第1混ぜ 師匠と弟子は異世界へ
異世界転移、アイテムチートものです!
よろしくお願いします!
ストックのある内は、2日に1話くらいで更新予定(予定は予定であり……)
街灯もほとんど無い暗い路地裏をひたすら走る。追っての数は分からない。
ただ、追っ手の所属する組織はハッキリと分かっている。『国際錬金術機構』それに所属する取締り専門の部隊だろう。
裏家業である錬金術師にも、守らなければならない法というものは存在しているのだ。
「はぁ……はぁ……」
その組織から逃げているということ。つまり、そういうことだ。
裏家業にも種類はあるが、どれも法を犯せば危険な存在と認識され、消されてしまう。ルールを破ればどうなるか……例えその業界のトップだろうが問答無用である。
現に、錬金術界隈ではトップである“師匠”がやらかしたせいで、弟子の僕までこうして逃げている始末なのだから。
「し、師匠! 今回は何を“やらかした”んですか!?」
「失礼な! それだと私がいつも法を犯しているみたいじゃないか。今回はちょっと……その、惚れ薬をだね」
「ちょ!? それは第二級禁忌じゃないですか! 最悪だ……捕まれば終わりですよ! はぁ……駄目だ、疲れた」
――惚れ薬。数百年前は表の世界でも普通に横行していた代物ではあるが、現代になってその効力が問題視され、第二級禁忌に指定されている。
第三、第二、第一と危険性のレベルによって分類されるそれは、錬金術という特殊で強力な術を扱うにあたって、守らねばならないものだ。
バレなければ問題ない。たしかに、その考えが横行しているのも事実だが、バレたら追われる。捕まれば……良くて道具を作る道具扱い、最悪は道具レシピの没収だ。
道具レシピの没収は、アイテムを錬成するタイプの錬金術師にとって、錬金術師生命を断たれたと同義である。
錬金術師のタイプとして、特殊な陣を描きあらゆる物質を錬成するタイプ。それと、素材と素材を掛け合わせて新しいアイテムを錬成するタイプに分かれる。
どちらにも一長一短あるものの、立派な錬金術師となるには相応の時間が掛かるのには変わらない。
僕と師匠は後者のタイプであり、日々あらゆる道具を作り出している。それは当然、試行錯誤の結果で大半はオリジナルだ。
そのオリジナルが没収され、他の錬金術師に公開されればどうなるか……組み立てた積み木が崩される様に、今までの全てが終わりを告げることになる。
今の錬金術業界でトップに君臨する師匠のレシピが公開されれば、その成果から錬金術業界は一気に裏家業の全てを牛耳れるだろう。
ただそれは、新たな抗争を生み出す結果にしかならない筈だ。
僕はそこまで考えて、走って汗を掻くほど熱いのに背中に寒気を感じた。
まだ子供である僕が追跡者からどうにか逃げられているのは、錬金術で作った靴の補助があってのことだ。子供や大人が関係なくなってしまうのも、錬金術の怖さのひとつだろう。
「ヤバいですよ、師匠! 師匠の婚活が上手くいってないのは承知してますが、割りに合わないですって!」
「し、仕方ないでしょ! とりあえず――くらいなさいっ!」
振り向きながら、師匠が得意とする攻撃系アイテムを空中に無造作に放り投げる。
「――ッッ!! 危ないじゃないですか!」
「誰にモノを言ってるの? ちゃんと“敵”だけに飛んで行くわ!」
師匠が言うように、『追尾型ミサイル弾』は背後を追ってくる者達だけを目指して飛んで行った。
しかし、相手も錬金術師を相手にする組織の人間だ。少しの足止めにしかなならない。
「面倒ね……ホムラ、別に『この世界』に未練は無いわよね?」
「何言ってるんですか、師匠。そんなの……あるわけ無いでしょ?」
僕には両親がいない……らしい。気付いた時には師匠が居て、師匠と暮らし、師匠と錬金術の道を歩んで来た。ホムラ……焔来洲という名は師匠から貰った名前だ。
師匠が居て、錬金術が出来るのならば……別に錬金術業界を抜けたって問題ない。
僕は別に認定試験を受けた訳では無いけれど、師匠はSランクの錬金術師だ。むしろ、師匠の方が心配である。
「ふっふっふ……あんたコレ、分かる?」
師匠が横に並んで見せてきた物は、手の平サイズだが星形の光輝く石。とても綺麗だ……だが、見たことは無い。
「何ですか、これ? 綺麗ですけど……」
「第一級指定を越えて、失われたとも言われた、むしろ誰も知らないレシピのアイテムよ」
「……は? 嘘……ですよね? それって……」
