029・アミスター王家の伝統
「あ、大和様!皆さんもお揃いで、どうかなさったんですか?」
ミーナ、リディア、ルディアの武具をオーダーし終えると、俺達はベールホテルを訪れた。ユーリアナ姫に会うためだ。
「ユーリアナ殿下、ご機嫌麗しく。昨夜はいかがお過ごしでしたか?」
使い慣れない敬語で話してみるが、自分でも違和感が半端ない。プリムなんて肩を震わせてるからな。笑いたきゃ笑ってくれよ。
「はい!とっても快適でした!お料理も美味しかったですし、伯爵が付けてくれた侍女も親切にしてくれていますから」
ニッコリと笑うユーリアナ姫。すごく可愛いんだが、確かまだ13歳なんだよな、このお姫様。護衛だけじゃなく、侍従まで全員が緋水団に殺されてしまったこともあって、ビスマルク伯爵が連れてきていた侍女が付いているが、さすがに俺達相手に無防備な姿を見せているユーリアナ姫に驚いている。
「それはよかったです。ところで近々王都に戻ると聞きましたが?」
「はい。今日明日はフィールの様子を見させていただいて、明後日ビスマルク伯爵の飛竜で帰ります」
「私も団長と共に、護衛につかせていただくことになっています」
ミーナは騎士団最後の仕事として、レックス団長と共にユーリアナ姫を護衛して王都に行くことになっている。その足で王都にある実家に顔を出し、俺と婚約したことも伝えるんだとか。いずれ俺もご挨拶に伺うことになるが、とてもとても胃が痛くてたまりません。
「ところで殿下」
「そんな他人行儀な呼び方じゃなく、ユーリとお呼びください。お父様達は皆そう呼びますから」
ハードル高いよ!正式に婚約とかしてるならともかく、というかそれ以前に会ったばっかだよ!
「……ではユーリ様、王都に戻られてから、またフィールに来ると伺いましたが?」
「まだ固い感じがしますけど、今は良しとします。先程のご質問ですが、お父様がお許しになったらです。おそらくお許しになられると思いますが」
何故に?だってお姫様ですよ?そう簡単にほいほい出歩けるもんでもないと思うんだが?
「大和は知らないだろうけど、アミスター王家は必ず、どこかのギルドに登録しなきゃいけないのよ。でないと継承権を得られないって聞いたことがあるわ」
「そうなの?」
「プリムさんのおっしゃる通りです。事実としてお兄様もお姉様も、ハンターズギルドに登録されています。お父様はスミスギルドですけど」
王様は鍛冶師という衝撃の事実。
ここでギルドについて説明しよう。アミスター王国には大きく分けて五つのギルドが存在する。
まず俺達が所属しているハンターズギルド。これは魔物を狩ることを生業としているが、商人や旅人を魔物から守るために護衛をすることもある。登録するための条件は一番緩く、レベルと魔物との戦闘経験があれば誰でも登録可能だ。王都に本部があるが、総本部はアレグリア公国にある。
続いてスミスギルド。これは職人組合とでも言うのが一番わかりやすいだろう。鍛冶師だけじゃなく細工師や調理師なんかもここに所属している。実際リチャードさん、エド、マリーナはスミスギルドに登録している。登録するためには、登録者の弟子になるか推薦が必要となっており、総本部はアミスターの王都にある。ちなみにランクが金属系なのは、スミスギルドが一番最初に設立されたギルドだからなんだそうだ。
そのスミスギルドから派生して誕生したのがマーチャントギルド。商人組合だ。派生だけあって登録するための条件はスミスギルドと同じだが、自分で店を持つ場合、必ずマーチャントギルドに登録しなければならないので、スミスギルドと同時に登録している人も多い。奴隷商なんかも登録を義務付けられてるから、マーチャントギルドのライセンスを持ってない商人はモグリか闇商人ということになり、処罰の対象にもなっている。総本部がある国はリベルター共和国だ。
続いてメディカルギルド。平たく言えば病院だ。病気や怪我なんかを治すことが目的なので、治癒魔法が使えなければ、当然だが登録はできない。同時に治癒魔法の研究も行っているため、専門的な知識が必要とされている。
