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エピローグ



 エピローグ 団らんとその裏は、少女たちの日常になっていました



 その日の夜。

 夕食を済ませた百崎と女性陣四人は、例のごとくダイニングテーブルを囲んで食後のティータイムを満喫していた。しかし椅子が四つしかないので、百崎は悲しいことにテーブルのそばであぐらをかいているのであった。

「いやね、アリスが部屋を出て行ったあと、目を閉じていたら急に襲われたのよ」

 メルが天使にさらわれた時のことを語る。

「ほんっとうに物音一つしなかったわ。そんで口元に何か当てられて……、あれは何だったかしら? 布? んー、そんなようなものだったわ。で、そしたらもうストンってわけよ。一瞬で意識が飛んだわ。意識が飛ぶのが分かる時間すらなかったわよ」

 そこまで言うと、メルはマグカップからココアを口に含んだ。

「そっちもデパートで何かあったんでしょ?」

 デパート組に対してメルが話を振る。

「そうなんだよー。あれはマジで壮絶だったぜ―」

 ローナが腕組みをしながら、あの時のことを話し始めた。

「買い物してたらケータイにメールが来てよー。開いてみたら『屋上にクラーケンが出現』って書かれててさー。こんな所になんで海の魔物が? とか思ったけど、まあ金になるなら細かいことはいいかって、そのまま屋上に向かったんだー」

「ふーん、クラーケンねぇ……」とメルが呟く。

「それで屋上に行ったらホントにクラーケンがいてよー。あれは近くで見るとマジでデカかったわー。んで、そしたらなぜかその場所に小さな女の子がいてさー、あれは全員『えっ?』って思ったよなー」

 百崎もあの瞬間のことを思い出す。確かにあれには驚いた。

「百崎がその女の子を助けようと抱きかかえたらさ、そしたら何と! 屋上の床が崩れ落ちたんだよ! いやー、あれはホント、マジでびびった! それで何とか下の階に着地してさー、あたいとリンはそのあとクラーケンを倒すまで戦闘したんだわ。その間あたいたちは特にこれといったことはなかったけど、サイフの方は大変だったよなー」

 ローナはそう言うと、百崎の方を笑いながら見た。

「ん、ああ。触手に捕まったり持ち上げられたり、あとはぶっ飛ばされたり、な」

「でも何とか助かって、だけど最後になってとんでもないどんでん返しが来たんだよなー。……その助けた少女が何と、天使の一員だったんだよ! 何でも、サイフを捕らえるための作戦の一環として、逃げ遅れた少女の役をやっていたらしい」

 と、まあこんなところかなー、とローナが最後に言った。

「……アリスとメルは知らないかもしれないけど」

 と、普段あまり喋ることのないリンが、珍しく口を開いた。

「……ローナは才人を使ってお金を生み出して、一人服を買おうとしたんだよね。デパートで。結局服は買えなかったけど」

「ちょ、ば、うぇ!? それを言うなリンっ!!」

「何? ローナあんた、そんなことしてたの?」とアリスが言う。

「あ、やっぱりそれやろうと思うよね。考えてたのあたしだけじゃなかったんだ」とメル。

 そんなこんなで、夜中のティータイム兼トークタイムはいつもの雰囲気で過ぎていく。

 その四人の様子を、百崎は楽しそうに眺めていた。

「そういえばさ、あたしが気絶している時に何があったの? 気がついたら外にいたんだけど」

 メルがみんなにあの時のことについて訊く。口を開いたのはアリスだった。

「メルが家からさらわれて、わたしたちのもとには一通の手紙が残されていたわ。その手紙には、メルを返してほしければ三丁目の交差点まで来いって、天使の名前つきで書かれてたわ。それでわたしたちはそこへ向かった。あなたが外で目を覚ましたのは、そこであなたを助けたからよ」

「あぁー、だから……」とメルが呟く。

「交差点に着いて、天使が現れて。メルを返す代わりに百崎を渡せ、って言われたわ。百崎はそれを受け入れて、天使たちに向かっていった。あなたはその時解放されたのよ。……それで百崎は変な円柱に入れられて、体をいろいろ調べられた。そしたら一番偉そうな男が、『百崎君の肉体はルシフェルの復活のための肉体だ』とか言い出して」