「特級禁忌アイテム『世界渡り』――行っくわよぉ!!」
師匠が僕の手を持ち、アイテムを目の前に放り投げる。
いかにも別空間に繋がってますよと言わんばかりに空間を切り取り、その輝きの中へ僕と師匠は突っ込んで行った。
僅かに浮遊感を感じた後に、そのまま僕は気を失った。
師匠……この世界ってそういう事ですか。
◇◇◇
背中が痛い。でも、風が心地良い。風に靡く草の音も落ち着く。
もう少し寝ていようという気持ちになるが、自分がどういう状況かを思い出して、跳び起きた。
「ど……どこーーーーーっ!?」
見渡す限りの草原。見渡すと言っても月明かりで視える範囲に過ぎない。が、ある程度の距離はハッキリと視認できた。
自分で出した声の大きさに自分で驚いていると、同じ様に近くで倒れていた師匠も目を覚ましたみたいで、起き上がった。
「んん~っ! おぉ、成功してるじゃないか。何処かは知らないけど」
「し、師匠……いろいろ聞きたいことはあるんですけど。『世界渡り』なんてアイテムどうやって作れるって言うんですか」
偶然じゃ出来るはず無い。いくら師匠が凄いとは言ってもレシピすら無いと言われているのだ。
「私だって、知らないさ。作れちゃったんだからさ」
「これだから師匠は……感覚派を師匠に持つ僕の気持ちが分かりますか!? これでも僕は正統な理論派なんです! 錬金術は学問派なんです」
「ふぅ……君は私の弟子なのにね。錬金術は才能だよ、君だってそれは理解しているだろ?」
師匠の言う通り……魔力を操る才能、新しいものを閃く才能、なにより素材の“声”を聞く才能が一流になるには必要だ。
師匠にそう教えられた。だけど、師匠は素材の声を聞いた事が無いらしい。なのに、だ。なのに、師匠は圧倒的な感覚で素材を選び出し、高品質のアイテムを作り出す。
感覚派が理論派に嫌われる理由として最もなのが、その感覚ひとつで理論を越えていくという、圧倒的な才能を持つ者がいること。
つまり、師匠は割りと嫌われ者だったりするのだ。特に理論派で師匠に次ぐナンバー2だった人には。
「いつもの言い合いになる前に、とりあえず状況の整理でもしましょう……」
「それが賢明だね」
「……はい。で、師匠もここがいったい何処なのかを把握して無いんですよね?」
「まぁ、地球じゃないという事は分かっているけどね。とりあえず異世界とでもしておこうか」
地球ではない異世界。追っ手から逃げる為に世界を渡るなんてクレイジー過ぎて、師匠に対してちょっと引くがそれほど驚きは無かったりする。
学校も行っていた訳じゃないし、本当に未練は少ないけども、いざ突然離れてしまうと唐突にジャンクフードが恋しくなる。
これからどうなってしまうのか、それを気にするのは今更で、とりあえず散策しようと師匠はその内言い出すだろう。能天気なのだ、師匠はいつだって。
「あの工房はどうするんですか? 荷物とか置いて来ちゃいましたが……」
「あぁ、それは大丈夫。必要な物は“持ってる”し、道具は私とキミ専用だから」
師匠がおもむろに上着のポケットから果物を取り出す。
マジシャンも驚きの所業だが、ちゃんとタネはある。服に錬金術で空間を繋げる術を施しているだけだ。
どこに居ても、特定の場所から置いてある物を取れるし、送ることが可能になる。錬金術師はとにかく物が溜まっていくし、安全な場所を倉庫として持っているのは普通のことだ。
道具に関しても、自分の血を一滴垂らして作ればその人専用に作れるのは常識で、アトリエにある物はだいたい僕と師匠専用だ。組織の人に壊されることはあっても、悪用されることは無いだろう。
「なら、良いのですが……」
「とりあえずこっちに“も”工房は欲しいね」
「……も?」
「そうそう。今はランダムなこの『世界渡り』を改良して、いつでも日本とこの世界を行き来できる様にしたらさ、素敵じゃない?」
師匠はいつもこうである。こうした方が素敵! こうした方が良い! その考えだけで突っ走る。でも、きっとそれが師匠の理念であり、才能の源。
あぁ、きっとあの台詞が出る頃だろう。なら、前振りはちゃんとしてあげないとな。
「師匠、そんな事は絶対無理ですよ」
「ふふん! 錬金術に不可能なのは死者の蘇生だけさっ!」
つまり、不可能はほぼ無いという事ですね。師匠。
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)
あらすじって苦手マル(/。\)




