第14混ぜ アイム、ゴーストバスター
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堂々と道の真ん中を堂々と歩いていく。……みたいな人間じゃない俺は、端の方をひっそりと歩いていた。
少し陽が傾き、もう少しすれば街の音は夜の喧騒へと変わっていくだろう。
「っと、ここか。ごめんくださーい!」
俺が訪れたのは、貴族の住宅が集まる区画にある内のナントカ伯爵の邸宅。庭が広く、いかにもな豪邸って感じだ。
貴族街だからといって、これといって特別な許可証が必要ということは無かった。不安ではあったのだが、割かしすんなりと来ることができた。
ただ、建物の綺麗さやゴミひとつ落ちてない道。警備らしき人物が徘徊しているといい……他の区画とはやはり違いがあり、歩きづらさは感じていたが。
「何用でございましょうか?」
門の所から呼び掛けていると、これまた“いかにもなメイド長”らしき女性が、屋敷の方から歩いてきて対応してくれた。
見た目と声からして五〇歳くらいだろうか? マナーとかに厳しそうな雰囲気が伝わってくる。
ここに来たのは、俺が受けたクエストに関係がある。
浄化対象の屋敷の持ち主がここの伯爵様だとかで、ギルドから発行された依頼書を見せ、鍵と見届け人を出してもらう様に指示があった。
俺を不審者の様な目で見ているが、伝えるべき事を伝えると、担当者を連れてくると言って、メイド長は屋敷へと引き返して行った。
「建物の広さで地位がある程度は察せるな……この規模の建物は少なかったし、伯爵って思ってたより少ないんだな」
家の外観、周囲にある建物を見て時間を潰していると、一人の男性とメイド長とは違う別の若い女性が屋敷から歩いて来た。
決して急ぐ素振りすら見せない……さすが貴族街にいる人物だな。
どうやら俺は客とすら思われて無いらしいが、それはまぁ……気にしないでおこう。
「貴方が冒険者の方ですね? この屋敷で執事として事務を任せられているものです。こちらは、メイドのナームと言います」
「ナームです」
「はぁ……どうも。今回クエストを受けさせてもらったホムラと言います」
男性の方は、白髪の混じった髪を綺麗に整えており、初老と呼ばれてもおかしくない見た目をしている。ただ、まだまだ現役って雰囲気があった。
女性の方は、オレンジ色の髪とメイド服を着ていること以外に特徴という特徴が無かった。これに関しては、キャサリンさんと比較してしまうから印象が薄くなってしまっているだけなのだが……。
「ふむ。まだ若いようですが……お一人ですかな?」
「はい。実際にその屋敷へと行ってみなければ何とも言えませんが、特に問題はないかと」
「そうでございますか。……正直に申しまして、魔法ギルドの人材には期待しておりません。この一ヶ月の間に、二度ほど失敗されていますから。そろそろ旦那様も教会へ頼もうと検討なさっているのです……いつまでも買った屋敷が使えないというのも考えものですらな」
「そうですか。なら、安上がりの人材が間に合って良かったですね」
期待してようが、してまいが俺には関係はない。
クエストを受けた冒険者が、失敗した話にも興味はない。
ただ……成長が遅いと言われている悪霊が、発見されてからクエストを発注し、それから更に一ヶ月という期間でどれ程強くなっているかだけが気になった。
それでも、クエストを受けない理由にはならないけど。
「……ナームはうちのメイド達の中で光魔法が使える者です。とは言っても自分を守るので精一杯でしょうが」
「彼女が案内と依頼達成の確認をしてくれるのですか?」
「はい。屋敷に住み着く死霊を討伐した際には、彼女から報酬の半分をお受け取りください。残りの半分はギルドに預けておりますのでそちらで……」
「分かりました。では、ナームさん案内をお願いします」
この執事さんが貴族の出身かは定かでないけど、平民の俺に対して、思ってたよりもずいぶんと丁寧に接してくれたと思う。
もっと、雑な対応をされると思っていた分、この伯爵家に対する個人的な評価は上昇している。
