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第12混ぜ 腹ペコイケメン宣教師


お待たせ致しました!

また一人、仲間が増える予感……!!


よろしくお願いします!(´ω`)

 


 街行く人の多さ、露店やお店の数に圧倒される。

 王都に入ってまだ数分しか経ってないのに若干の疲労を感じていた。初めて都会に足を運んだ時を思い出す。


「いろんな種族の方がいらっしゃいますね」

「それそれ! キャサリンも面白いと思うでしょ?」

「えぇ、とても」


 師匠の高揚感が限界突破して、今にどこかへ行ってしまいそうだ。

 この王都で離ればなれになってしまうと、最初に目的地を決めておかないと再開するのは至難な事になってしまう。

 とするならば、目印になる様な目立つ建物の下が良いだろう。俺も外の様子を見てみるが……「これだ!」という建物が、ここからじゃお城以外に見当たらなかった。


「皆さん、もうすぐで冒険者ギルドの前に到着致しますぞ。キャサリン殿達との別れ、寂しく思う次第であります……」

「ご同行させて頂き、ありがとうございました」

「えぇ、私も楽しい時間でありました! あぁ、そうです! この後、お食事でも……」

「あ、そういうのはやってないので」


 さすがキャサリンさん。ここまで乗せて貰った人なのに、いざ着いてしまえば冷たい対応だ。目的の為なら手段を選ばない辺りが最高にクールである。

 おっちゃんにはそこそこ同情するが……。


「さ、ホムラ様。到着致しましたよ」

「あ、はい! で……師匠、この後どうするんですか?」

「そうだねぇ~。お腹空いたしご飯でも食べながら予定を考えようか」

「空いてるお店を探して参ります」


 おっちゃんの目の前でのやり取りだった。

 師匠は意図しておっちゃんの前でそんな話をした訳じゃないだろう。普通にお腹が空いただけだし、予定を考えるのも普通だと思う。

 ただ、すぐ近くにおっちゃんが居ただけで。

 冒険者達もさすがに視線を空中にさ迷わせていた。


「おっちゃん!」

「少年! まさか……!!」

「ここまで、ありがとうございました。では、また機会があれば」

「貴様! ここは空気を読まんか! バカ者ッ!」


 だって……ねぇ。同情はするが、俺関係ないし。

 むしろ、煙たがられてた分、俺の方がおっちゃんに対する好感度は低い訳で。当然の結末になっただけだ。さよなら、おっちゃん。良い出会いがあるといいな。おっちゃんの為に祈ったりはしないけど。


