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侍女ハンナと剣術大会 2

 さて、コーディアル様のお支度は無事に終わりました。これから先は自由時間です。私は読書をしたいので本を片手に談話室へ来ました。そこに、ラスがあらわれました。紺色の少し大人びたドレスに着替えています。髪は編み込んであり、添えられているのは可愛らしい髪飾り。


「ハンナ、本当に行かないの?」


 ラスの問いかけに、私は大きく頷きました。剣術大会は盛り上がるし、城下街もお祭りのように賑やかになりますが、正直飽きています。毎年似たような露店、毎年同じ優勝者。よって、今日は読書をします。コーディアル様がフィズ様の姉君からいただいた煌国の古典文学。コーディアル様は大変お気に入りで、読了したので私にも貸してくれました。


「ええ、行かないわ。紅葉草子を読むの」


「コーディアル様といい、恋愛小説に夢中になるなんて珍しいわね」


 私はまた大きく頷きました。


「それも面白いけれど、煌国辺りの文化が珍しくて楽しいのです」


 コーディアル様がフィズ様と煌国を訪れる日にちはまだ決まっていません。何でもフィズ様は「私の妻だ」と煌国皇居にて自慢したいらしいからまだ行けない、とのこと。何それ、その理由。まったく、それなら早くコーディアル様を面と向かって口説きなさいってもんですよ!


「ふーん。オルゴ様もガッカリね。まあ、伝えておくわ」


 突然、オルゴ様の名前が出たので私はラスに背中を向けるのを止めました。


「オルゴ様? ガッカリ?」


 ラスが大きなため息を吐きました。


「昨夜、談話室でアクイラ様とオルゴ様が演舞にて参加するので是非見に来て欲しいって話をしていたじゃない」


「だから、侍女達総出で観覧に行くのでしょう?」


 私が首を傾げると、ラスは両腕を腰に当てました。


「その時、誰を見ていたか覚えてなくて?」


 私は思わずラスを指さしました。慌てて指を揃えて掌で示すに変えます。まだまだ貴族娘の教養や仕草が身に付いていません。危ない、危ない。


「アクイラ様と熱視線で見つめ合っていたじゃない」


「熱視線で見つめられていた、の間違いよ。訂正なさい。いい? あの方は私の掌の上なの。モンタギュー伯爵の次男や伸び代あるライフェルト子爵の長男なんかと比べて、天秤にかけて()()()()()


 あまりにも突然、ラスがラスからぬ発言をしたので私は茫然としてしまいました。ラス、言葉とは裏腹に顔が真っ赤です。これは大変珍しいです。どちらかというと、いつも余裕たっぷりのラス。つまり、これは、どういうこと?


「ラスさん、お待たせしました」


 後輩エミリーがひょっこりと談話室に顔を出しました。可愛らしい桃色のドレスです。タレ目で少し丸顔の、柔らかい雰囲気のエミリーに大変よく似合っています。


「ラスさん、フィズ様とアクイラ様、オルゴ様の演舞が楽しみですね。それにアクイラ様とオルゴ様はゼロース様に挑むと大会の方にも参加。大張り切り。それで若手騎士も張り切っていますし、昨年よりも絶対に目の保養です……ハンナさん。何故まだ着替えていないのですか?」


 目を丸めたエミリーに、私は首を傾げました。2日くらい前に行かない、読書をするという話をしていた筈。


「だから読書を……」


「昨日、あれだけオルゴ様に応援に来て欲しいと頼まれたのに?」


 え? 何だって? 全く記憶にありません。私はエミリーに向かって首を横に振りました。


「コーディアル様の鈍感力はこの侍女のせいですね! あーあ、オルゴ様お可哀想に。日頃から冷たくあしらわれ、面と向かって話をしてもこれ」


 エミリーがツカツカと私に近寄ってきました。次はラス。2人にソファの方へと追い込まれます。ソファに足が当たり、私は座ってしまいました。


「つ、冷たくあしらう? 話をしても?」


 そんな記憶はありません! 昨夜、談話室にてアクイラ様がずっとラスを見つめながら、爽やか笑顔だったのは覚えています。それはもう、ワクワクしていましたから良く覚えています。対するオルゴ様、ぼやぼや。何を言っていましたっけ?


