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067. 逆

 ダリアに届けるべき物が揃って、ギルド本部長にも会えたなら、もう東進すべき理由は無くなった。次は逆進、王都外れのサーラムが目的地だ。

 しかしながら、もうラズレ公国に二度と戻らないのかと言われると、断言はしづらい。

 特に本部長のエマには、直接会う必要が出てくる可能性もある。


 長い会議の翌朝、皆はギルドに再集合した。

 王国へ旅立つ前の最終確認中、雪が蒼一へ提案する。


「エマさんとも婚約したらどうですか? 帰ってこれますよ」

「うーん、それはそうなんだけどさ。形式だけとは言え、ババアと婚約するのは気分的に――」


 一瞬の鬼神登場後、何も聞かなかった顔をして、エマが問い返した。


「婚約というのは、どういうことかしら?」


 彼は霊鎖スキルの説明をして、魔力リンクの便利さを訴える。

 話を理解した本部長は、出発を数時間待つように要求した。


「あなたの持つ念話の小型魔法陣、それに細工をしましょう。絆の指輪に似た効果を持たせられるはず」

「そりゃ助かる。ゾッとしないからな、婚約相手がバ――」


 高速で貴婦人と鬼の顔を切り替えるエマを見て、蒼一は変な汗が出る。

 これ以上はいけない。


 この十五番目の女神は、独力で大陸ギルドを立ち上げただけのことはある魔法の実力者だ。

 ハナもそうだが、桁外れの魔力を持つ女神がちゃんと学べば、そこらの魔術師が敵う相手ではない。

 エマは特に補助魔法に優れ、絆の魔法陣なら自作できるということだ。

 彼女は街の細工師の所へ、制作道具を借りに出向く。


 その間、蒼一たちは魔物の素材を、マーくんのいる厩舎へ運んだ。

 大きな穀物用の厚手袋が二つ、竜の腹の左右に括り付けられる。

 どちらの袋も、イカの目玉や虫の毒針などでパンパンに膨らんでいて、雪やハナでは持ち上げづらい重さだった。

 それでも、葉竜にすれば大した重量ではないらしく、マーくんは平然とメイリに身体を拭いてもらっている。


「クピピ」

「後でもう一枚だけ、鱗をちょうだいね」

「クピクピ」


 一通りの準備を終え、竜を囲んで皆で日光浴をしていると、エマが包みを抱えてやって来た。


「出来たわよ、勇者さん」


 彼女が油紙を開くと、中から二つの小さな石盤のペンダントが現れる。


「こちらがあなたの。裏面に絆の魔法陣を刻んだわ」

「リバーシブルか」

「シャワー中に転移してこないでね」

「よせよ、ババアの裸なんか見たら――」


 額の汗を拭い、彼は続く言葉を咄嗟に変えた。


「――よろしくないですね。気をつけます」


 こいつ、教頭とか看護婦長とかになるタイプだ。目力でHP削ってくる。


 エマに見守られつつ、雪たちは葉竜の首にしがみついた。

 転移態勢を取る仲間を確かめると、蒼一は最後にエマヘ振り返る。


「ロウへの手紙は、ギルドへ流しといてくれ」

「了解よ。明日には各支部へ回します」

「楽しみデス」


 旧城の資料室にあった王国史については、既にギルドでも解読したものを所持していた。

 神話から始まる国の創建談が主体で、勇者関連の記述は勇者の書より少ない。

 ロウに向けて書かれた記述は、こうなると数少ない手掛かりとして期待された。


 皆がマーくんの上に重ねた手の上に、蒼一が右手を当ててスキル名を叫ぶ。


「じゃあ、行ってくる。霊鎖っ!」


 全員が右に一メートルずれ、エマと勇者が向かい合った。


「……うん、絆の石盤は機能してるな。霊鎖!」


 左に四十センチ。


「霊鎖っ」


 右斜めに二十センチ。


「……これ、何回くらいやるの?」

「前回は十八回でしたねえ」


 マイゼルに支部へ呼び出されていた本部長は、最後まで見届けるべきか迷う。

 紙を取り出し、午後の仕事の手順をメモり始めたエマの前を、蒼一たちは左右に移動し続けた。