 冒険者達ともお別れをして、しばらく流れる様に歩いている人達を見ながら待機していると、キャサリンさんが戻ってきた。

 大衆料理店のような食事処を見付けてきてくれた。相変わらずの仕事の速さである。

 初めて来た地でそれをやってのけるキャサリンさん……やはりメイドよりも情報屋に専念した方が儲かるのでは、と思ってしまう。


「ホムラ様、人に流されて迷子になる危険性がございます。手を繋ぎましょう」

「たしかに人は多いけど、俺だってもう十五ですよ? 師匠からも何か…………師匠?」


 隣に居ると思っていた師匠が、消えていた。


「お手洗いなのでは?」

「そうかも知れませんが……嫌な予感しかしません」

「実は私もです。彼女が大人しく待っている方が可能性は低いでしょう……仕方ありませんね」

「どう、するんですか?」

「ホムラ様と彼女の発表会への申し込みは私がしておきましょう。ですから……ここで一度、解散です!!」

「えっ……解散!?」


 驚いた声を上げた俺を置いていくかの様に、一礼をしたキャサリンさんは何も躊躇(ためら)わずに、人混みの中へと消えていった。

 ただ俺は、通行人の邪魔にならないように、建物の壁際に背中を預けて(たたず)むしかできなかった。

 そう大胆に行動できないのが、俺の駄目な所かもしれない。良い様に言えば、慎重派ってやつだけど。


 街中のどこかしらには貼ってある紙を見ると、発表会は二日後、その翌日にメインの大会が開かれるらしい。

 ポケットには、幾ばくかの……それほど多くない(がく)のお金しかない。これで過ごせと言うことらしい。宿に泊まれば殆どが消えてしまう額で。


「はぁ……はぁ……うぐっ……」


 露店を出すにも担当のギルドへ申請をしなければならず、場所の確保だけでも待ち時間が凄そうだ。だが、勝手にすればバレた時に怖い。

 まさか、王都に来て途方に暮れるとは……思わなかった。


「うぅ……腹が空いて……ここまでか」


 とりあえず中央に向かって歩き出すか、ここら辺で過ごすか決めなければいけない。


「神ラスピリアよ……我を守りたまえ……」

「いや、人の足元でそういうの止めて欲しいんですが!!」


 背中を預けた壁のすぐ横には路地の入り口となっていた。覗けば少し怪しい雰囲気のある、路地裏ってやつだ。

 その路地裏と表通りの境目辺りに俺は居たが、居たのは俺だけじゃなかったみたいだ。

 立っている俺からだと、被り(かさ)で座っているこの人の顔は見えない。だが、声からすると年若い男性だと判った。


「それは失礼……失礼ついでに、何か食べ物は持ってないかい? ここ三日くらい水しか飲んでなくて、ね」

「あるけど、素性も知らない人に物をあげるなと言われてまして……あと、怖いし怪しいし汚いし」

「そ、そんなに言うのかい? 教えを守るのは立派な事だけど、困ってる人が目の前に居たら助けないとじゃない?」

「そうですか? 因果応報、自業自得、そういう事じゃないですかね?」

「なるほど……たしかにそうかもしれない。()く言う私も……」


 聞いてもいない事情を語りだした。

 だが、暇なのもたしかで、俺はなんとなくその話を最後まで聞いていた。

 名はビスコイト、歳は十八。

 物心付いた時には既に教会で育てられており、両親は顔も名前も知らないらしい。

 教会内で一般常識、魔法、武術の勉強をして、ゴースト系の魔物に有効な浄化魔法も覚えてそろそろ一人前になろうという時期に、何故か教会から追い出されてしまった。

 理由も分からず、だが戻ることも出来ずに、三日ほど彷徨(さまよ)って……とうとう空腹で倒れたみたいだ。


 そこに現れた――ただ近くに立ち止まっただけだが――それが俺で、つい話し掛けてしまった。という事らしい。


「へぇ」

「いや、それだけ?」

「まぁ……そうですね」


 両親が居ないのは俺も同じだ。

 ビスコイトは教会に育てられたらしい。俺は師匠に育てられた。それだけだ。

 でも、他人事と思えない気もしている。俺は追い出された訳じゃないけど、今現在一人だしな。


「おっと……私とした事が、いつまでも笠を取らないのは失礼だったね」


 ゆっくりと取った笠の下にあった姿は衝撃的だった。

 サラリと流れる銀髪の髪とエメラルドに輝く瞳。

 その顔の造形は、笑顔を作れば女性が何人も立ち止まる程に整っている。顔も声も中性的なイケメンがそこには居た。

 ただ、今は少しだけ(やつ)れて見える。空腹は本当みたいだな。


「その容姿なら、テキトーに女の子でも引っ掛けて飯を奢らせたら良いでしょうに……」

「まぁ、それも考えたんだけど」

「考えたんですか……凄いっすね、イケメンとなると」

「でも、いくら教会を追い出されたと言っても心まで変わる訳じゃ無いからね」

「……真面目なんですね。それで、若くて王都に来たばかりの観光客に見えた俺に声を?」

「気に障ったなら申し訳ない。謝るよ……でも、その通りだよ」


