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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第四章:嫁の実家へ、挨拶回りの旅に出ます。バレンティア竜国編
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080・ドラゴンの習性

 ―プリム視点―


 エオスっていうエメラルドドラゴンに案内されたのは、とても上品な客間だった。というか、王城の一室にも匹敵するぐらい豪華だわ。王家を招くこともあるみたいだからわからなくもないけど、通常ドラゴンは山や海なんかに住んでて、ねぐらも洞窟とかが多いって聞いているから、人間用の家具とか調度品とかには興味ないと思ってたわ。


「すごい部屋ですね。アミスターの王城にある物と比べても遜色ありません」

「本当にね。どうやって手に入れたのですか?」

「もちろん、町に行って買ってきたんですよ。バレンティアだけではなく、アミスターにも行きました。私が行ったことのない国はありませんね」


 しれっと答えるエオスだけど、それってすごいことなのよ?ドラゴンが空を飛んでいれば、即座に騎士団とか軍とかが迎撃の準備を開始するし、それでも倒しきれずに町が滅びてしまうことだって珍しくない。なのにエオスは、誰にも気づかれることなく買い物してたんだから、背筋が寒くなるわ。


「買い物は趣味ですから。長く生きていると、人間の生活に興味を持つこともありますし、ここに住んでいる以上、どうしても必要になります」


 確かにそうなんだろうけどさ。まあ誰にも迷惑をかけてないんだし、趣味は竜それぞれだから私達が何か言う権利もないし、問題がないならいいような気もするわ。


「いや、問題あるだろ。どうやって町に入ったんだよ?」


 ああ、そうだったわ。小さな村とかならともかく、町ともなると必ず門があって、騎士や兵士が入る人をチェックしている。バレンティアなら問題ないんでしょうけど、他の国じゃそうはいかないから、確実に身元チェックで引っかかるし、そもそもどうやってお金を稼いだのかしら?


「私達の身元はバレンティア王家が証明してくれていますし、証明書も発行してくれています。ですからそれを見せれば、他国でも問題はないというわけです。あとお金ですが、手近な魔物を狩って、それをバレンティアのハンターズギルドに売ることで、いくらかは手元に置いておくようにしています」


 なるほど、確かにウィルネス山はドラグニアと隣接してるし、聖母竜マザー・ドラゴンは王家とも関係が深い存在だから、その臣下でもあるエオス達の身元も証明できるってことになるわけね。ドラゴンにライブラリーがあるかはわからないけど、王家が直々に発行した証明書があるなら、どの国でも普通に通すでしょうし、お金の方も、最上位ドラゴンならその辺の魔物ぐらいあっさり狩れるから、簡単に稼げるってことね。


「ボクも興味あったから、今度リディアとルディアに町に連れて行ってもらおうと思ってたんだ」


 アテナも興味持ってるんだ。さりげなくボクっ娘だけど、実際いくつなのかしら?


「そういえばアテナって、いくつなんですか?」

「ボク?157歳だよ。だけど、それがどうかしたの?」


 思ってたよりずっとお歳を召してらしたのね。幼い感じの性格みたいだから、生まれてから100年ちょっとだと思ってたわ。

 ドラゴンは50歳ぐらいまではドラゴンパピーと呼ばれる小さな竜で、どの種族でも違いはない。そこからさらに50年かけて周囲の環境なんかに適応していき、ようやく種族が確定する。リトルドラゴンって呼ばれてるわね。アテナはガイア様と同じクリスタルドラゴンだとわかるから、その時点で生後100年は経過してるんだけど、私はクリスタルドラゴンになったばかりだと思ってたのよ。

 ちなみに年齢なんだけど、人間に換算すると十分の一ぐらいになるそうだから、アテナの年齢は15歳で、じきに16歳になるってとこかしら。


「きっとアテナの性格が幼いから、100歳ちょっとだと思われたのよ」

「私達と初めて会った時はアテナの方がお姉さんだったのに、今じゃ妹みたいになってるものね」

「ひ、ひどいよ、それは!」


 なんか微笑ましいし、羨ましくもあるわ。私は公爵家の生まれで、しかも翼族ということもあって、同年代の子を持つ親は私と関わらせないようにしてたし、ギムノスが即位してからはお尋ね者として姿を隠してたから、親友と呼べるのはマナだけだった。今はミーナにユーリにフラム、リディア、ルディア、そして何より大和がいてくれるけど、それとは別かもしれないわ。


