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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第二章:客人の遺したモノ
31/99

031・マイライト山脈の異常事態

プリムの槍の名称を間違えていたので修正しました。

「で、ここが件の遺跡なわけね」


 やってまいりました、マイライト。いつも通りジェイドとフロライトの背に乗って来たから、フィールから片道一時間足らずだ。陸路なら獣車を使うんだが、空路の場合は獣車を使えない。だからボックスに突っ込んで、俺はジェイド、プリムはフロライトの背に乗るのがデフォルトなんだが、ではリディアとルディアはどうするのかという話になる。往路はリディアが、復路はルディアがジェイドに乗ることで一応の解決は見ているのだが、そうするとプリムが俺と一緒に乗れないという問題が発生する。露骨に拗ねたりはしないが、それでも寂しそうに尻尾が垂れてしまうので、目的地とフィールに到着後しばらくは俺にべったりとひっつくことで勘弁してもらうことにしている。


「マイライトの山頂って初めて来ましたけど、本当に森があるんですね」


 マイライトに限らず、ヘリオスオーブの山は地球の山と同じで、高度が上がる程木々は育たなくなる。

 だが地球と違い魔力が大気に満ちているこの世界では、地球の常識が通じない地域もある。トラレンシア魔王国にあるゴルド氷河は、一面雪と氷の世界だが中心部にあるセリャド火山は溶岩の湖に浮かんでいるし、バリエンテ獣人連合国にあるガグン大森林は海の上だったりする。この二ヶ所はフィリアス大陸でも指折りの難所として有名で、山頂に森があるマイライトも同様の難所に数えられているが、一応全貌は判明しているため、ハンターズギルドでも危険認識度は前述の二ヶ所より若干低い。


「この森にフェザー・ドレイクが生息してて、最近じゃオークも集落を作ってる。倒しても倒しても、次から次へと集落ができるから、何か強力な魔力発生源でもあるんじゃないかってライナスのおっさんも言ってたな」

「何度か最上位個体を倒したって言ってたわよね」


 オークを含む亜人はキングを頂点にクイーン、プリンス、プリンセスが最上位の個体になる。特にプリンス、プリンセスはキング、クイーンになるため、早急に討伐しなければならない。

 最上位個体は例外なく数が少ないし、どちらかと言えば異常種や希少種に近い。にもかかわらずマイライトに来る度、必ずどれかは倒しているから、本当に何かあるんじゃないかと思えてしまう。


「あの集落、潰しておきましょう」


 プリムが眼下に視線を落としながら呟いた。


「遺跡からもそう遠くないな。だけどあんなとこに、集落なんてあったか?」

「そうなのよね。遺跡近くの集落は優先して潰していったから、あんな大きな集落を見逃すはずはないし……」


 眼下には大きな湖が広がっており、その湖畔に俺達が調査をしようとしている遺跡がある。だがその近くには、今まで見たどの集落より大きなオークの集落もあった。今もジェイド、フロライトの背に乗って上空を飛んだままだが、あんな大きな集落を見逃してたなんてことは考えられない。


「考えても仕方ない。とりあえず俺とプリムが突っ込むから、リディアとルディアはジェイド、フロライトに乗ったまま、上空から援護を頼む」

「オッケーよ」

「頑張ります」


 マイライトのオークは上位種も多いから、Gランクに昇格したとはいえ、リディアとルディアには荷が重い。幸いにもこの一ヶ月で魔法の扱いは慣れてきているから、ジェイドやフロライトと一緒に上空から援護をしてもらえば、危険は少ないはずだ。


「そんじゃ、行きますか!」


 俺はミラー・リングを生成し、集落全体にヴィーナスを発動させた。大気に干渉する結界だから、懸念事項であるオーク・アーチャーや上位種のオーク・スナイパーの弓もほとんど無効化できる。同時にフライ・ウインドを発動させると、ジェイドの背から飛び降りた。