 ぼうっと彼らを眺めて過ごせるほど、本部長は暇ではない。


「霊鎖」の掛け声が消えたのに気付き、彼女が顔を上げると、勇者一行は忽然と姿を消していた。


「頼んだわよ、若い十八番目さん」


 ギルド本部長は踵を返し、部下の元へ急いだのだった。





「ぎゃあああーっ」


 王国国境近くで野宿生活をしていたマルーズが、蒼一たちを出迎えてくれる。


「おー、元気そうで何よりだ」

「ソ、ソ、ソウイチッ!」


 昼寝から跳ね起きた魔術師は、葉竜の腹下から這い出し、久方ぶりの勇者と対面した。


「ラバルはどうした?」

「え、えー、彼は近くの村に買い出しに行ってます。心臓が止まるかと思った……」


 水を飲んで落ち着いた彼女に、蒼一はこれまでの経緯を語って聞かせる。


「それでは、いよいよ王都に向うのですね」

「ああ。サーラムに行って、そのまま終焉の平原へ南下する」

「……ソウイチ様は、神統会と争うおつもりですか?」

「結果そうなる。無理強いはしないから、好きな時に抜けてくれ」


 マルーズは首を大きく振って、彼の言葉に反発した。


「私はソウイチ様について行くと決めたんです。神統会に気兼ねするものなどありません」

「そうか……」

「それより、このお子さんはどなたですか?」


 蒼一の後ろで居場所を確認していたハナが、ジロリと睨みを効かせる。


「さすが十八番の知り合い、失礼度では負けてないわね」

「まあ、勝ち気な娘さんですこと」

「子供じゃない。あなたマルーズでしょ、知ってるわ。勇者マニアのマルちゃん」

「なっ!?」


 小さい頃は勇者になると宣言し、思春期には勇者に嫁入りすると吹聴した娘。マルちゃんはダッハの有名人であり、大賢者の耳にも入っていた。


「許してやれ、マルちゃん。こんなナリでも、大賢者なんだ」

「この子が! 改心なされたのですね」

「は、腹立つぅー」


 物質調達中の剣士は、もうそろそろ戻るそうだ。

 帰りを待ちながら、彼らは再度の国境越えを相談する。


「面倒だけど、また浄化作戦かなあ」

「何それ?」


 前回の防壁越えを知らないハナが、説明を求めた。

 雨の中での戦いの様子を教えられ、彼女は渋い表情になる。


「ちょっと時間が掛かり過ぎね。私も手伝うから、強行突破しましょう」

「そりゃいいが、どうやる気だ?」

「硬化解除を担当するわ。攻撃は、あなたがやって」


 一度石化してしまうと、守備隊員たちに距離を取られてしまう。そうなると出直すしかなかったが、今回はハナがその時間の節約を担ってくれる。


「自分の防御で手一杯だから、攻撃補助は出来ないわよ」

「分かった。敵が減ったら、雪たちも参戦してくれていい」

「了解です。ロッドで適当に小突きますね」


 小一時間ほどでラバルが帰り、蒼一たちの姿を見つけて走り寄った。


「ソウイチ殿! お待ちしておりました」

「荷物持って走らなくていいって」


 彼もマルーズと同じく、神統会へ反旗を翻すのに今さら躊躇いは無いと断言する。


「それが嫌なら、守備隊攻略に参加していませんよ。それより――」


 視線の先にいるハナが、うんざり顔で自己紹介した。


「大賢者よ。偉いの。子供じゃない」

「なんと! 心を入れ替えられたのですね」

「む、むかつくぅー」


 蒼一のせいで、大賢者はすっかり悪い印象が勝ってしまっている。

 自分の悪評を目の当たりにし、ハナは改めて十八番目の勇者に恐怖した。


「二百年かけた地位が、消し飛ばされるとは……」

「無理に逃げるからだ。デスタじゃ死ぬとこだったぞ」

「宝具、あげたじゃない」

「はあ?」


 彼は背嚢はいのうの奥を漁り、少し折れ目の付いた手製メダルを取り出す。


「こんな子供の景品、誰が喜ぶんだ? お前の幼い価値観を押し付けるな」

「何よ、機能はちゃんとしてるでしょ!」

「機能って?」


