005・オーダーメイドをしよう
「お待たせしました、大和さん、プリムさん」
「いえ、こちらも終わったところです」
ギルドに入るとカミナさんが笑顔で迎えてくれた。相当迷惑を被ってたっぽいな。
「査定、どうだった?」
「問題なく終わりました。カミナさん、こちらが資料です」
「ありがとうございます、ミーナさん。それでは先にライセンスの発行をさせていただきます」
そう言うとカミナさんはカードを2枚、俺達の前に出した。
「これに血を垂らしていただきましたら、ライブラリーにもこのハンターズライセンスと同じ内容が表示されるようになります。またこのライセンスも身分証としてご利用いただけますので、いちいちライブラリーを出す手間も省けます」
それはいいな。ライブラリーには名前や年齢どころか称号まであるからな。間違って閲覧許可しちまったら、面倒なことになりかねん。
「ライセンスは他人が使用することはできませんが、紛失した場合はすぐにギルドで再発行の手続きを行ってください。その場合は手数料として3,000エルが必要となります」
ボックス・ミラー、だったか。普段はそれに入れておけば大丈夫だろう。とりあえず、内ポケットにしまっておこう。
「それではライセンスの発行は以上で終了となります。続いて懸賞金をお渡しします。ご確認ください」
目の前に出された書類を見ると、やはりレベル23の男は賞金首で、他にも3人が賞金首だった。残り3人はそうではなかったが、それでも緋水団のメンバーということでけっこうな賞金を出してくれている。総額なんと20万エル!いきなり小金持ちジャマイカ!
「あの男は生け捕りにしたから9万エル、三人の賞金首が3万エル、残り三人が1万2千エルか。あれ?残りの1万エルは?」
「お二人が生け捕りにした男は緋水団の幹部と言われています。ですから引き出せる情報に価値があると判断され、情報提供料として1万エルをお支払いさせていただくことになりました」
「なるほど、確かに情報は大事だからな」
確かに頭のように見えたが、別にそいつを狙ったわけじゃない。位置関係から考えれば偶然ともいえる。おかげで俺達は儲けたわけだが。
「それからミーナ、外の連中なんだけど」
「外?ああ、スネーク・バイトですね。どうかしましたか?」
「あいつら、俺達を奴隷商に売り飛ばすって言ってたんだが、この国じゃそんなことが認められているのか?」
「そんなわけがありません。ですがスネーク・バイトに目をつけられたハンターが、行方不明になっているのは事実です」
限りなく怪しいですね、それは。
「それに外野連中も、私達が奴隷商に売られるって思ってたわよ。これっておかしくない?」
そう、おそらくハンターだろうと思われる連中も、俺達が奴隷商に売り飛ばされると思っていた。アミスター王国では違法行為だが、その法律はこの町にいるハンターにだって適用されるし、そんな行為はハンターズギルドだって認めていない。にも関わらずそんな発想に至るってことは、ハンターの間じゃそんな行為がまかり通っている可能性があるってことだ。
「そのことについては、騎士団と連携して調査しているところです。近年ハンターの質が低下し、この町を訪れるハンターも少なくなっていますから、国としてもギルドとしても放置できなくなっていまして」
「それにしちゃ動くのが遅すぎないか?質の低下も問題だが、この町に来るハンターが少ないってことは、他の町のハンターにもそんな噂が流れてるってことだろ?」
「おっしゃる通りです。ですがこの問題は、相当根深いようでして……」
そりゃそうでしょうよ。確か隣国のレティセンシア皇国が、マイライト山脈のミスリル鉱山を狙ってるって噂があるらしいからな。それにレティセンシア皇国は非合法奴隷を認めてるから、アミスター王国とはかなり仲が悪いとも聞いている。まあ全部、プリムから聞いた話だが。
「スネーク・バイトは騎士団で身柄を拘束します。何かわかればお二人にもお知らせすることをお約束します」
「それでいいわ。それじゃギルドでの手続きはこれで全部かしら?」
「はい。何か不明な点がありましたら、いつでもギルドへお越しください」
「わかりました。それでは」
ちなみに賞金は二人で山分け。2,000エルは登録料ということで引いてもらってるから10万エルが今回の収入になる。白金貨一枚ずつだ。金額的には大儲けなのだが、受け取ったのが貨幣1枚だと損した気になる。
同業者にはかなり驚かれたが、そんなことは気にもせずにギルドを出ると、俺達は武器屋へ向かった。
「フィールの武器屋や防具屋ではミスリル製が多いですし、鍛冶工房も併設されていますから、オーダーメイドも可能です。これも人を呼ぶための苦肉の策ではあるのですが」
大きな町であるフィールだが、緋水団の問題はこんなところにも影響を及ぼしているのか。まあ騎士団に匹敵する規模の盗賊団がいると知れば、多くの人は足を運ぶのを遠慮するよなぁ。
