酬と、残り一つのクエストをお願いしても良いですか?」
「あ、はい! 少々お待ち下さいませ」
奥に引っ込んだ受付嬢が次に現れた時には、二つの袋と一枚の紙を手にしていた。
袋には報酬が入っていた。これで、宿に泊まっても余裕で金が余るくらいにはなった。一安心だな。
「こちらのクエストですが……」
「あ、はい! 受けますけど、何か問題でも?」
「その……いくら塩漬けになっているクエストとはいえ、人数的にもお二人の手には余るクエストかと」
「……“にも”ですか。どうしますか、ビスコ?」
「詳しい話を聞いてからでも良いのではないですか? 聞くだけならタダですし」
受付嬢がビスコの言葉にいち早く反応し、クエストの内容について教えてくれた。
依頼は、王都の北東の一帯にある墓地。そこで成長してしまった死霊系の上位種の討伐。上位種だけではなく、数も質も教会所属の騎士が出向いても痛手を負うレベル……というのが受付嬢の話だった。
「聞いた事がありますね……たしか、討伐の経験豊富な神官が単身で乗り込んで帰って来なかったのが始まりだったかと……」
「はい。その後に数回の討伐隊を送り込んでいますが、討伐に至っておりませんね。墓地から出ない様に、教会の方々も定期的に数は減らしているみたいですが……」
教会が手を焼くというのは中々のレベルだ。
腐っても教会。死霊系や動く死体系には強い団体である。
おそらくだが……教会の上の面々がまた何かを企んでいるのだろう。倒さない事でのメリット……例えば、所属騎士の育成とか、言ってた通りに墓地から出ない様に数を減らす依頼料とか。
それで、気が付いたら自分達でも手が負えないレベルに成長しちゃった、とかなら本当に笑えない話だな。
「ビスコ、そこんとこどうなってんの?」
「すいません、私も詳しい訳ではないので……私は王都の中よりも近郊での依頼を受けていましたから」
「そっか……。すいません、クエストの依頼達成の確認ってどうするんですか?」
「あ、はい。それは討伐の翌日の夜に墓守の方が確認されまして、その次の日にギルドへ報酬金と共に来ていただく事になっております」
今日の夜に依頼を達成しても、報酬が貰えるのは明後日になるのか……。それに、言った通りなら墓守が来なければ依頼達成にならないというガバガバな確認方法だな。
ビスコだけなら、何の疑いもなく了承するのだろうが、俺は疑う。
根回しが得意な教会が、墓守に何も握らせてない筈がないだろうし。
「ホムラ、クエストを受けますか?」
「いや……ちょっと考えよう。ビスコの実力はクエストを達成してきた時点で最低ラインは知れましたし……きな臭い感じもするしな」
「そうですか……分かりました」
ビスコの死霊を浄化したい気持ちは分かるが、討伐後のよく分からない争いに巻き込まれる可能性を考えると、今回はビスコに我慢して欲しい。
藪を突っついて蛇が出るのは困る。
それに、何かあれば教会の責任問題となる……のだが、そこに変に関わってると面倒は避けられないだろう。
「代わりと言ってはなんですが……簡単なクエストでも受けていきましょうか。教会へのお布施が出来ない市民の方が、ビスコの浄化魔法を待っているかもしれませんし」
「それは良き考えですね、ホムラ。教会に居た頃には出来なかった……手の届かない場所へ向かう事にしましょう! 受付さん、何か依頼をお願いできますか?」
「はい! すぐに!」
俺の時は少々またされたんだけど……。
イケメンへの恨み言がまた一つ増えていくが「些細なことだ……」と、グッと堪えることにした。
ピックアップして貰った依頼の内、良さそうなのを幾つか選んで受けることにした。
だいぶ話し込んだ事で後ろに並ぶ人達をだいぶ苛つかせていたみたいだが、それを気にする俺やビスコではない。
なに食わぬ顔で、ギルドの外までやって来た。
待たされる覚悟がある俺は、人を待たせても良いという考え――師匠が毎回待たせるから待つのに慣れたとも言うけれど――まぁ、極端に解釈すると、許し合おうというやつだ。
「依頼をこなしながら宿でも探してみますか? 時期的に安い宿も空いてるかは怪しいですけど」
「そうですね。いつまでの野宿は危険ですし……身体や服も洗わないといけませんし」
「あっ、『シュッシュ』しておきます?」
「シュッシュ……ですか?」
疑問を浮かべるビスコに、鞄から取り出した芳香剤を吹き掛けた。しかもこの香りは師匠チョイスで俺が作ったオリジナル品である。
柑橘系の香りが鼻孔をくすぐる。表情を見るに、ビスコも嫌いな匂いではなかったらしい。
他にも数種類の香りがあるのだが……どれも師匠が気に入った香りを再現したやつだ。
――『雨の香り』だけは、何故か服に掛けると生乾きの臭いなるという、ちょっとした失敗作だったが。
