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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第四章:嫁の実家へ、挨拶回りの旅に出ます。バレンティア竜国編
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090・ラウスの将来と新技術への提案

「ところでラウス。あんたはどうなの?」

「何がですか?」


 重くなった空気をプリム自身が振り払うが、矛先はラウスに向かった。そのラウスは意味がわかってないようだが。


「あのね、ラウス。あんたまだ14歳なのに、レベル27なのよ。このままいけばすぐにGランクになるだろうし、PランクやAランクにだって手が届くんじゃないかしら」

「届くでしょうね。そもそも成人前にレベル20後半に到達できる人って、一握りもいないわ。多分バレンティアは、既にあなたに目をつけてるわよ?」

「ええっ!?」


 ああ、なるほど。確かにそうだ。

 ラウスと同年代のハンターがいないわけではないが、多くがBランク、稀にSランクがいるぐらいだ。だがラウスはMランク、しかもGランクに近い。Gランクまで辿り着くハンターの多くは20代後半から30代で、多くのハンターはレベル30の壁を突破することができない。これはハンターに限らず、騎士や兵士にも言えることだが、レベル30、40、50と、10刻みで壁が存在しているそうだ。

 ラウスはまだその壁まで到達できていないが、その壁とやらを突破することは難しくないと思う。実際、俺が知っている高ランクハンターも、成人前にMランクになっていたと聞いている。


「そ、それってつまり、ラウスも大和さんみたいになるってことですか!?」


 レベッカが声を上げたが、俺みたいってどういうことだ、義妹よ?


「なるわね。Pランクは確定でしょうけど、私の予想じゃAランクには届くと思うわよ」

「そうなると当然、貴族が放っておかないし、嫁がせたいって思ってる家も出て来るでしょうね」


 俺もそうだからコメントは控えたいところだが、ラウスがウイング・クレストに入ったことは、どこのギルドでも問い合わせれば教えてくれる。つまりは俺やプリムとの繋がりまで出来ることになるわけだ。俺にはマナとユーリが嫁として来てるから、アミスターの貴族は俺に娘を宛がうのは難しいが、ラウスなら話は変わる。

 まあレベッカもいるし、プリムやマナ達も変な女を宛がわれないように目を光らせるだろうが。


「それって……やっぱりそうなるんですか?」


 だがラウスは、思ってもみなかった事態に顔を引き攣らせている。気持ちはわかるぞ。


「諦めなさい。そもそも大和が見込んだハンターっていうだけで、引く手あまたなんだから」

「そうですね。レベッカさんも悪い気はしないでしょう?」

「それはそうなんですけど、ただの村人だった身からすれば、ちょっと気後れしちゃいそうです」

「そこは正妻の余裕でかわしなさいよ。プリムだってそうなんだし」

「まあね。というか、大和と一緒になれるんなら、別に私は第一とか第二とかにはこだわらないし」


 俺が最初に婚約したのはプリムだが、結婚後は第二夫人ということになる。バリエンテが荒れていることもあるし、アミスターを拠点にすることが決まってるから、プリムは自ら一歩身を引いた形だ。俺は重婚のしきたりなんぞは知らないが、夫人や妃の順位は結婚した順番だけではなく、外聞的な理由も加味されるんだそうだ。

 俺の婚約者は8人だがフラムは一般の出になるので第八夫人ということになり、騎士の出ではあるがアミスターとバレンティアの騎士は貴族ではないので、婚約した順番からミーナが第五、リディアが第六、ルディアが第七夫人。そして王家の出ということでマナが第一、ユーリが第三夫人となり、聖母竜マザー・ドラゴンガイア様の娘であるアテナは第四夫人ということになる。

 正直、俺としてはどうでもいいんだが、政治的な問題も多分にはらむことなので、そのあたりの事情に疎い俺では口を挟む余地がない。


「それはともかくとして、そろそろバレンティアを出ようと思ってるんだが、俺としてはバリエンテに寄りたいんだ」

「っ!?」

「私は賛成よ。プリムのご両親の墓前にご報告したいっていう大和の気持ちもわかるしね」

「そうですね。それに私達の実家には挨拶をしていただきましたから、プリムさんのご両親の墓前にもご挨拶をしたいという大和さんの気持ちはわかります」


 プリムは驚いて絶句しているが、マナ達はすぐに賛成してくれた。


「ま、待ってよ!今のバリエンテは獣王が圧政を敷いてるし、高ランクのハンターには逮捕命令まで出てるのよ!知らないわけじゃないでしょ!?」

「そりゃもちろん。だからいったんフィールに戻るかアレグリアに抜けるかして、そこから少人数でバリエンテに行こうと思ってるんだ」


 プリムが暮らしていた村はマイライト山脈の麓にあるため、アレグリアよりフィールの方が近い。だからフィールに帰ってから行ってもいいんだが、アレグリアは観光国としても有名だし、ハンターズギルドの総本部がある国でもあるから、一度は行ってみたいと思っていた。本当はトラレンシアにも興味があったんだが、そっちはちょっと遠いし、年をまたぐ可能性が高いから、またの機会にしようと考えている。


「で、でも……私は嬉しいけど、本当にいいの?」

「当然だろ。まあさすがに観光とかはできないだろうから、本当にプリムのご両親にご報告するだけになるが」

「ううん、十分よ。ありがとう、大和」


 プリムがとてもいい笑顔で答えてくれた。


「決まりね。バリエンテには本当に寄り道ついでになるから、フィールに戻る道すがらでいいでしょう」

「だな。終わったらフィールに帰って、アルカを降ろそう。ああ、その前にホーリー・グレイブも招待しなきゃいけないか」

「その方がいいかもね。それならエドとマリーナもかな」


 ホーリー・グレイブはアミスターのトップレイドの一つで、マナが懇意にしていたレイドだ。Pランクハンターの夫婦がリーダーを務めており、アミスター王家の信頼も厚い。アミスターにはそのホーリー・グレイブと肩を並べるトライアル・ハーツというレイドがあるが、こちらはマナとユーリの兄であり、王太子でもあるラインハルト殿下が懇意にしており、フロートの迷宮氾濫が終わってから、ラインハルト殿下の護衛という形でアルカに招いている。いずれホーリー・グレイブも招待するつもりでいるんだが、都合がつかないからまだなんだよ。