「ミスリルか。私も槍を買い替えようかしらね」
プリムの槍は鋼鉄製だが、あまり程度のいい物ではないらしい。以前使ってた槍が折れてしまったから、間に合わせに急遽購入した安物だって言ってたな、そういえば。
「らっしゃい。おお、ミーナ嬢ちゃんか。今日はどうした?」
武器屋に入ると小柄で白髪白髭のおっさんが店番をしていた。うん、どこからどう見てもドワーフですな。
「こんにちは、リチャードさん。今日はこの人達の付き添いなんです」
「大和といいます」
「プリムよ。さっきハンター登録を終えたばかりなの」
「知っとるよ。さっきスネーク・バイトの連中を叩きのめしておっただろう?」
「あちゃ」
この武器屋はハンターズギルドと同じ広場にあるからな。そりゃあんなことすれば目立つよなぁ。
「連中の身勝手な行為に、町の者は辟易しておったよ。そこにお主らが現れて叩きのめしてくれたんじゃから、こちらとしては溜飲が下がる思いじゃった」
リチャードさんが目を細めながら、けっこう嬉しそうにそう言った。あいつら、本当にロクな事してなかったんだな。
「で、ハンター登録をしたということは、武器を探しにきたということじゃな?」
「そうです。俺は剣を、彼女は槍を買おうと思いまして」
剣を買うのは一番使い慣れてるからだ。日本刀があればいいんだが、あるかどうかわからないしな。
「そっちの嬢ちゃんは既に槍を持っているようじゃが……なるほど、確かにこれは買い替えたほうがいいようじゃな」
「さすがドワーフ、見ただけでわかるなんてね。お察しの通り、そろそろ限界なの。それにフィールのミスリルは世界的に有名だし、それならと思ってね」
「そういうことなら、いい槍を見繕うとしよう。少々値は張るがオーダーメイドもできるぞ。どうするかね?」
武器のオーダーメイドは正直かなり惹かれる。懸賞金ももらったし、思い切って頼んでみるのもいいかもしれない。
「そういえばそんな話だったわね。ちなみにお値段は?」
どうやらプリムも同じ気持ちのようだ。値段次第だな、頼むのは。
「材料費込みで3万エルからじゃ。これは剣でも同じじゃな」
「え?それだけでいいの?」
「魔法付与はできんからな。もっとも、注文してもらってから十日はかかってしまうがの」
「それは……悩ましいわね」
「それならプリム、オーダーメイドの武器をメインアームにして、今から買うのを予備にすればいいだろ」
「それがいいかな」
「あっさりと決めるのう。こちらとしてはありがたいが」
オーダーメイドの武器なんて、テンション上がるからな。それに命を預けることになるんだから、少しでも自分にあった武器を選びたい。
「リチャードさんもそう思ってくれていて、オーダーメイドの受注も二つ返事で了承してくださったんです」
おっと、声に出てたか。俺の知るドワーフと同じかはわからないが、ドワーフは自分の作る武具には誇りを持ってるみたいだからな。数打ち品よりオーダーメイドの方が性に合うってことか。
「ほっほっほ。やはり武器は精魂込めて打つに限るからの。オーダーメイドということになれば使い手も愛着を持つし、末永く使ってくれる。ワシらとしても願ったり叶ったりじゃよ」
武器は売れなくなるがの、という呟きが聞こえてきた。まあそうだよな。もっともオーダーメイドはかなり高価だから、スネーク・バイトの連中も手を出してなかったらしい。何にしても、連中にオーダーメイドの武器なんて似合わないけどな。
「それじゃデザインを決めようぜ。せっかくなんだし、少しぐらい派手でもいいだろ」
「いいわね、それ。私の槍は……そうね、穂先をショートソードより少し短いぐらいにしてもらって、私の翼みたいな刃を一対でお願いします」
えらくゴテゴテしたデザインだな。それに重そうだ。翼族は短時間なら飛べるらしいが、飛べなくなるんじゃないだろうか。
「翼族の象徴を取り入れるか。そのデザインはかまわんが、そうなると槍っていうよりハルバードになるぞい?」
「ミスリルでなければ、こんなデザインはお願いしないわよ」
そういやミスリルはかなり軽いって話だったな。確か普通の片手剣が2kgないぐらいだが、ミスリルで作ると重量は半分ぐらいになるそうだ。ハルバードの重さはわからないが、多分3kgぐらい、ゴテゴテした装飾を含めても5kgはないだろう。それの半分ぐらいだから、十分実用的か。
「それもいいじゃろう。デザインは羊皮紙に書いておいてもらえるか?」
「あう……。私、絵が下手なのよね……」
俺も苦手だし、何よりプリムの頭の中のデザインがよくわからない。
あ、待てよ。俺はポケットから刻印具を取り出し、保存してあるゲームのデータから、槍を検索してみた。すると一つだけ、該当するようなデザインが見つかった。ネットにはつながらないが、保存してあるデータの閲覧はできるから、こういう時は助かる。やっててよかった、あのゲーム!
