純人間の少年4
「ま、間に合った…!」
ギリギリで教室の前にたどり着いたアスラである
「え?かたっ!?」
扉が開かない
どんなに力を入れても開かない
「ふひひ、お主は遅刻するのじゃあ」
扉から声がした
これはそのままの意味である
扉が声を発したのだ
「数々の試練を乗り越えてきたようじゃが無駄じゃ。この扉は絶対にひらかーぬ!!」
「いいから開けて」 ドンッ!
アスラは扉を叩いた
「いたっ!?なにするんじゃあ!?」
「開けて」 ドンドンッ!
「痛い痛い!!分かったのじゃ。開けるから叩くのを止めるのじゃあ!!」
扉から煙のようなものが抜け出ると扉はスッと抵抗なく開いた
「こういう事はやめてって言ってるでしょ。そうしなきゃ痛い目にも会わないのに」
煙は形を変えて着物姿の童女となる
「だってお主がつくもの事を構わないから……」
「だからってやっていい事とだめなことがあるよね?」
「……構って欲しかったんだもん……」
「扉に乗り移るのはやりすぎでしょ!」
「むー!なんじゃなんじゃお主なんてもう知らん!!」ポフン
童女の姿が消えた
彼女は鬼と同じく極東にいた固有種と人間が混ざったもの
「つくもがみ」である
彼らはものに自らの思念を宿して操ることができる。先ほどのはつくもの思念体であった
最後の試練を乗り越えてアスラは教室へと入った
「お?今日は遅刻じゃないのね」
教壇に立つケンタウロスの教師が感心したように言う
「なんとか間に合いました」
「まあ、生傷の絶えない通学路みたいだからあんまり無理はしないようにね?なんだったら先生が毎朝迎えに行ってもいいのよ」
ケンタウロス族が本気で走れば時速120キロは軽く出る、アスラの家ならばものの数分で学校まで着けるであろう
「それには及びませぬ、殿にはこのララスがおりますゆえ!」
教室の最前列にいたララスが立ち上がった
「あのねえララちゃん、あなたの羽が起こす衝撃波で毎日どれほどの被害が出てるか分かってるの?」
「ふっ……ざっと一日あたり300といったところでござろう」
一部の虫人は瞬間的に知能レベルを限界まで引き上げることができる
被害総額や人数などといった曖昧なものであっても瞬時に把握、計算できる程度には頭の回転が上がる。そうでなくては音速を超えた飛行を地上で行って死なず殺さずなんて事は不可能なのだ
「……なんで分かってるのかしら、というか分かっててやってるなら後で請求書送りつけてやろうかしら」
「それは勘弁願いたい。あまり金銭面では潤っていないのだ」
「それは冗談よね?あなたのおうちは街の中で上から数えたほうが早いくらいのランクなんだけど」
「あれは巣でござる。一族分が入るにはあれくらいでも手狭であるし一人分の分け前などたかが知れてるでござるよ」
「……あなた、今一人暮らしよね」
「今後増える予定でござる。その……つがいになる方はもう決まっている……ので……確定事項といっても良いくらいでござる!!」
チラチラとアスラのほうを見るララスの頬は赤く、触覚も落ち着き無くぴょんこぴょんこ動いている
「へえ、うらやましいですねそんな方がいるなんて。どんな方ですか?」
ララスの後方に座っていたフウラウが話に加わる
「それは……その……誰というか……」
チラチラとアスラを見るララス
「ちなみにアスラさんなら私が先約ですよ?」
「「「「「は?」」」」」
いつものことと静観していた教室が一気に騒がしくなる
「な、何を言ってるんですか!?」
驚きでNINJAキャラがララスから抜け落ちた
「その証拠に見てください」 パチン!
フウラウが指を鳴らすとアスラの懐から蔦が伸び、左手の薬指に巻きついた
「あれはアイビーです。花言葉は永遠のつながり。それをもっているということはつまりアスラさんは私のものということです」
「いやいやいやちょっと待ってフウラウ!?そんなこと聞いてないしこの袋って香り用のじゃないの!?」
「アスラさん、女はうそつきなので安易に贈り物を受け取ってはいけないんですよ?」
ヒュン!!
教室内に突然風が吹いた、次の瞬間にはアイビーはズタズタに引き裂かれて床に落ちていた
「認めない……ギギ……絶対に……ギギ……認めないんだから!!」
叫ぶララスの姿は先ほどまでとは変わっている。より虫に近い姿になったというべきであろうか
発声にも少し不自然な擦過音が混じっている
「いいですよ、ここでやっても。まあ、あなたに勝ち目はありませんが。虫風情なんてつぶしておしまいです」
「ギギ……殺す」
虫人とアルラウネの一戦が今、始まろうとしていた