 エドとマリーナは、俺達の防具を作ってくれたフィールの職人だ。ヘリオスオーブに来てから知り合ったんだが、俺にとっては親友と呼んでいい。あの二人を招待する機会はあったんだが、また今度でいいかと考えていたらここまでズルズルと引き延ばしてしまったというわけだ。


「だな」


 まだ招待したい人達はいるが、フィールから離れるわけにはいかない人もいるし、フィールに降ろしてからの方が招待しやすいから、この方向で進めてもいいだろう。


「そういえば大和さん、エドワードさんやリチャードさんに提案があるって言ってましたよね?」


 ルディアがエドの名前を出したからなのか、ラウスが思い出したように話を振ってきた。


「ああ。出来るかどうかはわからないが、やってみる価値はあるんじゃないかと思ってな」

「エドとリチャードさんってことは、鍛冶に関係あること?」

「興味あるわね。何を思いついたの?」


 プリムとマナも興味津々だ。


「合金をな、作れないかと思ったんだ」

「合金?何それ?」


 合金とは、複数の金属を混ぜ合わせて性能を向上させた金属のことだ。ヘリオスオーブにはオリハルコン、ヒヒイロカネ、アダマンタイト、ミスリル、そしてクリスタイトと、ゲームや小説なんかでしか登場しない金属が実在している。反面、合金は存在していない。鉄や銅なんかの合金はありそうなもんだが、金属を混ぜるという発想はないらしく、金属加工品の強度は同じ鉄や銅の剣でもまちまちだ。魔力で強化できるから問題にはなってないが、俺やプリムは既に武器の問題が出てきているので、問題としてはけっこう切実だ。


「へえ、そんなことできるんだ。ということはもしかして、ミスリルとアダマンタイトの合金?っていうのを作ろうって考えてるの?」

「ああ。上手くいくかはわからないし、出来るかもわからないが、アダマンタイト並の強度とミスリル並の魔力伝達率の金属が出来ればなと思ってるよ」


 俺の魔銀刀・薄緑とプリムのスカーレット・ウイングは、度重なる異常種との戦闘でダメージを蓄積している。このままでは遠からず折れると言われてしまっているが、簡単に代わりになる金属は手に入らない。特にオリハルコンはフィリアス大陸では貴重品だから、買おうと思ったら神金貨が10枚単位で必要になる。かといってアダマンタイトは魔力伝達率が低い上に重いから、俺はともかくプリムの槍には使えない。残るはヒヒイロカネだが、こちらはバレンティアで産出しているとはいえ、買うことができるのは加工品になっているものだけなので、手に入れるのはほとんど不可能に近い。フラム達の故郷であるプラダ村でアダマンタイトとヒヒイロカネが産出することがわかったとはいえ、ヒヒイロカネは思ったより採れないようだから、俺としてもどうしたらいいか頭を悩ませていた。

 だがここで思い出したことがある。プリムは俺と出会った時、鋼の槍を持っていた。ヘリオスオーブでは非常に状態の良い鉄、という扱いだったのですっかり忘れていたんだが、鋼は鉄に何かを加えた合金だったはずだ。つまり合金を作り出すことができれば、素材の問題は解決できるんじゃないかと思ったわけだ。プラダ村の鉱山次第ではあるが、アダマンタイトはそれなりに採れるって聞いてるから、ミスリルをベースにアダマンタイトとクリスタイトを混ぜればいいんじゃなかろうか。


「興味深いわね。ヒヒイロカネでスカーレット・ウイングの穂先を作ってくれてるって話だけど、元々一体型になってるから強度がどうなるか不安だったのよ。だけどその合金っていうのができれば、その問題も解消されるわね」

「魔力伝達率がどうなるかにもよるが、その可能性はあると思う。だからエドやリチャードさんにも手伝ってもらおうと思ってるんだ。いくつかの合金は刻印具にデータがあるから、まずはそっちから試してみるけどな」

「いいわね、それ。スミスギルドも喜んでくれるだろうし、今までできなかったこともできるようになりそうだわ」


 鉱材そのままで使っても問題ない場合もあるが、鉄や銅なんかは合金にした方が強度も剛性も増すから、使い勝手は良くなったはずだし、ステンレスみたいに錆びない金属ができれば、この世界に技術革命でも起きるんじゃないだろうか。まあレティセンシアやソレムネ、アバリシアみたいなあからさまな敵国には流出させたくない技術だが。

 まあできるかもわからないし、フィールに帰ってからの話だ。明日はハイウインド家やガイア様に挨拶に行って、明後日ドラグニアを発つことにしよう。

ラウスはまだアミスターの王様に謁見してませんが、ギルドから報告が上がってますし、そのギルドは大和の弟子という認識でいるので、フロートに行けば否が応でも注目されます。そのうち嫁候補が出てくるでしょう。

合金もオリハルコンに対抗するために作り出す予定があったので、近いうちに登場することになります。

あ、ここで四章は終了になります。中途半端感はありますが、ここで切れば五章のストーリーが構想中のどちらになっても繋がるので。

そういうわけなので、五章は構想がまとまり次第アップすることになりますので、更新はしばしストップします。

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