 彼の手からメダルを奪うと、ハナはそれを前に掲げた。


「フォークッ!」


 彼女の手先から青い魔炎が発生し、二股に割れて地上を走る。草原に焦げたVの字が描かれた。


 溜めておいた魔力を放出する火炎系魔法、フォーク。二股だけでなく、四股にも放出できる。

 実のところ、分ける炎の筋は何本でもいい。複数の対象を、火の槍で貫く魔法だ。


「ね? レア魔法なのよ、これ。特製タブラじゃないと記録できないんだから」

「……返せ、それ」


 メダルに書かれた文字を、蒼一はもう一度よく見た。


「これ、濁点じゃなくて、単なる汚れか。“ほうく”」

「そう、フォーク」

「せめて“ほーく”だろ、書き取りやり直せ!」

「ちゃんと書いたもん」


 フォークは、事前に溜めた魔力を任意に放出できる。勇者の背で延々と力を蓄えてきたタブラは、相当量の火炎を発生できるはずだ。

 待ちに待った遠隔範囲の火炎魔法なのだが、彼の表情は冴えない。


「見た目も悪いし、今更感が半端ない。メイリにやるわ」

「えっ、ありがと!」

「首に掛けるなよ。お前まで子供みたいに見える」


 遂に魔法を手に入れたメイリは、飛び上がらんばかりに喜んだ。試し撃ちを二度三度と繰り返したところで、皆に魔力の無駄と叱られる。

 しょげる少女を、老幼女が鼻で笑った。


「ふっ、子供ね」

「そうだな。よかったね、ハナちゃん」

「ムカーッ!」


 ともあれ、まだ日没まで時間が有る。

 マルーズたちが、できるだけ防壁近くに留まってくれたおかげで、すぐに越境戦に向かえそうだ。


「んじゃ、また守備隊に挨拶しに行こう。俺とハナが先行する」

「私たちは、しばらくしてから追いかけますね」


 雪たちを残し、蒼一は防壁へと歩き出す。壁は直ぐに平原の先に出現し、歩みと共に大きくなって行った。

 延々と平原を区切る威容は、やはり何度見ても凄まじい技術の成果だ。


「でもよ、魔物の侵入を恐れるのは分かるが、もうここまでの壁は必要ないんじゃないのか?」

「逆よ」


 傍らを行くハナが、防壁を眺めながら彼の考えを訂正する。


「壁は魔物を閉じ込めるための物。大陸中から、この国に集めるの」

「……やっと話が見えてきた。なるほどな」


 いくつかの事実を、蒼一は誤解していた。

 全ては逆。

 今の王国こそが、勇者を助けるために作られた存在だった。

 勇者が国に仕えるのではない、国が勇者のために在る。


「大陸に発生する魔物を、一カ所に集めて閉じ込める。それが王国だ」

「そうね」

「集める方法が、各地の召喚陣だ。お前も起動してただろ?」

「神統会の部隊も動いてるわ。私は……この仕組みを止めたくなかったのよ」


 多少、責められるのを覚悟して、ハナは顔を伏せる。しかし、そんな彼女の過去の行動は、蒼一には最早どうでもよかった。


「集めた魔物を殲滅せんめつするのが、勇者システム。宝具やダンジョンは、ルート設定ってとこか」

「王国民はその仕組みに協力する。余計な事はしない、いい人たちよ」

「軍隊も無いしな」


 システムの根幹を説明され、彼は訝しくハナを見返す。


「その情報、終焉の平原に行く交換条件じゃねえのかよ」

「違う、ちゃんとまだ教えることはある。二百年も調べたのよ」


 勇者の仕組みを潰せば、王国外に魔物が増える。だからと言って、王国民はそれでいいのか。

 エマは国は不自然だと、また衰退しているとも言って懸念していた。


 地下遺跡は残し、旧城は破壊した。王国は潰すべきか、潰さないのか、この過去最大の命題は悩ましい。

 黙って歩く二人は、東防壁門の近くまで到達する。


「……まずは突破だ。考えるのは、後にしよう」

「それが十八番目流ね」


 世代を超えた勇者と女神のコンビは、目標に向けその足を速めた。

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