最後にサーバントギルド。これは執事やメイドさんが登録しているギルドなので、他とは少し毛色が違う。主に仕えるための作法や護衛のための武術なんかを教える、養成学校とでもいうべきものだ。だが既定の成績を収めなければ派遣されることはないし、雇ってくれるかは相手次第、その相手が雇っている先輩はサーバントギルドに登録しているとは限らないので、ある意味一番厳しいギルドといえる。知り合いの伝で奉公させてもらうっていうことも、そんなに珍しい話じゃないみたいだからな。
ちなみにメディカルギルドとサーバントギルドは、百年程前に新しくできたギルドで、アミスター王国にしかない。多分だけど、客人が関与してるんだろうな。
で、どうやら兄王子様はPランク、姉姫様もGランクのハンターで、王様はなんと、Pランクの鍛冶師なんだそうだ。ハンターズギルドのランクはレベルで決まるからわかりやすいが、他のギルドは実績と実力が評価されるため、レベルが低くても高ランクになることは珍しいわけじゃないみたいだ。大商人なんかが最たる例だろう。
「なるほど、つまりユーリ姫も、近いうちにどこかのギルドに登録しなきゃいけないってわけか。って、ちょっと待て。フィールに来るって、まさかハンターズギルドに登録するつもりですか!?」
「そうですけど?」
疑問に疑問を返さないで!いや、さすがにサーバントギルドだけはないと思ってたけどさ!だけどハンターってけっこうキツい職業ですよ!?俺達はあんまり経験ないけど、野宿だって普通にするんだよ!?盗賊なんかの相手をすることもあるし、突然異常種なんかが出てきたりしたら、命の危険もデカいんだよ!?
「お兄様やお姉様から、よくお話を聞かせていただいてました。ですから私も、それなりに戦えるように訓練を積んできたつもりです」
そう言うとユーリ姫は、ライブラリーを見せてくれた。見ていいのか、これ?
ユーリアナ・ラグナルド・アミスター Lv.20 13歳
アミスター王国第三王女
思ったよりレベルは高いな。レベル20ってことはSランクだが、21になればMランクになれる。つか20って、ミーナより上なのか。まあレベルはそんなに変わらないし、実際に戦えばミーナが勝つだろうけど。
あ、ミーナのライブラリーはこんな感じ。
ミーナ・フォールハイト Lv.19 17歳
所属騎士団:アミスター王国第三騎士団
見習い騎士、客人との絆を深めし者、客人の婚約者
どうやら騎士団の場合、所属している騎士団がライブラリーに表示されるようになってるらしい。レベルは出会った時18だったんだが、プラダ村への往復で上がったそうだ。あと称号を見てもらってもわかるように、しっかりと俺の婚約者と認定されている。もちろん俺の方にも『見習い騎士の婚約者』っていう称号が増えてたよ。見習い騎士なんて何人いると思ってんだよ、まったく。
「まあ、王様が許可を出されたらってことで」
ウイング・クレストに入ること前提の会話だが、ユーリ姫がフィールでハンター登録をする場合、必然的に俺達が面倒を見ることになる。なにせ本人の自主独立性と周囲との協調性を学ぶことを主題にしてるから、お付きとか護衛は影ながららしいし、余程のことがなければ大臣とかも口を出さない。当然命を落とすこともありうるし、実際に亡くなった方もいるそうだ。裏切りや盗賊なんかに殺された場合は対処するが、魔物の場合は簡単な葬儀で終わるらしい。魔物に殺されるようなら王位を継ぐ資格なし、っていうことなんだとさ。
「はい!必ずお父様を説得してみせます!」
いや、説得なんかしなくても、必ずどこかのギルドに登録しなきゃいけないんなら、一応許可は出してくれると思うよ。ああ、俺達のレイドに入ってフィールで活動することの方か。確かに普通は王都を拠点にして、後は遠出するってぐらいだろうからな。
「ところでユーリ様、いい加減に様付けは勘弁してもらいたいのですが?」
お姫様から様付けされるなんて、はっきりいって居心地悪い。そもそもそんな呼び方されたら、むず痒くて仕方がない。
「旦那様をお呼びするんですから、当然だと思うんです!」
膝が砕けそうになった。旦那様も何も、結婚どころか婚約すらしてないからね?