「プリム、こんな感じか?」
「これよ!こっちの方がいい感じかも!」
見せた槍は俺が一時はまっていたゲームのものだ。色は黒いが、そこはどうとでもなるだろう。
「珍しい魔導具じゃな。ふむ、これはドラゴンの翼のようじゃから、これを嬢ちゃんの翼風にして、色も変えるべきじゃな」
「あ、できれば赤系でお願いします!」
一枚のSSで理解したばかりか、改良案まで出してくるとは、さすがドワーフ。
「で、兄ちゃんはどうするね?」
「そうですね、こんな感じで」
俺は槍の画像を消すと、剣の画像を検索し、リチャードさんに見せた。ちなみに俺が見せたのは日本刀のような刀身の剣だ。刀身は細いが、切っ先が少し広がっている。あのゲーム、日本刀なかったんだよなぁ……。
「う~む……こんな剣は初めて見る。だがこっちも面白そうじゃな。引き受けよう」
「ありがとうございます」
これは出来上がった武器に愛着が沸くな。プリムも嬉しそうに尻尾を振りながら顔を綻ばせてるし。
「ではオーダーはこれでいいとして、後は予備になる武器じゃな。嬢ちゃんはハルバード、兄ちゃんは片刃の剣でいいかな?」
「はい。一応見せてもらえますか?」
「無論じゃ。ほれ」
俺は片刃の剣を手に取った。ミスリルブレードというらしい。思ったより手に馴染む。少し振ってみたが、軽くて使いやすそうだ。
「いい剣ですね。これでお願いします」
「私もこれでお願い」
「毎度ありじゃな。お前さん達の武器は作るのも楽しそうじゃから、少しまけておいてやるわい。それぞれ4万エルでいいぞ」
うおい、えらいサービスしてくれるじゃないか!このミスリルブレードは2,000エルだし、プリムのミスリルハルバードにいたっては5,000エルもすんだぞ!
「いやいや、いくらなんでもサービスしすぎでしょ!」
「そうよ。普通に考えても、全部で5万エルはするはずよ!」
「気に入ってくれたようじゃが、おそらくそいつらではお前さん達の魔力を受けきれん。そんな武器を使わせるなど、ドワーフの誇りが許さんのじゃよ。それに、この武器を作るのは面白そうじゃからな」
なんて漢前なんだ。こちらとしては助かるが、そちらにも生活があるだろうに。
「心配せんでも、今フィールにいるハンター連中はオーダーメイドなどせんよ」
豪快に笑うリチャードさん。高いってのもあるだろうが、そいつらは武器の使い方が荒いんだろうな。
「リチャードさんがこうおっしゃってくださってるんですから、お言葉に甘えてはどうですか?」
「なんか悪い気がするけど、そうさせてもらおうかしら」
「だな。あっと、そういえば防具もオーダーメイドできるんですか?」
武器はこれでいいが、防具を忘れてはいけない。フルプレートアーマーみたいなガチガチの鎧は好みじゃないが、いつまでも制服ってわけにもいかないからな。
「防具か。ワシの孫が隣で見習いとして働いておる。と言っても店主はワシの弟子じゃから、工房は兼用じゃがな。それでも良ければ紹介するぞ」
「ぜひお願いします」
「大和、防具の絵もあるんでしょ?私も作るから、後で見せてよ」
「もちろんだ」
防具までオーダーメイドしてしまうとは、どこの貴族様だよって話だな。ちなみに俺もプリムも防具の基本デザインは同じ。ロングコートに胸当てや肩当てを追加したような形状だ。もちろんゲームの鎧とほとんど同じでデザイン。あ、当然手甲や足甲もセットでお願いしてますよ。こっちは仕上がりまで一週間程だそうだから、防具の購入は見送った。お値段はジャスト3万エル。とってもお買い得でした。
いきなり武器防具のオーダーメイドです。デザインはFF14をイメージしています。大和の剣は斬鉄剣、プリムの槍はゲイボルグ、んで鎧はバハムート・ディフェンダーアーマー。あ、背中の羽はなしの方向で。
鎧のデザイン、アダマン・ディフェンダーコートに変更します。