「フロライト、ジェイド。リディアとルディアをよろしくね!」

「「クワアッ!」」


 プリムも灼熱の翼を発動させ、フロライトの背から飛び立った。

 俺のミスリル・アーマーコート、プリムのミスリル・アーマードレス、リディアのミスリル・マリンドレス、ルディアのミスリル・フレイミングドレス、ミーナのミスリル・ドレスサーコートには、いくつかの刻印術を刻印化してある。その一つがフライ・ウインドだ。自分で飛ぶより少ない魔力で済むし、何より自分の翼で飛ぶのと同じ感覚だから、プリムも尻尾を大きく振って喜んでくれたな。さすがにフィールの周辺じゃ練習はできなかったが、それはヒポグリフに乗ってベール湖の沖に出ることで解決した。水竜のリディアはまだ慣れない感じだが、火竜のルディアも喜々として飛んでたよ。


「『アース・ストーム』!」

「『フレイム・ストーム』!」


 俺とプリムが最初に開発した広範囲を攻撃するストーム系を、リディアが土、ルディアが火の魔法で放った。オークの集落は土煙と炎の嵐に包まれ、大パニックを起こしている。


「『フレイム・スフィア』……『フレイム・エクスプロージョン』!」


 そこにプリムがフレイム・スフィアを三つ作り出し、それをフレイム・エクスプロージョンで爆発させた。極炎の翼という称号は伊達ではなく、出会った時より炎の勢いは強く激しくなっており、集落は爆撃でも受けたのかといった状態になった。


「そら、よっとっ!」


 集落に降り立った俺は、薄緑にブラッド・シェイキングを発動させ、オーク達を斬りまくった。子オークだろうと何だろうと容赦なく屠り、既に多数のオークが死傷しているが、なんかこっちが悪者になった気分だ。相手が人間だったら、どう考えても盗賊だからなぁ。だけどここで潰しておかないと、近い将来フィールやプラダ村が危険にさらされることになるから、心を鬼にしないければ。


「おっと!せえいっ!」


 プリムも容赦なくオーク達を貫いていく。あれ?今プリムが倒したのって、オーク・プリンスじゃね?今俺が斬り捨てたのもプリンスだぞ?


「プリム、なんかおかしくないか?」

「ええ。プリンスが二体って、あり得ないわ。将来のキングであるプリンスと一緒にいるとすれば、それはキング、クイーン、プリンセスだけのはず」


 プリンスがいるからキングがいるわけではないが、成長すればキングになると言われているだけに、プリムの言う通り一つの集落に最上位個体は一種につき一体しか生まれない。つまり亜人の中では家督争いみたいなものは起こりえない。別に起きたところで知ったことじゃないが、プリンスが二体もいるという事態は、十分に警戒するに値する要素だ。


「おっと!『ブラスト・ランス』!」

「『フレイム・アロー』!」


 向かってくるオークに魔法をブチ込むと、一番大きな建物?砦?からオーク・ハイナイト、オーク・ジェネラル、オーク・カーディナル、オーク・セージなんかが大挙して出てきた。おいおい、上位個体がこんなにいたのかよ。全部で20体はいるぞ。


「ま、またプリンス!?」


 そう思っていたら、またしてもオーク・プリンスが現れた。今しかも驚いたことに10体もいる。いよいよもって異常事態だ。


「大和!プリム!撤退しよう!いくらなんでもおかしいよ、ここ!!」


 上空からルディアが叫ぶ。確かにこれは撤退も視野に入れなきゃいけないが、だからといって放置していい問題でもない。少なくとも目の前のオークどもを倒さないと、撤退は難しそうだ。ヴィーナスの干渉力を集中させればできなくはないが、まだ何かありそうだし、俺の勘もそう告げている。


「逃げるのもアリだけど、せめてもう少し情報を手に入れておきたいわね」

「だな。リディア、ルディア!絶対に降りてくるなよ!ジェイド、フロライト!いつでも離れられるようにしといてくれよ!」


 上空の二人と二匹に指示を出すと、俺はマルチ・エッジも生成した。二つの刻印法具を同時に使うのは久しぶりだし、ヘリオスオーブに来てからは初めてだが、これが本来の使い方でもある。