王制である以上、貴族と平民には埋められない差というものがある。
嫌な貴族もいれば、良い貴族もいるのはわかっているけど、やはり大きな括りとして、『貴族は楽ばかりしている奴等』という印象があった。
貴族には貴族なりの厳しさや大変さがあるのだろうが……毎日お肉ばかり食べてるのかと思うと同情はできない。
「ついて来てください。ご案内致します」
全然笑わないメイドさんだった。愛想笑いすらしないし、俺からは特に話し掛けないというのもあり、会話という会話がなく歩いていく。
キャサリンさんは言いました――メイドなら万能を目指すものです、と。
「あれですよね、メイドさんも大変そうですよね」
「はぁ……あなたに何が分かるんですか?」
「いや、知りませんけど。全然笑わないのでキツいのかと」
「よく、そこまでのうのうとしていられますね。二人失敗してると聞きましたよね?」
「あぁ、はい。聞きましたけど?」
「失敗すると言うことは……そういう事です。私はただの死体処理係です……なぜ笑えるでしょうか」
良い……人だ。まさかの良い人でした。無愛想とか言っちゃって申し訳ない。
そうか、二度も死体処理をしていたのか。そして、次に来たのがまだまだ年若い男。となれば、死を見越して行動するのは仕方ないことかもしれない。どうりで愛想も会話もない訳だな。
でも、このメイドさん……少し可哀想だな。
「……死体処理能力を買われて雇われてるんですね」
「……はい?」
「いえ、俺も死ぬつもりないですから……仕事できない人として、屋敷で肩身の狭い思いをするかもしれないと心配に」
前を歩いていたナームさんは立ち止まり、振り返った。
「そんな訳ないでしょ! ふざけてんの!? 雑用や罵詈雑言に耐えて毎日仕事してんのよ! あんたみたいなその日暮らしのガキに心配される必要は微塵も無いの!」
一息でそう吐き出して、再び歩みを進めた。
鬼の形相……額に血管が浮き出たかと思った。
超が付くほど怖かったが、ちゃんと人としての感情が残っているという事にちょっとだけホッとした。
俺が心配しても仕方のない事かもしれないが、死体処理は精神が削られていく。本来、あまり女の子がやる様な仕事でもないし。
誰かが見ていれば、ただ単に怒られただけに見えるだろう……正解だ。
これはただの、自己満足。
相手の気持ちはどうでもいい。
俺が満足できたのなら、それで十分だ。
夜道と言っていいくらい暗くなった頃にようやく曰く付きの屋敷へと到着した。
「ここですか……」
「はい。旦那様が安い費用で購入されたお屋敷です。全てを安く済ませようとした結果、未だに使用できない状況となっているのですが……。この屋敷の主は誰かに恨みを買っていたのでしょう。一家全員……」
「あっ、そういう事情は別にいいです。それより、この討伐クエストで手に入る素材は貰ってもよろしいんですか?」
「それは……まぁ、大丈夫でしょう。数年放置されていた屋敷ですので、小物程度なら無くなっていても誰も気付かないでしょう」
それが聞きたかった。
自分の中でやる気が溢れ出すのを感じる。死霊系の魔物から手に入る素材には、死霊系の力が宿っている。
それを素材に武器を作れば、誰でもゴーストバスターに早変わり。
ただ、扱いが難しい上に、一つあたりに宿っている力がかなり薄いため、必要となる個数が必然的に多くなる。
「時間が掛かりそうなんで、早速行ってきますね! ナームさんは、どうするんですか?」
「私は明日の夜明けにまた訪れます。ですから……仮に生きてたとしても、ここでお待ち下さい」
「はいはい、了解です。では、いきますか!」
ナームさんは振り返ることもなく、帰っていった。
門を通る前に、俺は装備を整える。
「『接着型壁歩き靴』オッケー。『聖水』腰ベルトに準備完了。『吸着ウェット短剣』、『装着暗視ゴーグル』も装備完了。……よし!」
手に持つ『魔力検知探知機』で屋敷周辺の蠢く魔力を持つモノの反応を調べると、屋敷の中に目立つデカい反応が一つと小さい反応は幾つか見付けられた。
「正面から……行くか」
ゆっくりと玄関へと近付いて、扉を開ける。
ビュンッッ――!!