 まぁ、冒険者ギルドの前で右往左往していたら時期的な事も考えて、そう思うだろうな。

 ちょっと話した感じでは、悪い奴じゃないというのをなんとなく感じ取れる。


 だが、教会。

 追い出されたらしいが、教会所属なのが少し引っ掛かる部分だ。


 教会に所属していた人とうちの師匠の仲はかなり険悪だった。

 魔法みたいな神秘について、秘匿にすべき派筆頭のその人と、謎は全て解き明かしたい派代表の師匠とは、とにかく合わなかった。


 教会からしてみれば、何でも可能にしてしまう師匠の存在そのものが、神への冒涜(ぼうとく)と思われていたのかもしれない。

 師匠が「私が悪なら天罰が下るはず。それが無い内から君達が勝手に私を悪と判断する方が冒涜だ」と、(あお)ったのも良くは無かったのだろうな……。

 だから今頃きっと、日本の師匠を嫌っていた教会の奴等は、師匠と俺が居なくなったのを天罰だと喜んでいるに違いない。


「田舎出身で詳しく無いんですが……この世界の教会はどういう立場にあるんですか? ……神ラスピリア? とか言ってましたけど、それについても教えて貰えます?」

「おぉ! 教えを広めるのも我々の仕事のひとつだから、もちろん良いよ!」


 そこで、盛大にビスコイトの腹の虫が鳴いた。

 情報と交換……情報と交換……と何度も頭の中で繰り返して、何とか飯をあげる事に関して自分を納得させた。


「とりあえずここじゃ何ですし……座れる所にいきません?」

「それなら、近くに広場があるからついて来て。案内するよ」


 立ち姿の身長は俺よりも少し高く、細身の体つきをしていた。

 これはさぞモテるだろうし、笠を深めに被る理由も察せるというものだ。

 ちょっとだけフラフラな足取りだが、特に手を貸すとかせずに、ただ後ろをついて行った。



 ◇◇◇



「むぐんぐもぐ…………ングッ!!」

「あー、ガッツかない方が良いですよ? ゆっくりでも飯は逃げませんから……はい、お水です」


 言ったそばから水を飲み干して、また飯を口に放っていく。

 食べっぷりが、この細身から考えられない程だ。もうすでに、三人前(・・・)は食べている。


「お代わりが欲しいんだけど」

「まだ食べるんですか……?」

「だ、駄目かい? とある事情があってね……人よりも食べなきゃ力が出なくて」


 手持ちの食料を食べ尽くされる勢いだった。

 広場の端の方にある壁際、下が石造りで硬いがそこに座って昼飯にしていた。

 自分の分を既に食べ終え、ビスコイトが食べ終わるのを待っているのだが……まだ時間は掛かるみたいだ。


「ビスコイトさん」

「長いでしょう? ビスでもコイトでも、何でも良いよ? 好きに呼んで」


 長いというよりは、言いづらさが少しだけある。

 好きに呼んで良いならそうさせて貰おうかな。


「では、ビスコさん」

「ビスコ……うん! 良いね! でも、さんは付けなくて良いよ。それで、何かな? あっ、まだキミの名前を聞いてなかったね」

「ホムラです」

「ホムラ……良い名前だ。それで?」

「食べながらでも良いんで、教えて貰えますか? それによっては……まぁ、いろいろあるんで」


 いろいろは、いろいろだ。錬金術師をどう見ているかが最重要の判断項目。それ次第で今後、関わるかどうかが決定される。

 この世界では、魔法が秘匿されていない。だからセーフ……というのは安易な考えだろうし。


「私の所属していた教会は創造神でもあり、癒しの神とも言われている『神ラスピリア』を(あが)めているんだけど……今頃はきっとどこかの泉で休んでいるんじゃないかな?」

「……はい?」

「……ん?」

「なんか、神が存在しているかの様に言ってませんか?」

「ホムラ? さすがに田舎だからと言っても……嘘でしょ?」


 ビスコは冗談やからかう為に嘘を言ってる訳では……ないのか?

 本気で俺を心配する表情をしているように見える。俺が、おかしいのだろうか?

 この世界では神が居る。噂や伝説なんかじゃなくて本当に。それが本当なら……単純に、会ってみたい。話してみたい。知ったばかりだし(うやま)う気持ちなんて微塵(みじわ)もないが、興味だけは膨大(ぼうだい)に出てきた。


「か、神ってどんな感じなんですか?」

「どうって言われてもね……私も一度しか会ったことはないけれど、やはり神々しかったよ」

「……マジですか。それで? 全知全能の絶対的なナニかって感じですか?」

「うーん……昔も昔、はるか昔はそうだったらしいですよ。世界を創った後、様々な種族を造り、世界を管理する為に五つの魂に分かたれたと言われています」


 あ……一気に伝承っぽさが出てきたな。

 だが、ビスコは会った事があるって言うし。本当か嘘か、まだ半信半疑って所だな。


「じゃあ、絶対的な存在では無いと?」

「ガッカリしたかい? でも、五つの神に分裂したとはいえその力は本物と言われてるよ。分裂により担当する権能(けんのう)はそれぞれ違い、絶対的な神では無いですが……神のなさる事は絶対です」