「服の匂いは誤魔化せますから数日くらいなら大丈夫ですよ」
「服用の香水ですか……初めて見ましたね。もしや、流行っているんですか?」
「あー……どうですかね? ほ、ほら! 細かいことは良いじゃないですか!」
少し強引に話を切り上げて、ビスコと共に再び街の喧騒の中へと進んでいった。
◇◇◇
「神ラスピリアの名の下に、不浄なる魔へ安らかなる眠りを与えん。浄化魔法『天へと導く光』」
とある一軒家の前で、祈りのポーズを取ったビスコがそう唱えた。
俺の翻訳機が間違ってるとは言えないと思うのだが、何故か魔法の詠唱は普通に聞こえるのに最後の魔法の名前だけはラテン語っぽく聞こえるのだ。
イヤホンを外してみたら、頭から何を言ってるのかサッパリだっただけに、正否が分からない。
もしかすると、他の魔法だとラテン語以外の言語に翻訳される可能性だってある。
例えば……「真っ白になれ! ブラックアウト!」みたいなめちゃくちゃ簡単なそれが、必ずしも間違いだとは断言できない。
だから、そこまで気にする必要は無いのだろうけど……イヤホンを作った当人としては、気になる部分もある。
例えば翻訳で「ぱぴぷぺ」で、俺が「ぱぴぷぺ」と呪文を唱えた際に、今度は通訳が上手くいくのか……とかが知りたい。
(知りたくなったら――試すしかないよな。)
この世界の魔法の仕組みについては不勉強な為、よく分からない。でもきっと、魔素の変換というのに違いは無い。
「コホン……『――ルナ・ソムニウム』!!」
「何をしているんですか、ホムラ? ここでの依頼は完了です。次に行きましょう」
「あ、はい……」
やはり、見よう見まねじゃ駄目で……成功してたのかすら分からなかった。魔法なんて使う場合は緊急時でしかない訳で……。
俺の中で、魔法より錬金術の方が上だという前提があるから、失敗したとて悔しさは薄い。
イメージ力の問題だろうか? それとも呪文が決まっているのか?
錬金術においても魔素をどう代用するか、どう混ぜるかのイメージは重要だ。魔法もそれが当てはまるなら……ビスコにはビスコの魔法が、他の魔法師にはそれぞれオリジナルの魔法発動のやり方、呪文があると言えるだろうな。
「ビスコ、ひとつ聞いて良いですか?」
「はい、もちろん! 大丈夫ですよ」
「魔法の習得にはどれくらいの期間が掛かりました?」
「そうですね……今の魔法を習得するのにはそう時間は掛かりませんでしたけど、魔法を発動させるまでの基礎ができる様になるまでには、だいぶ時間が掛かりましたね」
なるほど……。価値観は人それぞれではあるけれど、俺はやっぱり錬金術の方が全然良い。
錬金術の凄さが揺るぎ無いものになっていく事に関して、その証明の為だけに、少しばかり魔法を知るってのもアリなのかもしれないな。
「大変なんですね」
「私にとっては他の道が無かったというのもありますけどね。ですから、錬金術のホムラもギルド職員の方もその他の方も……私からすれば大変な事をしていると同時に、とても凄い事をしていると思ってますよ」
「人格者ですね……」
「まだまだ、修行中の身ですよ」
非の打ち所が『腹ペコで天然』しか、今の所は無い。
下手すれば一部の貴婦人の方は、それすら長所と捉えてしまうだろう。
そんなビスコの隣を歩くと自分の劣っている部分が見えてしまう。
単なる実力なら師匠がいるから劣等感はそこまで感じないだろうが、外見だけじゃなく内面となるともうダメだ。
師匠より駄目人間じゃないという小さいプライドが、本当に小さいものだったと証明されていく。
「ビスコが居ると自分が劣ってると感じるんで、少し離れて歩いてもらってもいいですか?」
「ホムラ!? どうしたんですか、急に!?」
「いや、何となく……口から出ました」
「そうですか……びっくりしましたよ。綺麗事かもしれませんが、こういう教えを伝えますね――『他者と競い合って成長し、昨日の自分と比べて前に進むべし』。昨日の自分よりも、今日明日の自分が成長する為に、卑下するよりは、もっと自分を褒めるべきかと思いますよ」
成長する為に自分を褒める……か。
良い事を言ってくれるじゃないか。なるほど、なるほど。
でもね、ビスコ。笠を浅めに被りだしてから、街行く女の子達は、ビスコへ「格好良い」という言葉を掛けていくんだ。
その隣で俺が自分に「俺はイケメンだ!」なんて言ってたらどうなると思う? どうにかなっちゃうよ、精神的に!!
「うん、やっぱり距離を取って貰って良いかい?」
「だから、どうしてなんだい!?」
でも、少しはありがたい事を教えて貰って満足したし、串焼きくらいなら奢ってあげるのだって満更ではない。
と、言うことで次のクエストを遂行する前に、ブランチとしますかね。
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