「刻印法具って、同時に生成できるのね」

「ああ。同時に生成しないと切り札を使えないけど、今まではそんな必要もなかったからな」

「まあ、相手が相手だったしね。さすがに今回はマズいし、私も切り札を使うしかないか」


 プリムも翼を広げると、左の翼に爆風の翼を纏わせた。翼族の固有魔法 精霊の翼は灼熱、吹雪、爆風、大地、閃光、宵闇のいずれかの翼を纏わせ、対応した属性や魔力を強化するが、纏える翼は一つの属性だけとされている。だが高レベルの翼族なら、不可能というわけではないらしい。事実プリムは、右に灼熱の翼、左に爆風の翼という、異なる属性の翼を纏わせた。二つの属性を同時に翼に纏わせる、これがプリムの切り札だ。


「大和さんは刻印法具を同時に生成して、プリムさんは精霊の翼を同時に纏った……」

「あれが二人の切り札……」


 二つの刻印法具に二つの属性を宿す翼を見て驚くリディアとルディア。固有魔法は切り札だが、人によっては戦闘に向かなかったりもするし、あんまり見る機会もないからな。

 固有魔法は誰でも覚えることができる魔法だが、自在に使いこなすには修練が必要だ。リディアとルディアも覚えてはいるが、まだ使いこなしてるとは言い難い。二人の固有魔法も十分切り札になりえると思うから、俺やプリムも協力しているが、もうちょっとかかるかな。


 ―プリム視点―


「行くぜぇっ!」


 大和がブラッド・シェイキングを発動させたマルチ・エッジを投げると、それを合図にしたかのようにオーク達が襲い掛かってきた。マルチ・エッジはオーク・ハイナイトの一体に命中し、血飛沫を上げて絶命したけど、他のオーク達はそんなことは意にも介していない。というか、集落の惨状すら気にしてない感じがする。


「遅いのよっ!なっ!?」


 私はフレイム・アームズをスカーレット・ウイングに纏わせて宙を舞い、オーク・カーディナルとオーク・ジェネラルをまとめて貫いた。そのまま引き抜いて、今度はオーク・ジェネラルに穂先を向けたが、驚いたことにその個体は自分の体で槍を受け止め、筋肉を収縮させたまま息絶えた。マズい、このままじゃ抜けない!


「プリム!」

「ふざけるんじゃ……ないわよっ!」


 大和が援護してくれようとしたが、私だってHランクに近いハンターだ。灼熱と爆風の翼の魔力を全開にして、オーク・ジェネラルの死体を焼き尽くすと、襲い掛かってきたオークに火と風の合成魔法フレア・ストームを放ち、一気に焼き尽くした。


「この程度で私を倒せるなんて、思わないことね!」


 私が得意としている属性は火と風。私は大和の刻印術みたいに、その二つの属性を同時に使えるように研究と修練を重ね、先日やっと火と風の合成魔法、極炎魔法きょくえんまほうとして完成させた。称号にある極炎の翼は、その時に得られたものであり、同時に今纏っている灼熱と爆風の翼につけた名称でもある。

 刻印術では、風は火を煽る、という相応関係があるそうだけど、それは魔法にも当てはまり、極炎魔法は火魔法とは比べ物にならず、威力も見てもらった通りよ。魔力の消費が激しいので乱発はできないけど、それでも私の切り札として十分な性能だわ。大和には本当に感謝ね。

多分、いままでで一番激しいバトルですが、やっぱり戦闘描写は難しいです。

さりげなくミーナの装備に触れてますが、全貌はミーナ再登場までお待ち下さい。

今までは大和視点でしたが、はじめてヒロイン視点をいれました。今回は短めですが、今後増えていきます。


・序盤に矛盾点があったので、修正しました。ずっと空の上なので、プリムがひっつく余裕はありませんでした(^^;)

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