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パッチン・クエスト  作者: パンTea
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0話「セツメイショ」

指パッチン――――


それは別名フィンガースナップと言い、マジシャンなどのパフォーマーが好んで使用し、

日本では小学生から中学生にかけ誰からとも無く流行しだす不思議な手遊びである。


勢い良く弾かれた中指が親指の付け根を叩きつけた際に



『パチン!』



という心地良い破裂音が鳴り、練度が高まればその分綺麗な音を鳴らしたり

音の大小を操れたりだって出来る。


そんな指パッチンで誰よりも大きな音を出そうと子供たちは日夜隠れて練習に励むのである。


しかしながら練習すれば誰でも出来ると言う訳でも無く、

指パッチンという一手遊びに過ぎない行為にも向き不向き・優劣・センス・才能……なんて言葉が付きまとう。


これは、そんな指パッチンに見放されながらも、誰よりも指パッチンに憧れた一人の少年のお話。





『パチン!』


甲高い破裂音が部屋全体をこだまする。

ここは奈良県にある市立の小学校、数ある教室の内の一室である。


「どうよ!俺の指ぱっつん!」


先ほど鳴り響いた音と負けず劣らずの声量で言葉を発したのが音の主。

学校中に「指パッチン」を広めた張本人であり、本人もそれを誇らしげに思っている。

現に今も自慢気にその努力の成果をお披露目しているのだが

残念ながら盛大に名前を間違えている事には気づいていない。


「カンちゃん指パッチンだよ、指パッチン」


そう指摘するのはそんな彼と仲が良い、これまた指パッチンに魅せられた少年

人の粗を探すのが大好きな嫌な奴なのだが、カンちゃんことカンタにはへこへこしている。

ずばり某猫型ロボットに登場する二人組のような関係性なのである。


「うるせぇなツヨシ!指ばっちんだろ!指ばっちん!」


また間違えている……

そんな彼らのやり取りを見て溜息をついた僕を彼は見逃さなかった。


「おう!おうおうおう!ショウマ!お前も指ばっちん、やってみろよ」


皮肉めいた声でカンタは僕に詰め寄り、音を鳴らさず指パッチンの仕草だけをして見せた。

彼がそういったのには、もっと言うと、彼が僕を馬鹿にしているのには理由があった。


そう、僕は指パッチンが出来ない。


僕のこの弱みはカンタにより暴かれ、ツヨシによって広められてしまっていた。



「ああ、いいよ!」



悔しさから僕は、胸を張って言い返してやった!

もちろん僕はまだ指パッチンが出来ない。出来る訳がない。


最初に指パッチンが流行りだした時、どうしても指を鳴らしたくて家で何度も練習したが

僕の指があの爽快な破裂音を上げることは無く、その代わりにジンジンとした痛みだけが指に残った。


教室の中では事情を知る同級生達が心配そうな目でこちらを見つめている。



「指ばっつん、やんねェのかよ?」



僕が言い返してから、すでに10秒近くが経過していた

再び間違えながら僕にそう告げるカンタの一言が、途方もない時間に感じられた静寂を破った。


「やめなよカンちゃん、ショウマは指パッチンが出来ないんだからさ」


ツヨシは不気味な笑顔で僕にフォローに見せた嫌味をぶつけて来た。

わざとカンタに指パッチンだと指摘しないあたりが何ともこいつらしい


「やるさ!出来るにきまってんだろ!」


僕だって練習してきたんだ、鳴る、きっと鳴る、鳴らせる!――


今日だけじゃない、何度も何度も傷つけられて来た僕のプライドは限界を迎え

たかだか指パッチンなのだが完全にムキになっており

精一杯の怒号と共に右手を指パッチンの形に変えて大きく振り上げた。






ポン、ポン



はっ……


誰かが僕の肩を優しく二度叩いた。

机にもたれかかり寝てしまっていたようだ


「おう、どうしたショウマ寝てねえのか?ほらコークでも飲め!」


この気前の良く体の大きな男こそさっき夢に出て来たカンタことカンちゃんだ

ここは同じ市にある中学校。僕らも中学生になりすっかり仲良くなっていた


「カンちゃん、コーラだよコーラ!」


そう指摘するのは粗探し好きのツヨシ

仲良くなりはした物の、彼はあまり変わっていない。


「バカにすんなよ!海外ではコークって言うんだよ!」


対照的にカンちゃんは少し賢くなり、言葉の間違いが無くなった代わりにどうでもいい知識をフルに活用している。

そんなどうでもいい知識を自慢気に披露するような所は変わっていないが……。



あの後何があったかと言うと、教室に入ってきた先生が怒号と共に右腕を振り上げる僕を見て喧嘩だと勘違いしたらしく

……と言うかほとんど喧嘩だったのだが。

強制的に仲直りをさせられ、お互いに謝り彼等は指パッチンを教えてくれた。



結論から言うと僕の指があの爽快な破裂音を鳴らす事は無かった。

二人は熱心に教えてくれたが、どうにも僕には指パッチンの才能が無いようだ。


しかしその代わりに練習を通じて仲良くなれたのだから、それは無意味な事ではなかったんだと思う。




すっすっ




机に持たれかかったまま指パッチンを試みるが、うっすらと摩擦音がするだけであの爽快な音は鳴らない。




「やっぱならないよなぁ……」

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