「……っと!! いきなりかっ!」
慌てて扉を閉めると、その奥でパリンッ!! と花瓶の割れる音が聞こえてきた。
なるほど……こちらの存在も感知出来ているみたいだ。
俺は探知機をより詳細な設定に切り替えて、扉の奥の死霊がどこ辺りに居るのかを確認した。そして、短剣に聖水を染み込ませる。
「フロントの左奥と右通路か……。攻撃してきたのはフロントの奴か。なら、そいつからだ……なっ!!」
俺は扉を開けて、そのまま奥へと突き進む。
暗視ゴーグルの効力で、夜で明かりも灯っていない屋敷の中でも昼間の様に視えている。
――ビュンッ!!
またしても花瓶が飛んで来る……が、横に跳んで壁に着地して回避。そのまま壁を走り抜ける。
「――っと! 見付けたぞ……せいッ!!」
『キシャアアアッ――!!』
半透明の白い靄の様なものを短剣で切り裂く。
手応えは空を斬る感じで無いのだが、耳障りな音を残して消えていった。
残したのはもうひとつ――青黒い欠片の様な石。俺が求めていた『霊核の欠片』だ。
「うーん……粗悪って程でもないけど、良品って感じでもないか」
素材の声も聞き取りづらい。この欠片を集めて錬金し、『霊核』を作れば別の道具の素材となってくれる。
予想の段階ではあるが……日本の死霊の方が怨みが強い。
理由は幾つか思い浮かぶが、今は置いておいていいだろう。とりあえず、そのお陰で『霊核の欠片』の品質は良かった。
ここに居る一番大きい反応を倒して、ようやくそれなりに良い品質の欠片が手に入るだろう。
「次は右奥か」
屋敷に入った瞬間から、もう戦闘は始まっている。移動は基本的に走らなければならない。
止まっている時間が長ければ長いほど、どこからともなく物体が飛んで来るからだ。
それに、探知機の反応でどんどん集まってきているのが分かった。囲まれる前に切り崩していくのが定石。
「ハッ――!!」
壁を走り、壁から壁へと跳び、狙わせない様に動いて、天井から落下しながら死霊に短剣を突き刺す。
素材を回収したら、また走り出す。それを、作業みたいに繰り返していく。
「はぁ……はぁ……これで一階は見て回ったか?」
弱い死霊の数は多いが、問題はない。
短剣が吸い込んだ聖水の効力は、およそ十分から十五分程度。腰ベルトに取り付けた聖水入りの小瓶を既に三本は使っている。
一階を探し回って、地下への階段が無かった以上、二階に残っている敵が全部だろう。
「反応の大きさからすると、きっと未練がましい奴なんだろう……少し面倒だが、とっとと終わらせないとな」
夜明けまでのタイムリミットと、棚から金貨……とまでは言わずとも、何か素材を見付ける時間を確保するために、少し急ぐ必要があった。
そこで俺は、鞄から短剣をもう一本取り出した。
敵の強さは把握した。その上で、二階では素材の回収を後回しに、短時間での殲滅を優先させようと思った。
同じ様に聖水を吸着させ、対死霊武器に変化させる。そして……俺は一気に加速して、階段を駆け上がった。
全力疾走すればすぐ疲れるし、息切れもする。
自分はまだまだ師匠やキャサリンさんに追い付けないなと、どうしても考えてしまう。
それでも目の前の敵や周囲への警戒は怠らない。切り裂き、突き刺して、走り抜けた。
――それから約三分後。
「はぁ…………はぁ……っ」
あえて残していた最後の部屋の前で、俺は息を整えていた。
全力疾走しながら駆け抜け、この屋敷に住む死霊達のトップを残して二階の死霊は全て倒してきた。
複雑な攻撃を仕掛けてくるぐらい強ければ、もう少し倒すのに時間が掛かっただろう。
ビスコとの共闘の前に、丁度良い準備運動が出来たのは良かったかもしれない。
久々の実戦というのもあるし、緊張感や勘を取り戻す良い機会だった。
「まぁ……はぁ……、死霊系のさい……最弱、を、倒して……喜んでも、しょうがない……か」
息がまだ整わない。もう少し休憩が必要そうだ。
流れる汗はそのままで、鞄から飲み物を取り出して水分の補給をしておいた。
最後の敵が待ち受けているが、これは二択になると思っている。
問答無用で倒すか、“話を聞いて”倒すかだ。
最後の戦闘の前に、準備を整える。
「さて……仕上げといきますか」
二階中央の大きな部屋。そのドアを開けて、中に入っていった。
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