第10混ぜ 旅支度
お待たせしました!
よろしくお願いします!(´ω`)
そろそろ街を飛び出すのじゃ……(この話では飛び出さない)
「私は、仕えさせて頂くホムラ様に嫌われているのでしょうか?」
「い、いえ! もちろん好きですよ? ……ん? 仕える?」
「やっぱりキャサリンが居ないとね。こっちでもお世話して貰おうと、連れて来ちゃった」
「いや『連れて来ちゃった』じゃないですよ師匠……。キャサリンさんもそれで良かったんですか?」
「彼女の頼みなら断る事はできません。地獄の底へでもついて行く所存にございます」
改めて思うとこの二人……いったいどういう関係なのだろうか?
師匠は自由奔放な性格をしている。そのお陰で交遊関係はとても広く、アトリエにもよく知り合いの人が訪れていた。
その中でもキャサリンさんは、特に親交が深いようにも思える。きっと、何かがあったのだろうな。
「キャサリンさん、日本で誰かに仕えてたのでは?」
「えぇ、ですからお暇を頂いてきました。それに、この世界の方が私に合うと彼女も言ってくれましたので」
「そうですか……まぁ、師匠とキャサリンさんが良いなら問題は無いですけど」
メイドならこっちの世界でも雇えるのでは? ……と思ったが、同じメイドでも情報収集力や戦闘力、炊事は省いても家事は完璧、それに錬金術師についても知っているキャサリンが一番だとは俺も思う。
貴重な物が多いアトリエの盗難防止にはもってこいの人材なのもたしかだ。ただ――。
「それにしてもホムラ様、見ない間に大きくなられましたね。どうぞ」
「両手を広げて待ち構えているようですが……飛び込みませんよ?」
「では、失礼して――」
「はやっ…………んぐっ!?」
一歩分だけ横へ滑る様に動いたが、見切られ正面から抱き付かれる。包容にしては力が強すぎるくらいで、危うく後ろに倒れ込みそうになった。
日本人なのに挨拶も洋装も名前すら外国的なのは、きっと憧れでもあるのだろう。
「メイド一人避けられないのはいけませんね。鍛えましょう」
「……違いますよ。受け止められる男になった証明をしただけです。修行はノーサンキューです」
苦しい言い訳だった。近くで見るキャサリンさんは、歳を重ねているとは思えない程に若々しい。元が何歳なのは知らないけど、俺が十歳の時にはもう、今と同じ雰囲気があったと思う。
「キャサリンさん、胸で苦しいので離れてください」
「おっと、これは失礼しました」
豊満な胸部は師匠と比べてしまうと師匠が可哀想だ。師匠が小さいという訳ではなく、キャサリンさんが大きい。ミルフさんは師匠と変わらないくらいか、少し小さいくらいだったか。
でもまぁ……そんな重りがあって、よくあれほどの速度で動けるよなって思う。
「キャサリンはとりあえず自由にしてて、散策とかしてて良いよ?」
「私に自由は不要でございますよ」
「ホムラ、キャサリンの分の『翻訳通訳機』を作ってあげて。その間はキミのをキャサリンに貸してあげて」
「良いですけど……師匠は何をするんですか?」
「ふっふっふ……暇だからギルドに行ってくるよ」
「ギルド……私もお供いたします」
俺が使っていた『翻訳通訳機』をキャサリンさんに渡すと、二人でアトリエから出て行った。
メイドを侍らして街を歩くなんて相当に目立つだろうに。
変なのに絡まれても師匠とキャサリンさんなら問題は無いと思うが、むしろやり過ぎないか心配になってくる。
「とりあえず、作りますか!」
二年前に、戦場になったらしき跡地の近くを通ったことがあった。魔物の死体は無かったから、人と人との争いだったのだろう。
その時に、死体から一部使える部位を取ったのが、今も腐らずに残っている。死体をそんな風に扱うのは普通の倫理的にはアウトなのだろうが、こっちは普通では無い。
錬金術師からすれば人だって世界の一部だ。大きく見れば素材でしかない。そのせいで、錬金術師は異端者中の異端者と一部では思われているのも事実ではあるのだが……。
特に教会の者達とは、その一点だけで仲が悪くなっている。教会側も、裏で生け贄の儀式を行っているのは棚に上げて、だ。
「キャサリンさんが使う物だから、メイド感が霞まないデザインにしないとな」
今日は錬金が沢山できているな、と少し嬉しくなってきた。
◇◇◇
キャサリンさんが来てから一ヶ月くらい経っただろうか。
資金稼ぎに錬金術師用のクエストを受けたり、素材集めの為にミルフさんを乱用したり、文字の勉強をしてみたり。
波乱という波乱もなく、平凡かと言えば師匠がいるから平凡とは言えない毎日を送っていた。
炊事はほとんど俺が担当している。
その他の雑用や、師匠の相手をキャサリンさんが請け負ってくれているお陰で、錬金術を学ぶ時間は前よりも増えていた。
毎日何かしらで注意を受けるのだが、キャサリンさんが来てくれたのは良かったと、今は思っている。
ただ……時間がある筈の俺よりも、キャサリンさんの方が先に文字の習得をしていたのは、かなり落ち込んだのだが……。
「ホムラ様、少し休憩をなされてはいかがですか?」
「あぁ、うん。これが終わったらね……あと一時間くらいで完成すると思うから」
「では、それに合わせてお茶の用意を致しますね」
――それから一時間後。
そろそろ完成の予感がしていた時に、アトリエのドアが勢いよく開かれた。
「ただいまっ! 面白い情報を見付けて来たよ!」
「……師匠。静かに入ってこれないんですか?」
