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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第一章:フィールよいとこ、一度はおいで
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006・ここを拠点にしよう

「いい買い物したわね」


 リチャードさんの店から出ると、プリムがとても嬉しそうにしていた。機嫌がいいからだろう、尻尾もリズミカルに揺れている。俺もその意見には同意だ。


「だな。それにこの剣や槍も予備として買ったつもりだが、普通にメインアームとして使えそうだからな。ほんと、いい仕事してるよ」

「完成は一週間後か。今から楽しみだわ」


 そうなのだ。武器は十日かかるという話だったが、防具の完成にあわせて一週間で仕上げると言ってくれたのだ。早いにこしたことはないから、これはかなり嬉しい。


「私も実物を見てみたいですね」

「出来たら見せに行くわよ」

「楽しみにしています。では宿へご案内しますね」

「よろしく」


 ハンター登録や武具の注文でけっこう時間食ったからな。もう日が落ちかけてる。腹も減ったし。


「ご飯が美味しいって言ってたわよね?」

「はい。ギルドからは少し離れていますが、お昼ご飯を食べさせてくれるとあってハンターにも人気のお店なんです」

「ハンターか」

「また絡まれるのかしらねぇ」


 俺もプリムも、ハンターという言葉で顔をしかめた。スネーク・バイトみたいな連中ばかりじゃないだろうが、外野も含めてあまり良い印象は持ってないんだよな。


「えっと、スネーク・バイトが特別なだけで、他の皆さんはしっかりした方も多いですよ」


 ミーナがフォローをいれているが、連中の影響力はそこそこあるはずだ。そんな連中を信用するのは危険なんだよな。


「別にミーナのせいじゃないでしょ。それに私達なら大丈夫よ。それよりその宿って、まだかかるの?」


 プリムの言う通り、ミーナが気にするようなことじゃない。もし来るなら、返り討ちにするだけだ。


「いえ、見えてきました。あそこです」

「ほう」

「へえ」


 俺もプリムも感嘆の声を上げた。なにせその宿、魔銀亭まぎんていはパッと見ホテルだったんだからな。


「魔銀亭は食事も美味しいですし、週に二回、大浴場を開放してくれるんです。入浴料は取られますが、それも人気なんですよ」

「お風呂があるの!?すごいわ!」


 異世界の常として、この世界の風呂は王族や貴族ぐらいしか所有していない。普通は桶に水を入れて、それで体を拭くぐらいだ。魔法があるからお湯を沸かすのは簡単だが、空気中から水を作り出すのは難易度が高いという理由もある。水は井戸から汲み上げればいいのだが、風呂を沸かすだけの水を用意するのはかなり手間がかかるし、井戸を占領してしまう可能性もあるため、一般家庭では個人で井戸を所有していない限り、風呂の所有も禁止されている。だから魔銀亭は大浴場の一般開放をしているのだが、他にもやっている宿はあるらしい。


「いらっしゃいませ、ご宿泊ですか?」

「ええ。二人お願いします」

「かしこまりました。お部屋はいかがなさいますか?」

「うーん、二部屋っていうのも無駄だし、かといって一部屋っていうのもねぇ」


 俺は最初から二部屋の予定だったぞ。一緒の部屋なんて、俺の理性がどうなるかわかったもんじゃねえ。その場合、俺の命もどうなるかわかったもんじゃないが。


「ご安心ください。お客様のご要望に沿えるお部屋がございます」

「え?そうなの?」

「はい。リビングは共用、寝室は個室となっている部屋がございます。その分、少々お高くなってしまいますが」


 そんな部屋があるのか。確かにいちいち誰かの部屋にいくのも面倒だし、かといって食堂とかじゃ話にくいこともある。商人とかが泊まることも多いんだろうな。それにしてもこの人、かなり丁寧だな。


「大和、その部屋でいいわよね?」

「ん?ああ、プリムがいいならな」

「決まりね。それじゃその部屋でお願い」

「寝室は4室となっておりますが、よろしいですか?」


 おおう、二人で泊まるっていうのに寝室が倍とか、すげえ無駄だな。もともと部屋についてるんなら仕方ないが。


「それは仕方ないか。いいわよね、大和?」

「ああ。変に個室をとるより、そっちの方が俺達には都合が良さそうだしな」


 俺が客人まれびとということや二人ともAランクだということなど、他人には聞かれたくない事情があるからな。ましてや今フィールにいるハンターはあまり信用できないとなれば、不用意に接触したくない。レベルやランクが高くとも、俺達は新米ハンターなんだからな。


「かしこまりました。では料金は前払いとなっております。お一人様一泊400エルとなっております」


 確か普通の宿で一泊100エルだから妥当か。むしろ寝室の数を考えれば安いともいえるな。


「食事はどうなってるんですか?」

「夕食と朝食がございます。食堂で召し上がっていただきますが、50エルいただければお部屋までお持ちいたします」


 なるほど。食堂もいいが今はハンター連中とは顔を合わせたくないな。なら運んでもらうか。


「プリム、運んでもらっていいよな?」

「そのほうがいいわね。それじゃ十日ばかりお願い」

「ありがとうございます。お部屋にご案内致します」


 9,000エル支払うと、案内の人がやってきた。一流ホテルみたいな待遇だな。


「こちらでございます」

「おお、いい部屋だな」


 リビングは思っていたより広く、値の張りそうなソファーやテーブルまである。テラスもあるとは思わなかったな。だが一番すごいのは、何といってもトイレの存在だ!

