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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第一章:フィールよいとこ、一度はおいで
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008・フィールの闇

 晩飯を食い終わって紅茶を飲んでいると、ライナスのおっさんがやってきた。


「いい部屋使ってるな。さすがはウチの稼ぎ頭ってところか」

「あいつらと比べられてもなぁ」

「ホントにね」


 先日初めて討伐依頼を受けた際、俺達はかなり驚いた。ハンターズギルドに出される討伐依頼は個人でも可能だが、その分報酬は安い。その代り素材はこちらが引き取れることになっているので、依頼が素材収集でなければ、こちらも一応の利益は出る。だがその個人からの討伐依頼が、ここ数日分丸々残っていたのだ。討伐対象がホーン・バードやキラー・ニードル、オークなんてのもあったが、誰も受けようとすらしなかった。魔物を倒してから依頼を受けてもいいことになっているが、それすらしないとはどういうことなのか、本当に理解に苦しんだものだ。

 だから俺達は、初日に片っ端から依頼を受け、指定された魔物を狩りまくった結果、今日と同じようにCランクをすっ飛ばしてBランクになってしまった。


「個人の依頼は報酬が安いとはいえ、ついでで受ける分には問題がない。なのにそれすらしないなんて、ハンターとしてというより、人としての常識を疑うぞ?」

「耳が痛い話だな。依頼を受けるのも個人の自由だから俺達も強くは言えないんだが、確かに最近はどうかと思う」

「今って何人ぐらいのハンターがフィールにいるの?」

「正確な数はわからんが、100人はいないだろう。20人クラスのレイドが2つと、後は5~7人のレイドが10前後ってとこだと思う」

「で、そのほとんどがパトリオット・プライドやスネーク・バイトの配下ってことか」

「本当に面目ない話だがな」


 スネーク・バイトが緋水団と繋がっていたことは確定しているが、どうやら他にもそういったレイドがあるらしく、ギルドと騎士団は連日調査を行っている。俺達も及ばずながら手伝っているが、そこで先日、俺達が大量に片付けた依頼が出された日と、ギルドマスターを護衛して王都にいったパトリオット・プライドというレイドがフィールを出発した日が、実は同じ日だったということが気になった。もちろん偶然という可能性もあるのだが、それにしては依頼数が多すぎた。その中には定期的に依頼を出している貴族もいて、ギルドに文句を言いにきたこともあったというから、作為的なものを感じずにはいられない。


「ギルドマスターが帰ってくるのっていつだっけ?」

「わからん。休暇も兼ねてるから、遅くても二週間ほどだとは思うが」

「その休暇がまた問題だよな。王都から来る騎士団に少しぐらいは話を聞けるだろうが、絶対ってわけじゃないだろうしな」


 依頼を受ける受けないはハンターの自由だが、受けなければランクアップはできないし、何より信用がなくなる。信用がなくなったハンターは依頼を受けることができなくなるし、最悪の場合ライセンス剥奪もあり得るとしっかり定められている。

 だが今のフィールでは、この規則が有名無実となっていた。多くの職員も疑問に思っているが、盗賊団のことを理由に持ち出したギルドマスターが先頭に立ってハンターに触れ回ったそうだから、ギルドマスターも共犯と考えられる。


「そのパトリオット・プライドっていうレイド、確かGランクなのよね?」

「ああ。だがリーダーをはじめとした数人はPランクだ。お前さん達の実力とランクを疑うわけじゃないが、経験ではあいつらに分があるだろう」


 パトリオット・プライドは総勢30名からなる大型レイドで、今回は全員で王都に行っている。リーダーを含む7人がPランクで10人がGランク、残りがMランクということだが、ゴブリン・キングを倒した際に、わかっているだけで10人以上が犠牲になっているそうだ。


「経験ねぇ。私の初陣は5年前で、それ以降もけっこう魔物を狩ってるわよ」

「俺は4年前だな。対人戦の方が多かったが」


 実戦さながらの修業も多かったからな。相手は俺より格上ばっかりだったから、何度も死にかけたもんだ。


「俺の見る目は、いつ、どこで曇ったのかねぇ……」


 ライナスのおっさんが遠い目をしている。自分で言うのもなんだが、俺はイレギュラーな存在だから気にするなよ。プリムのことは知らんけど。


「それで、騎士団にはどこまで話してるの?」

「今の話は全て伝えてある。そして明日以降のスネーク・バイトの尋問結果次第じゃ、アミスター王国からハンターズギルドの総本部へ抗議が行われることになるだろうな。正直、現場としてはそんな周りくどいことなんかせず、直接総本部に報告したいところだが」