 例えば水を(つかさど)ったり、例えば大気の管理をしたり、五神にその力を分担させてこの世界を維持している……という事か。

 それなら、分裂せずに一人の神でも問題無いように思える。と、なると……考えられるのは、思想の違いだろうか。

 人族ですらそれぞれ違うのに、この世界は種族すら多様だ。

 その地上の民を想って、分裂してくれたと考えると……やはり伝承臭くなってしまうな。綺麗な話に聞こえるけど。


「なるほど。神に会う方法はあるんですか?」

「数年に一度、気ままに姿を現すとされてますよ。ただ……いつ、どこで、誰の前にかは分かりませんけどね」

「まぁ、中々に面白い話を聞けました。うちの師匠が喜びそうです」

「それは良かった。ホムラ、他に聞きたいことはあるかい?」

「えぇ、では――錬金術師についてどう思いますか?」


 この答え次第では、教会全体とは言わずとも、ビスコとはここまでの関係だ。

 この場を静かに立ち去り、俺は後二日をさ迷う事になる。ビスコもビスコで生きていくだろう。

 さ、なんて答えるだろうか。


「錬金術師ですか……」

「はい」

「出会った事が無いので何とも言えませんね。言えませんが、話は聞いたことがあります。薬師にも魔法師にも何でもできる存在であると。特定の事しかできない私からすれば……憧れる存在でありますね」


 なるほど……なるほど。ビスコ、イケメンだけど嫌いじゃないぜ。


「ビスコ、追い出されたって事は暇なんですよね?」

「えぇ、行く宛もない浮浪者です」

「実は俺も二日後の錬金術師の発表会まで暇なんですよね」

「なんと! ホムラは錬金術師だったのですね。それは都合が()い……そのお力、是非見せて頂きたいものです」

「それは、お互いじゃないですか? 何か、隠しているんでしょ?」

「ふふっ……では、冒険者に(なら)い、クエストでも受けてみましょうか?」


 顔が良く、物腰柔らかく、信仰心があって、錬金術師に偏見が無いビスコ。歳上なのに、三つも下の俺に対しても丁寧な対応をしてくれる。

 俺が歩み寄りさえすれば、良い関係を築けるかもしれないな。

 後は実力だが……それがかなりのモノなら、今後も素材集めの手伝いをどうにかお願いしたい。


「えぇ、ではビスコさんの得意な事について教えて貰えますか?」

「……得意なのは死霊系(ゴースト)退治です。けど……先に言っておくと、その時の私を見れば怖がらせてしまうと思います。せっかく仲良くなれそうだと言うのに、それは忍びないですね」


 怖がらせる? 教会に所属していたなら、死霊を相手にするのは当然と言っていい程だ。

 死霊系には祈りの力で浄化させるか、清めた水『聖水』での浄化が無難な手段である。

 俺には信仰心が欠片程度しか無い為、浄化魔法は使えない。ただ、聖水なら“作れた”。

 目に見える程の力を持ってようやく死霊系(ゴースト)と呼ばれ、討伐対象となる。依頼の行き先は教会がメインで冒険者ギルドや魔法技術ギルドへ依頼が来る事は少ない。


 俺なりの倒し方は、魔素を手に集めてそれを死霊系の魔物に当てて時間を稼ぎ、チャンスがあれば聖水で浄化させる方法だ。

 やはり、本職の祈りによる浄化の方が効率が圧倒的だ。ビスコが仲間になってくれるなら、もしかすると不思議な素材の入手も可能になるかもしれない。


「それは、メイドのキャサリンより怖いですか?」

「キャ、キャサリン? その方は存じ上げませんが……私の追放の原因が“それ”なのかもしれません」


 表情を曇らせながらも、話さなくて良い時は常にご飯を食べている。

 もしかして原因は食欲(それ)なのでは? と思うのは仕方ないよな。

 とりあえず、次のお代わりは無しにしておこう。




誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)


ストックが減りつつあるから、頑張って貯めないと……(/。\)

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2020/1/11~。新作ラブコメです!٩(๑'﹏')و 『非公式交流クラブ~潜むギャップと恋心~』
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