 トイレをもたらしたのは約百年前に現れた客人まれびとで、他にもいくつか偉業を残しているそうだ。そのトイレ、魔法を付与されているため、臭いまでも分解してくれる優れものだ。魔法付与された魔道具はかなり高価だが、アミスター王国では設置を義務化している。他の国ではまだ貴族とか商人ぐらいしか導入出来ていないらしい。この点だけでも、飛ばされたのがアミスター王国でよかったと思う。


「この部屋が一泊400エルって、かなり安いわね。儲かってるのかしら?」

「この部屋は商人の方がよく宿泊なさいます。当宿では最高の部屋ですので、防犯にも気を遣い、高性能の魔道具を使用しております。そのため盗難などの心配もございません」


 盗難の心配がないとなれば、商人とかは喜んで泊まるな。それでいて一泊400エルはかなり安い。だが問題もある。


「しかし盗賊を捕まえたからここに泊まれたが、初日からこんな生活してると金銭感覚がおかしくなるな」


 そう、それが問題だ。まだ残金25,500エルずつあるとはいえ、他にも必要な物はある。着替えだってそうだし、飯もそうだ。こんな生活をしてたらすぐに金がなくなってしまう。


「それには同意よ。明日必要な物を買ったら、いくつか依頼を受けましょう。町の外で適当に魔物を狩ってもいいけど、依頼を受けたほうが効率的だし」

「ランクのこともあるしな」


 Aランク相当の実力があるとはいえ、実質のランクはまだIだからな。急いではいないが低すぎても周りになめられるし、いらん騒ぎに巻き込まれるから、ある程度は上げておく必要がある。まあ武具ができるまではぼちぼちやって、できてから本格的に動くってのが無難か。


「武具ができてからが本番ね。それまではゆっくりやりましょうか」


 どうやらプリムも同じ考えらしい。ホントにこいつとは意見が合うよな。


「ところで大和、ミーナの様子は?」

「予想通りだな。無理にでも送っていけばよかったかもしれん」


 ミーナとは魔銀亭の前で別れている。送っていくと言ったのだが


「見習いとはいえ騎士団に所属していますし、中央通りはまだ賑わっていますから大丈夫ですよ」


 と言われてしまった。無理に送っていったりすれば、見習いとはいえ騎士のプライドを傷つけることになるからそれ以上は言えなかったんだよなぁ。


「誰かまではわからんが、ミーナを尾行してる。十中八九、スネーク・バイトの関係者だろうが」


 俺は風性C級探索系術式イーグル・アイをミーナの鎧に刻印化させ、周囲を警戒していた。

 イーグル・アイは空気の流れに視線を飛ばし、周囲の様子を見ることができる術式だ。空気中ならどこでも使えるのだが、ほんの少しだけでも空気が流れていなければ情報の精度が落ちるため、少しクセがあると言える。探索系の有用性と重要性は父さんから厳しく教えられていたから、人が歩く程度の流れでも十分使えるようにはなってるけどな。

 俺はそのイーグル・アイを刻印化させることで、定期的に様子を伺えるようにしている。刻印術は刻印から発動しているため、魔道具より効率が良く、発動も感知しにくいとプリムが言っていた。それに俺の情報端末状の刻印具は最新型の特別製で、探索系を映し出すことができるようになっている。この技術は数年前にようやく実用化されたのだが、まだ世間には出回っていない。開発者が父さんや母さんの先輩だから、俺にも試供品が回ってきたというだけの話だ。


「この町に来たばかりだから何とも言えないけど、さすがに騎士団に手を出すようなことはないか」


 あまり大きな画面ではないが、周囲の様子はわかる。プリムも画面を見ながら尾行者の姿を確認した。ミーナを尾行しているのは一組の男女で、かなり慣れている感じがする。おそらくだが俺達との関係を調べているんだろう。


「詰所までは無事に着いたみたいだな。どこに住んでるかはわからないが、レックス団長と同じ家だろうから、そこは安心できるか」

「さすがに騎士団長に手を出したら、この国を敵に回すことになるしね。とりあえず一安心ってことで、ご飯運んでもらいましょうか」


 この部屋の便利なところは、備え付けてある魔道具を使えば受付に連絡が取れるということだ。インターホンみたいなものだが、いちいち呼びに行かなくてもいいのはありがたい。


「だな。で、飯が終わったら魔法を教えてもらってもいいか?ボックス・ミラーとか便利そうだし」

「ええ、もちろん」


 運ばれてきた食事はワイルド・ボアという魔物の肉を使ったシチューだった。よく煮込まれていてけっこう美味かったな。

 その後は魔法について教えてもらい、ボックス・ミラーを使えるようになったところでそれぞれ寝室に入ることにした。

はい、オーダーメイドに続いて豪勢にもホテル暮らしです。贅沢な生活しやがって……。あとミーナに危険が?大丈夫なのか、この町は。

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