「総本部って、確かアレグリア公国だっけ?」

「ああ。鳥を飛ばすには距離がありすぎるし、アレグリアに関して言えば、たどり着けるかどうかわからん。かといって陸路じゃ時間がかかるし、飛竜は持ってないから空も使えない」


 ハンターズギルドの総本部があるアレグリア公国は島国だが、さほど大きな島ではない。だがハンターズギルドの総本部がある国ということで、どの国からも重要視されている。あとは観光地として有名なぐらいか。


「となるとスネーク・バイトの尋問が終わるまでは、アミスターとしてもギルドとしても動けないか。なんていうか、後手後手だなぁ」

「同感ね。ギルドマスターとパトリオット・プライドがいないことだけが救いじゃない」

「ところでパトリオット・プライドって、どこの国で登録したんだ?」

「レティセンシア皇国だ。今フィールにいるハンターも、ほとんどはそうだな」

「つまりそれって、ハンターや盗賊を使った侵略ってことじゃない。そうなると、緋水団がただの盗賊かどうかも疑わしいわ」


 レティセンシア皇国か。マイライト山脈にあるミスリル鉱山を狙ってるって噂があったな。本当なら軍を動かすんだろうが、そんなことをすればアミスターだって引かないし、確かレティセンシアは非合法奴隷の件でも、アミスターと対立していたはずだ。


「ということは盗賊団でフィールを孤立させ、ハンターの出入りを封じ、アミスターやギルドの動きを監視し、何も知らないハンターや旅人なんかは奴隷として売り払うことで、ゆっくりとアミスターに対する不信感でも植え付けようって魂胆か」

「いつまでもこのままじゃ、ハンターの好きにさせてるアミスターやギルドに住人の不満が向くし、そうなってからゆっくりとレティセンシアに併合するように諭すってことか。効率の悪いことで」

「多分そうなんだろうが、それにしちゃ穴が多い計画だな。早馬なら途中で妨害される可能性もあるが、飛竜を使われれば何もできん。ギルドには不満があるだろうが、アミスターの騎士団は住人のために働いているから、そちらに文句を言うこともないだろう」


 そうなんだよなぁ。


「逆に穴があるから計画だとは悟られにくいってことじゃないか?」

「それはあるかもね。まだ確定したわけじゃないから、ハンター達を始末するわけにはいかないけど」

「それはしてもいいんじゃないか?実際、町の人の迷惑にしかなってないし、ミーナも監視されてるんだからな」

「確かにね。そうだ、ライナスさん、昨日登録にきた若い子達ってどうなってるの?」

「あの子達か。登録はしたが、詳しくはわからんな。必要なら調べておくが?」

「頼める?」

「お前さん達が助けたってことで、逆に狙われる可能性があるからな。まあ今動けば疑われるのはわかってるだろうから、迂闊な行動はせんと思うが」


 そう考えてくれるならいいが、後先考えずに行動する馬鹿がいないとも限らない。やっぱり警戒は必要だな。タイミング次第だが、明日あの二人に接触してみてもいいかもしれないな。


「あの子達の名前は?」

「男が狼の獣族でラウス。女がウンディーネの魔族でレベッカだったと思う」


 うん、男が狼の獣人だったのはすぐわかった。だけど女の子はエルフだと思ってたな。


「アミスターは魔族も多い国だから、ウンディーネも珍しくないわよ。あの年で尾びれを変化させることができるのはすごいけど」


 ウンディーネは魔族で、見た目は人魚だ。ウンディーネは成人するまでの間に魔力を使い、尾びれを両足に変化させることができるのだが、成人する直前辺りにできるようになる者がほとんどらしい。変化の魔法はかなり難易度が高いそうなので、ウンディーネからすれば、中級の無属性魔法を覚える方が簡単だと言う者までいるそうだ。そのレベッカって子がいくつかはわからないが、見た目は10代前半だから、魔力の扱いが上手いことは予想がつくとはプリムが言っていた。


「カミナが聞いた話だと、二人とも近くの村の出身だそうだ。その村も最近は苦しくなってきているから、あの二人は少しでも村の助けになるようにと思って、ハンターになる決意をしたと言っていたらしい」