「ルシフェル? 本当なの、それ?」とメルが言う。

「真偽は分からないわ。……それから百崎の脳の初期化をするとか言って、そしたら百崎が急に苦しみ出したのよ。あの時何があったの、百崎?」

 アリスがそう言って、百崎の方に顔を向けた。百崎はみんなに聞こえるように声を発する。

「あの時はなんつーか、頭がものすごく痛かったんだよ。頭の奥がジンジンするような、そんな感じでさ」

「でも苦しんでいたら、そのあと急に百崎に何かが起きて、そして捕らわれていた円柱を自力で破壊したのよ。それから向かってくる天使たちも一瞬で倒してみせたし。……あれは何だったの? 黒い影、いや液体みたいだったけど」

「あー、あれは、俺の魔武器……らしい」

「魔武器!? 魔武器使ったのあんた!?」とメルが驚いたように言う。

「まあ、うん。使った。彼女は、その黒いやつのことを『闇』って言ってた。俺の魔力から生み出されるその闇が、俺の魔武器なんだってさ」

 百崎の言葉を聞いて、四人は様々な反応を見せた。

「それで、百崎が三人くらい天使を倒すと、その場にいた天使全員が帰っていったわ。……ま、そんなところね。メルはそのあとすぐに目覚めたってわけ」

 アリスが最後に言って、メルの問いに対する回答は終了した。

 ――その一方で、

(言うならここしかない、よなぁ……)

 と、百崎はそのことを言うかどうかで頭を悩ませていた。

(これを逃したらさらに言いづらくなるし……。…………よし、言う。言うぞ)

 決心をつけて、百崎は口を開いた。

「あのさ、みんなちょっといいかな」

 と、百崎は小さく手を上げながら言う。四人の視線が自分に集まった。

「えーっと、脳の初期化ってあったじゃん? あれでさ、ちょーっと頭をやられちゃったみたいで……」

 ごくりとつばを飲み込んでから、その先を言う。

「記憶がなくなっちゃってるみたい、なんだよねぇ……」

 四人の顔が『えっ?』という顔になった。

「なんか、メルと出会う前の人間界での、その記憶が全部ないんだよねぇ……うん」


 ええええええぇぇぇぇぇぇ――――――――――っ!?


 と。

 メル、アリス、ローナ、リンの、四人の驚愕の声が、ピッタリと重なった――。


   ?   ?   ?


『やあ、君か』

 第六天使団団長カマエルのいつも通りの声が、電話口から聞こえた。

「カマエル様が自ら魔界に足を運ぶとは、珍しかったですね」

『ちょうど時間があいていてね。それに、百崎君がどんな人物なのかを知っておきたくてね。脳を初期化して洗脳したあとでは、彼がどのような人物だったのかを知ることができなくなるからね』

「とりあえず、お疲れさまでした。結果は……まあ、あれでしたけれど」

『本当だよ。まさかあんなことになるなんてね。正直、彼には予想外が多すぎる』

「デパートの作戦も、運よく上手くいかなかったようですしね」

『ああ。ルシフェルの肉体とあって、変な加護でもついているのかもしれないね』

「ふふっ、確かにそれはありそうですね」

『だけど、僕は必ず彼を手に入れるよ。彼の力は今のままでも十分に強力だけど、ルシフェルに生まれ変わったらそれ以上に強力な戦力となるだろうからね。なにせ、天界戦争を勝利に導いたほどの方だ。恐ろしいくらいの力を持っているに違いない』

「そうですね。きっとそうでしょう」

『そして僕は、集めた戦力を使って、二度目の天界戦争を引き起こす。そしてそれに見事勝利し、僕は一回目の天界戦争と同じように、新たな世界をもらい受けるんだ。そして新世界の神となった僕は、自分の手で親愛なる妹を再び蘇らせる。……全ては、亡き妹のために』

「自分も、それが叶うことをお祈りしています」

『ありがとう。君も、これからもよろしく頼む』

「はい。自分もこれからあの四人と、どのような生活が待っているのか楽しみです」

『うん。それじゃあ、また』

「ええ。それでは」

 電話が切れた。

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