5:聖女との出逢い(後)
※全面改稿したものです。まったく新しい第5話としてお楽しみください。
「……ふざけているのか?」
というのが騎士さんが放った最初のお言葉だった。
スイマセン。だからその目はやめて。
「いや、ふざけてるというか。まぁ、ともかくあなた方の味方です」
「もらえる褒賞のことでも考えていたのだな。我々がだれか知っているのだろう?」
「いえまったく」
「なに?」
騎士隊長――二〇代後半ぐらいのハンサムな男が表情を歪める。
そして、またなにか言おうとしたところで、後ろから澄み切った蒼空のような声が響いた。
「そのあたりでお止めなさい」
「せ、聖女様!」
「どんな事情があるにせよ、この御方はわたくしたちの恩人です。感謝しなくてはなりません」
楚々と進み出たのは、蒼色を基調に、白いラインが入ったロングドレスを身にまとう小柄な美少女。
彼女はすばらしい美貌を俺に向けると、純真さがこもった温かい笑みをこちらへ向けた。
「レクリスが失礼しました。かれは仕事熱心なだけなのです。どうか非礼をお許しください」
「あー、いや。別に大丈夫です。いきなり乱入したのはこっちなんで」
「そう言っていただけると助かりますわ。わたくしはアリーヤ=シャエリル。聖王国のものです」
ほっと胸をなでおろして、安心したような表情を浮かべる美少女――アリーヤ。
しかしニューワードが出てきたな。聖王国?
「こちらは護衛隊長のレクリス。わたくしたちは王都に向かっていた途中だったのですが」
「聖女様。かれが何者かわからない以上、あまり情報を与えては……」
慌ててイケメン騎士のレクリスが口を挟む。
まあ、当然といえば当然だ。聖女と呼ばれたアリーヤのほうは、どこか困ったような表情をしている。
俺が助け舟を出す。
「話したくないことなら、別に無理して話さないでもいいですよ」
「申し訳ありません。どうもありがとうございます」
彼女がていねいに礼をする。あまりにも自然なので、一瞬反応が遅れてしまった。
しかし間近で見ると、ほんとに天使みたいな人だな。
高貴そうな顔立ちといい、上品で無邪気な雰囲気といい、頭に黄色い輪が付いていてもぜんぜんおかしくない。
こんな娘さんが恋人だったら、もうそりゃ幸せだろうなあ。
そんなことをしみじみ考えていると、視界のうちにとある表示がポップアップする。
――【デーモンの香気LvA/レディキラー】を使用しますか?
え、え、なに。
俺はかるく驚いて、イエスの項目に注意をやってしまう。
すると表示が消えて「使用完了」という文字が現れた。いったい何なんだ。
ともかく人里の方角を聞かなければならない。
飯食わなかったら、デーモンロードでも死んじゃうしな。
「あの、俺は旅人みたいなものなんですけど。良ければ人里のある方向を教えてくれませんかね」
「それならこの先に――」
「では一緒に参りましょうっ!」
お? レクリスの返答を遮るように弾んだ声を出したのは、なんとアリーヤだった。
あきらかにいままでとは様子がちがう。
なぜかこちらをぼーっと見つめていて、頬は紅を差したように鮮やかで、どこか切なげな感じだった。
若干目も潤んでいるように見える。
レクリスがぎょっとしてアリーヤのほうを見た。ほかの騎士も驚いている。
後ろから慌てて侍女らしき女性がやってきた。
「い、いけませんっ。聖女様。こんな見ず知らずの人間を」
「女神アムティン:ヴァルはこうおっしゃっています。『立ち往生した人に手を差し伸べなさい。それがあなたの慈悲を高めるだろう』と」
「たしかにヴァル様はそうおっしゃられていますが、この状況では別です!」
「貴女には迷惑をかけるかと思います。ですが亡くなった供を丁重に埋葬するにも、これ以上の犠牲を出さないためにも、人手は必要です」
「そ、それはそうかもしれませんが……」
使用人が傍らで倒れている、騎士たちの遺骸を見やる。
レクリスもなにか反論しようとしたが、やはり同胞のことを言われては口が鈍るらしい。
それから数分もすれば、侍女も王都までならと仕方なく折れて、レクリスもこちらを忌々しげに睨みつけるばかりでそれ以上のことは言わなかった。
なんかすごく悪い感じがするなぁ。
というか、ヤスのこともあるし、正直ここに残りたいんだが……。
「ごめんなさい。お手間をとらせました。失礼ですが、あなたのお名前は――」
両手を自分の胸で組んで、こちらの顔色を伺うように上目遣いで見てくるアリーヤさん。
いや、それは反則ですわ。俺は平静を必死で保とうと努力しながら言った。
「あ、はい。俺はレイジです」
「そうですか……レイジ様。素敵なお名前です……とても」
まるで極上の甘味を舌の上で転がすように、俺の名前を小さくつぶやく。
侍女が声をかけると、彼女はハッとなり、慌てて真面目な表情を作った。
「レイジ様。先ず彷徨っている供の魂を癒やしてやらねばなりません。どうかお手伝いをお願いできますか」
「あ、はい。ぜんぜんよく知りませんけど、やってみます」
悲しき日本人の習性として、俺は周囲のこいつなんなんだといういやな視線を受けながらも、
周りに転がっている騎士の死体を埋めるのを、手伝うことになる。
本来なら長くかかる作業のようだが、俺の腕力と魔術を使えば大変なものでもない。
驚きとますますの隔意を向けられながら、きちんとした埋葬をし、全員で簡易の儀式みたいなものをやる。
俺はその最中、ずっと森のほうにちらちらと視線をやっていた。
ヤスの野郎。あいつとは腐れ縁だったのに。
戻ってこいと言いたくなるが、どこかでこれは運命なのかもしれないと思った。
あいつと俺の道は、きっとここで分かれたのだ。
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