「お帰りなさいませ……して、面白い情報とは?」
師匠が静かにしている時なんて錬金している時ぐらいなのだが、言わずにはいられなかった。
面白い情報があるらしいが、それを面白いと思っているのは師匠だけ……なんて事も多々ある。話を聞き終えるまでは、先走って了承なんてしてはいけないのだ。
「錬金術の発表会が王都で開かれるんだって!」
「師匠、ナイスジョークです。たしかに面白い話ですね」
鼻で笑っちゃうくらいに面白い。
参加する人が居るのかも怪しいし、本当に発表会が開催されるのかも疑わしいレベルの話だ。
「いやいや、これが本当らしい。武術大会、魔法演舞発表会みたいな催しが王都である……言うなれば、お祭りみたいなものがあるんだって!」
「そこで、錬金術の発表会ですか? その二つに比べて地味過ぎなんじゃ……?」
「そうだねぇ……参加する人は少ないし、見に来る人も少ないって言ってたわ。やっぱり一番のメインは武術大会みたいだし」
そうだろうな。
片や、作ってきたアイテムを発表するだけ。片や、国中から集まって来た猛者達がしのぎを削る大会。
どっちが見たいかなんて比べるまでもない。
「でも、ここはあえて参加しようと思います! 良い考えとは思わない? キャサリン」
「良き考えかと」
「これで二票だね。決定!」
「師匠……キャサリンさんを味方に付けるのは卑怯じゃありませんか?」
「まぁまぁ、良いじゃないか。王都にも行ってみたいと思ってたし……一度行っておけば後からどうとでもなるしね?」
師匠の言う「どうとでも」というのは、きっとアレだろう。
世界を繋げられる師匠が王都とこの街を繋げるゲートを作れない筈が無い。
ただ、条件はちゃんとある。それは、自らが王都に行くこと。ゲートを繋ぐ為の場所を確保しなければならない、というものだ。
可能ならば、王都の何処でも良いからアトリエとなる場所を借りる事が好ましいだろう。賑わっている王都とこの街を瞬時に行き来できるメリットはかなり大きい。
「……分かりました。乗り合い馬車で向かうんですか? それとも他に方法とかあるとか……?」
「お金は節約したいしね。キャサリン、王都へ向かう人がいるかのチェックと、それ込みで諸々の手配をしておいて。数日中に出発できるのが良いかな」
「かしこまりました。では、あらゆる手段を用いて手配してきます」
師匠の雑な頼みに対し、何やら怖いことを告げたキャサリンさんは、いつものメイド服姿のままでアトリエを出て行った。
行くと決まったのなら、俺も準備をしなればならない。主に食事に関しての準備だ。師匠は意外と食に拘りを持っている。簡単な携帯食では、きっとブーたれてしまうだろう。
「ここから王都まで何日掛かるか師匠はご存じですか?」
「さぁ……ね。ただ、馬車でも一週間近くは掛かるみたいだよ? 遠いよねぇ~、一日に五〇キロ進むとしても、三五〇キロだ」
「遠いですねぇ。移動に飽きそうです」
「風景をゆっくり楽しむくらいの気持ちで良いんじゃない?」
「暇を潰せるアイテムとお菓子の準備だけは……十二分にしておきますね」
この街の外へは何度も行っているけれど、他の街に行った事はまだない。
アトリエを完成させる準備や、その日暮らしの為の資金稼ぎとかで余裕という余裕は無かったからだ。
ここが、どこかの伯爵様の領地で、その中でも大きい方なのは知っているが……逆に言えばそれくらいしか知らない程度の関心しか持っていない。
貴族制に関しても、特に思うことは無い。別の種族に関しても驚いたのは最初だけで、今はそれが当然の常識だと受け入れている。奴隷が売られていたとしても、可哀想という感情が出るくらいだ。
無関心ではなく、興味がないだけだ。
その代わり、素材となり得る植物や生き物や鉱石なんかについては、めちゃくちゃ関心がある。
「師匠も旅の準備くらいはしてくださいね?」
「何か持って行く物とかあるっけ……?」
「はぁ……“ポケット”に何でも入るのは知ってますけど、何かが起きた時の準備はしてくださいね」
「はいはい、キミはそういうとこ真面目だよねぇ」
旅というのは心が踊る。が、ここは日本ほど安全な場所ではないのだ。盗賊も出るし変な生き物だっている。
未知に出会えるかもしれないというワクワク感はあるけれど、どこにだってリスクがある。そういう世界なのだ。
「それと、一番大事な発表会で発表するアイテムです。師匠は決して本気を出さないでくださいね? 争いの種にしかなりませんから」
「ふむ……それは困ったな。本気とそれ以外の加減が分からないぞ? テキトーにやっても何かしら出来上がってしまうからな!」
「くっ……我が師匠ながらムカつく発言ですね。師匠はジョークグッズ程度にしてください」
「そうかい? なら、パパっと何か作っちゃおうかな?」
「他の参加者もその実力も発表の仕方も分からないですし……俺も見せて困らないアイテムを作ろうと思いますよ」
その前に食べ物の準備もあるし、移動中の暇潰しも作らないといけない。その上に発表するアイテムとなると、今夜は寝れそうにない。
キャサリンさんの事だから、数日中に王都へ向けて出発する環境を整えてくれるだろう。
と、なると……明日までに全てをやりきらないといけない訳だ。
よし、まずはいつも夜通し作業する時に飲むドリンクの錬金からするとしようか。
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