「近くに村があるのか?」

「ああ。人口は200人程の小さな村だけどな」


 ある程度は自給自足ができるそうだが、それでも数ヶ月に一度商人が訪れていたため、そこそこの生活ができていたそうだ。少し前までは。


「つまり緋水団が出没してからは商人も滅多に訪れなくなって、生活が困窮しはじめてるってことね」


 その村は毎年の税を麦で納めているそうだが、不作や凶作などが起きてしまえばかなり大変なことになる。税はフィールに運んで納めることになっているが、道中で襲われる可能性は十分にあるし、村が襲われたとしても国やギルドも気づきにくい。何人かをあえて生かして逃がすことで、アミスター王国に対しての不信感をばら撒く撒餌にもなる。あの子達がそうだという可能性もあり得る話だ。


「その村までの距離は?」

「1日もあれば往復できる。行くのか?」

「商人の護衛ってことで、俺達とあいつらに指名依頼を出せないか?あいつらと繋がりが持てるし、村の様子も確認できる。それに騎士団にも数人ついてきてもらえば、国に対する不信感も拭えるんじゃないかと思う」

「そんな単純じゃないと思うけど、それが無難かもね。レックス団長なら首を縦に振ってくれそうな気がするし」

「悪くない考えだな。だがお前さん達を指名するのはともかく、あの子達を指名する理由がない。いや、あの村出身ってことで押し通せるか」


 それだよな。多分Cランクにはなってると思うが、護衛依頼を受けるには信用がまだ足りてないだろうからな。かといって今フィールにいるハンターに依頼するなんて、下手したら自殺行為になりかねない。村に一泊することにはなるが、それは仕方ないだろう。


「ゲート・ミラーを使える人がいれば、話は解決するんだけどね」

「ゲート・ミラーって、確かミラー系最上位の転移魔法だったか?」

「そそ。行ったことがある場所に転移門を開く魔法。だけどミラー系もそうだけど、最上位の無属性魔法の使い手って少ないのよ。もし使えるなら、それだけで王城や貴族に高額で雇ってもらえるわ」


 転移魔法なんて、誰だって喉から手が出るほど欲しいよな。俺も欲しい。まあ俺もプリムも、身体強化系最上位の加速魔法アクセル・ブースターまで使えるが。


「それを言ってもはじまらんだろう。ともかく手続きをしなきゃならんし、商人も探さなきゃならんから、まだ数日はかかると思ってくれ」

「品物の準備もあるものね。それまでは私達も、魔物でも狩りながらゆっくり過ごさせてもらうわ」


 それにリチャードさんに依頼している武具も間に合うだろうからな。


「少しは控えてくれても構わんのだがな」

「いつまでも宿屋暮らしをするわけにはいかないから、それは無理ね」


 俺もプリムも、いずれ拠点になる家を購入するつもりだが、フィールにするかは迷っている。まあ場所はゆっくり考えるとして、俺としてはプリムと共同で購入したいところだ。レイドの拠点として使うならその方が便利だし都合がいい。だが今クレスト・ウイングに所属しているのは、俺とプリムだけなので、世間体を考えるとそれは非常によろしくない。結婚してない男女が一つ屋根の下など、後ろ指指されかねないだろ。


「登録して数日で拠点を構えるハンターなんて、聞いたことないがな」


 ライナスのおっさんは苦笑していた。そりゃそうだろうな。普通に家を買うだけでも白金貨が飛んでいくのに、拠点となれば神金貨様が必要になる可能性が出てくる。二人の全財産を合わせてもまだ白金貨2枚ちょっとだから、さすがに足りない。


「それじゃ俺は帰るぜ。商人と依頼の手配は急ぎでやるから、こまめにギルドに顔出してくれよ?」

「わかってる。気を付けてな」

「おう。それじゃな」


 そういうとライナスのおっさんは、俺に向かって親指を立てながら部屋を出ていった。待てよ、おっさん!なんだ、その素敵な笑顔は!?


「……もしかしてライナスさん、私達が付き合ってると思ってるのかしら?」


 ほぼ間違いなくそうだろうな。俺としては嬉しいが、プリムは迷惑なんじゃないかと思う。なにせ俺達は相棒なんだからな。


「別に私はいいけどね」

「ん?なんだって?」


 よく聞き取れなかったが、別にいい、みたいなこと言ってませんでしたか?というか、なんで赤くなっていらっしゃるのですか?


「なんでもない。それじゃ明日は、少し遠出しましょうか」

「それもいいな」

「ええ。じゃあおやすみ、大和」


 よし、寝よう。まだ出会って数日なんだから、恋愛感情なんてそう簡単に芽生えるわけがない。うん、寝よう。

 だがその夜は、顔を赤らめて照れるプリムの姿が瞼に焼き付いており、ロクに眠れませんでしたよ、ええ。

チョロインか?それとも一波乱あるのか?

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