「落ち着きなさい、アテナ。あなたにも同席してもらったのには訳があります。ですがその前に、まずはリディア、ルディア、婚約おめでとう。小さい頃のあなた達を知っている身としては、あなた達の結婚を心から祝福させてもらうわ」

「ありがとうございます、ガイア様」

「ありがとうございます!」


 聖母竜マザー・ドラゴンに祝福される結婚って、けっこうすごいわね。偶然が重なって巡り合ったわけだけど、きっとこういうのを運命っていうんでしょうね。


「それからマナリース姫、ユーリアナ姫、プリムローズ姫、ミーナさん、フラムさん。あなた達もおめでとう。心から祝福させていただくわ」

「あ、ありがとうございます!」

聖母竜マザー・ドラゴンに祝福していただけるなんて、光栄です」

「そして大和さん、あなたは約百年振りにヘリオスオーブを訪れた客人まれびと。ですが今まで私が出会った、どの客人まれびととも異質な存在でもあります」

「……やはりご存知だったんですね」


 ガイア様がどれぐらい生きてるかはわからないけど、一説では五百年以上生きていると言われている。だから大和以前の、たとえばアルカを作った客人まれびととも会っていても不思議じゃないけど、なんで大和が客人まれびとだって知ってるの?アミスター陛下はバレンティアにも報せてないから、まだ大和が客人まれびとだってことは広まってないはずよ。


「ええ。あなたが転移してきた日、になるのでしょうね。大気が、いえ、空間が揺らぎました。どのような感じだったのかを口で説明するのは難しいですが、私はそう感じました。そしてそれは、かつて客人まれびと達がヘリオスオーブへやってきた時と同じ感覚だったのです」


 つまり大和が転移してきた波動?魔力?よくわからないけど、そういうのを感じて、百年振りに客人まれびとが現れたことを察知したというわけね。なんで大和に目を付けたかはわからないけど、多分竜王陛下がアミスター陛下から聞いた話から推測したか、ドラゴンをアミスターにやって調べたか、その両方ってところかしらね。


「ですが今回は、今までとは異なる点もありました。大和さんが転移されてくる数日前、私は数十年振りに予知夢を見たのです。正確な所は不明ですが、異世界からの客人まれびとがたった一人で大軍と渡り合っている姿を」

「それが俺、ということですか?」

「その通りです。あなたの容姿は、まさに夢で見た客人まれびとそのものですから」


 穏やかじゃない話ね。話のニュアンスからすると、魔物じゃなくて人間の軍ってことなんだろうけど、なんで大和がたった一人で戦うことになるわけ?大和には少し劣るけど私だってHランクなんだから、少なくとも私は隣で戦えるわよ。


「残念ですが、私の予知夢は詳細まではわからないのです。それに一度見てしまえば、数年から数十年は見ることができなくなってしまいますから、次の機会に詳細を、といったこともできないのです」


 私の質問に、とても申し訳なさそうに答えてくれたけど、やっぱり納得ができない。現時点で大和と敵対する可能性がある国はレティセンシア、ソレムネ、そしてバリエンテだけど、ソレムネとレティセンシアはリベルターと小競り合いを始めたと聞いてるから、どちらもアミスターに軍を回す余裕はないとみていいでしょう。残るはバリエンテだけど、これは私がいる以上、十分に可能性がある。

 だけどガイア様の予知夢がバリエンテ軍との戦いのことだとすれば、私がいない理由がわからない。もしバリエンテと敵対するとすれば、それは私の存在しかないし、私としても後方にいるつもりはない。むしろ大和と一緒に、最前線で槍を振るうわ。私の同郷だけど、バリエンテにはあまりいい思い出がないから、多分私は躊躇わない。


「プリム、何もバリエンテ軍と決まったわけじゃないわ。ガイア様がおっしゃるには人族が多いとのことだから、ソレムネやレティセンシアっていう可能性もあるんだから」


 マナの言うように、ソレムネ帝国とレティセンシア皇国は人族が中心になっている国で、多種族国家のリベルター共和国とはかなり異なっている。だけどリベルターを攻めている理由は正反対。ソレムネはアバリシアに対抗するためとしているけど、レティセンシアはアバリシアの属国にするためだから、リベルターとの戦争になったとしても、すぐに瓦解するような脆い関係でしかない。むしろバリエンテがソレムネと同盟を結んだことで、どう転ぶかがわからなくなっていると言える。