「アミスターのお姫様って、積極的なのね」
「アミスターは基本、本人の望むお相手とご結婚されることが多いと聞いてるわ」
俺も知らなかったんだが、リディアとルディアの言う通り、アミスター王家は本人が望んだ相手と結婚することが多い。さすがに王位継承者はそんなこと言ってられないが、それでもある程度の希望は通るそうだ。確かユーリ姫の兄上様は既に結婚されていて、正室こそ貴族だが、ハンター時代に知り合った女性も側室に迎えていると聞いている。まあ今でも、現役ハンターなんだが。
「それはいいとして、ユーリ殿下には婚約者とか、それに近しいお相手はいらっしゃらないのですか?」
プリムから質問が飛んだ。王侯貴族の女性は15歳前後で結婚することが多いそうで、ユーリ姫にもそれらしい相手がいてもおかしなことではないそうだ。余談だがバリエンテの公爵令嬢だったプリムにもそういった話は山のようにあったそうだが、プリム本人だけでなく、ご両親も断り続けていたため、そんな相手は一人もいなく、ユーリ姫の姉君はハンターとしての活動に重きを置いているため、そっち方面の話は一切ない。
「お一人、それっぽいお話をお父様に持ってきたそうですが、私にもお父様にもその気はありませんから、いないとお答えしていいと思います」
やっぱりいたか。まあ貴族からすれば、王家との繋がりをもてる絶好の機会だから、当然の話だよな。言ってしまえば政略結婚だが、地球でも普通にあるし、王政の国じゃ当たり前のことだろう。
「ところで皆さん、武装してらっしゃいますけど、これから狩りにいかれるのですか?」
「ええ。リディア、ルディアともレイドを組みましたから、簡単な魔物を狩って、役割の確認をしようかと」
今までは俺とプリムの二人だけだったし、何よりレベルに物を言わせる戦い方してたから、役割もクソもなかったんだよ。力技で全て片付いたからな。
だけどリディアとルディアも一緒に行動する以上、そんな戦い方をしていればいつか痛い目を見る。それが自分ならまだいいが、リディアやルディアに降りかかってしまえば、後悔だけじゃ絶対に済まない。だから簡単な魔物を狩って、戦い方を確認しようと思うんだよ。
「そうなんですか。私もご一緒したいところですけど、武器もないですし……」
「まだ登録もされてないですから、お連れするわけにはいきませんよ」
ユーリ姫はとても残念そうだが、勝手に連れ出すなんて問題以外の何物でもないからな。
「ええ、残念ですが我慢します。ですがお父様を説得できたら、一緒に狩りにいかせてくださいね?」
「もちろんです。ではユーリ姫様、俺達はこれで失礼します」
「はい。お気をつけて行ってきてください」
俺達が暇を告げると、ユーリ姫はスカートをつまみ、優雅に一礼して俺達を見送ってくれた。
とりあえず、これで一段落か。ヘリオスオーブに飛ばされてまだ二週間ぐらいだけど、思ったより悪くない世界だな。大切な人達もできたし、今日からまた頑張るとするか!
王様は鍛冶師です。かなり優秀です。リチャードさんもPです。エドとマリーナはMですが、近いうちにGになるかもしれません。
これで一章は終了となり、次から二章になります。どっちの話を先にするか悩んでるので、少し間が空くかもしれませんが^^;