「やあハンナ、精が出るな。どれ、重いだろうから俺が持とう」


「まあオルゴ様。仕事を奪わないでくださいませ。雨による川の氾濫防止の話を聞きました。 いつもいつもありがとうございます」


 エミリーとラスがわざとらしい演技をはじめた。特にラス。わざわざ低い声を出して、オルゴ様の真似? それは、先月くらいのオルゴ様と私のやり取り。


「おはようハンナ。先日、中々美味しいチーズを食べられる店を聞いたんだ。それで、その、行ってみたいが女性が多いようなので付き合ってくれると助かるのだが今度の休みにお願い出来ないだろうか?」


「もしやそれは、バベラ・スミス店ですか? ターニャ様やベルが行きたい、行きたいと話していましたよ! それに夜間だと治安が不安だとも。オルゴ様がご一緒なら安心ですね」


 これは確か2週間くらい前のやり取り。私とオルゴ様の会話。廊下で少し話しただけなのに、どうして細かく知っているのだろう? あと、この会話が何だというのだ。


「不思議そうな顔をしない!」


「不思議そうな顔をしないで下さい!」


 ラスとエミリーが迫ってきて、私はソファの背もたれに背中を引っ付けました。なんか、怖い。


「素直に手伝おうと言えば良いだけですけどね。それに、まあ誘い方も悪いですけどね」


「主語が無くて遠回し。まあ、普通は察しますけどね。どうせハンナのことだから、本気で断っていないと思ったわ。この、ぽややん娘! 面倒だからあとは自分で考えなさい」


 行きましょうとラスが告げ、エミリーはラスと共に談話室からそそくさと出て行きました。


 話の流れ的に、アレです。これは、そういう意味です。


 えええええええええ!


 私は心の中で大きく叫びました。私はオルゴ様に誘われていたらしいです。


 他には、他には何かあったでしょうか?


——剣術大会の後、騎士団と打ち上げをするのだがハンナもどうだ? 侍女達も呼ぶ方が大騒ぎにならないだろうとゼロース様やアクイラと話をしているんだ


 これは昨晩。アクイラ様とオルゴ様が剣術大会の決起集会だと談話室にて騎士達にはお酒、侍女達には煌国のお菓子を配ってくれました。その後、解散した時にオルゴ様に聞かれたのです。何故、皆がいるうちにその話をしなかったのか疑問でした。


 えっと、つまり、私が個人的に誘われたってこと?


——そうなんですか! ターニャ様から皆へ話してもらいますね。私は明日の夜はコーディアル様の浮腫み退治です。公務の後は辛そうですから。


——そ、そうか。そうだよな。コーディアル様を労う必要がある。いや、明日こそフィズ様がコーディアル様に近寄れるようにしよう。共に方法を考えようか


——合点承知です! このハンナがフィズ様をけしかけておきます! 打ち上げ、楽しんで下さい!


 ふむ。思い返してみると、会話が少し噛み合っていない? オルゴ様に「2人でフィズ様対策を考えよう」と言われていたのか私。昨夜は気がつかなかった。


 鈍感大会の優勝争いは私とコーディアル様の2人だったようです。


 ……。


 ……。


 ……オルゴ様? 働き者でいつも陽気なあの方が私?


 コ、コ、コーディアル様、先に鈍感優勝争いから抜けたようですが、私はどうするべきでしょう?


 侍女ハンナは今日もこう思います。早くくっつけ皇子と姫。というより、早くフィズ様の気持ちに気がつけコーディアル様。


 この後どうするべきなのか、手本が欲しいです!

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