「そうですね。それに私の予知夢は限定的なものです。なぜそうなってしまったのか、結末はどうなったのか、私には一切わかりません。ですがおそらく、深刻なことにはならないでしょう。私は大和さんが光に包まれた所で目を覚ましてしまいましたが、あれは人間どころかドラゴンですらも出せない、超越的な力を感じましたから」


 大和から聞いた話だけど、二つの刻印法具は一つに融合させることができるそうなの。だけど大和は、その方法を教えてもらう前にこの世界に来てしまったから、それはできないって言ってたわ。もちろん自分で試行錯誤してはいるけど、いまだに成功する気配すらないし、大和も特に困ってるわけじゃないから、急いではいないみたい。

一つにした刻印法具、融合型刻印法具ゆうごうがたこくいんほうぐっていうそうだけど、それは今までとは別物と言っていいほどの能力になるそうだから、大和自身の魔力が強くなっても不思議じゃない。今でさえ上位ドラゴンの異常種を単独で倒せるんだから、もし融合させることができたら、さらに一段強くなるのは間違いないでしょうね。


「ママ、これでお話は終わりなの?」


 私達にとってはけっこう大事な話なんだけど、アテナからすれば訳の分からない話になるみたいね。それも仕方ないか。


「いいえ、むしろこれからが本番です。大和さん、皆さん。お願いがあります」

「お願い、ですか?」


 大和だけじゃなく、みんなの頭上に大きなハテナマークができている。もちろん私もよ。聖母竜マザー・ドラゴンからのお願いが何なのか、想像もつかないわ。


「はい。ここにいるアテナですが、人間の世界に大きな興味を持っています。ですからこの子も、一緒に連れて行ってくれないでしょうか?」

「えっ!?」

「アテナを、ですか?ですがアテナは、ガイア様の後継者ではありませんか?」


 それはそうよね。ガイア様の娘でクリスタルドラゴンということは、次の聖母竜マザー・ドラゴンに最も近いドラゴンということになる。妹もいるけど、竜王陛下に嫁ぐことになってるみたいだし、その時点で候補から外れてるんでしょうね。


「そういうわけではありませんよ。そもそも私は、ドラゴンの長ではありませんから」

「そ、そうなんですか?」

「ええ。ここは元々、私の父と母の住居。数十年前にグラーディア大陸の竜達の様子を見にいってから音沙汰がありませんが、今でもドラゴン達にとって、長は私の父と母なのです」


 知らなかったわ。ガイア様のご両親がグラーディア大陸に行ってて、しかも今でもドラゴンの長だったなんて。数十年前ってことなら戻ってきててもおかしくはないけど、グラーディア大陸のドラゴン達をまとめてるのかもしれないから、判断が難しいところね。


「そういうことなら、俺はいいと思う。みんなは?」

「私は賛成です」

「私も。アテナと一緒にいられる時間も増えるしね」


 大和の意見に、リディアとルディアがすぐに賛成した。二人からすれば当然ね。


「私も反対する理由はないかな」


 マナの意見に、ユーリとミーナ、フラムも首肯した。ラウスとレベッカも同意見みたい。


「なら、決まりね」

「え?ボクも一緒に行っていいの!?」

「歓迎するわ、アテナ。よろしくね」

「うん!」


 アテナが可愛い顔を破顔させ、屈託のない笑顔を浮かべた。尻尾もすごい勢いで左右に振られている。何この子、すっごく可愛いんですけど!


「ありがとうございます。よかったわね、アテナ。これからはしっかり、大和さんに尽くすんですよ?」

「ありがとう、ママ!」


 ちょっと待って。何かおかしくない?人間の世界に興味を持ってるから連れていくって話だったわよね?文面から察するに、大和に嫁入りしようとしてるようにしか聞こえないわよ?

ヘリオスオーブのドラゴンは社交性が高いです。ウィルネス山近郊にある竜都ドラグニアなら、人化魔法でやってきたドラゴンはほぼフリーパスですし、住民に交じってお茶をすることもありますし、友人関係を築くこともあります。特に竜騎士と契約しているドラゴンは、普通に町で暮らしてることもありますし、結婚することもあります。

ドラゴンさんの気持ちはわかりませんが、まあ好奇心旺盛ということで。

で、またしても大和の嫁が増えそうな気配です。しかも今度は人間じゃありません。果たしてどうなることか?いえ、さくっと決めますけどね。

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