028・大国の影
前後関係を少し修正しました。内容には変更ありません。
フィールに着くと、レックス団長をはじめ、騎士団が整列して出迎えてくれた。まあ、ユーリアナ姫がいるからなんだが。ライナスのおっさんにビスマルク伯爵も来てるし。
とりあえず無事にフィールに帰ってきた俺達は、騎士団やギルドから、ギルドマスターやパトリオット・プライドのリーダーを捕まえたこと、往路で襲ってきたハンターのことを報告し、フィールに残っているハンターのことについて聞いた。まだ全部聞けたわけじゃないが、特にフィールの現状は、正直耳を疑ったもんだ。
「ということは今フィールにいるハンターって、私達だけってことなの?」
「残念ながら」
「まさか全員が緋水団、っと、レティセンシアと繋がってたとは思わなかったな。何人かは逃げ出しているが、ほとんどは騎士団が捕まえて、ライセンスも剥奪してある」
そう、驚いたことに俺達が捕まえたり始末したりしたスネーク・バイト、マッド・ヴァイパー、ケルベロス・ファング、ホワイト・ビーク、ノーブル・ディアーズ、ダーク・ナイツだけではなく、フィールに残っていたはずのハンター全員、大なり小なりレティセンシアと繋がりがあった。既に緋水団はレティセンシアの特殊部隊が関与していることは確定しているため、近いうちにレティセンシア本国に抗議と賠償を要求することになっているそうだが、レティセンシアは関与を否定するだろう。
だが今回は、ハンターズギルドまで巻き込んでの陰謀だから、ハンターズギルド総本部からもレティセンシアに抗議文が送られることになるそうだ。その件でグランドマスターが、近々アミスターに謝罪に訪れることにもなるんじゃないかと、ライナスのおっさんは予想している。
ギルドマスター サーシェル・トレンネルとパトリオット・プライドリーダー バルバドスだが、ライナスのおっさんに証拠を突き付けられ、牢屋に放り込まれた。魔法審問官による尋問を受け、その後処刑されることになっている。国家反逆罪からはじまり、殺人、誘拐、恐喝など、罪状は枚挙にいとまがないから、これは当然だ。それにしてもこの世界って、属性魔法と無属性魔法じゃ体系化、実用化に大きな隔たりがあるよな。連中に使った隷属魔法のこともあるが、強化魔法に空間魔法、識別魔法、生活魔法なんてのもあるし、まだまだあるそうだ。もしかしたら無属性魔法の体系化、実用化に力を入れてるから、属性魔法まで手が回ってないだけなのかもしれん。だけど実際便利なんだよな、無属性魔法。
後日ライナスのおっさんとレックス団長に教えてもらったんだが、やっぱりレティセンシアは今回の件を知らぬ存ぜぬで押し通そうとしたそうだ。そこで気になる話を聞かされた。
「サーシェル・トレンネルだが、どうやらレティセンシアの出身ではないみたいなんだ」
「え?今回の件って、一部の軍上層部の独断って話になったんじゃないんですか?」
レティセンシアは現在、ある国の属国となりつつある。国家元首でもある皇王もお飾りで、実権を握っているのは宰相や大臣などの貴族だが、ほとんどが保身のためにその国に尻尾を振っている状態だ。当然軍部もで、レティセンシアが逮捕したのはその軍の人間なんだが、誰一人として知った名前がなかったそうだ。逮捕されたのは将軍が一名と師団長が一名、連隊長が二名だったが、おそらく適当な人間を昇進させてから罪を擦り付けたってとこなんだろう。当然だが、そんな話は誰も信じていない。トカゲの尻尾切りもいいとこだ。
「その通りだが、そんな話を信じろと言われても無理だ。やってやれなくはないだろうが、行方不明になった商人やハンターもいる以上、レティセンシア国内の奴隷の動きを調べればすぐにわかる。そちらに関してはギルドとの連名で、レティセンシア皇王に書状を送り付けることになっている」
とは言っても、レティセンシアには非合法奴隷も多いって話だから、見つけるのも一苦労だろう。
「ハンターズギルドとしては、レティセンシアでの活動を抑えることになる。具体的にはハンターに支払う報酬の減額、有事の際の協力事項の見直しだな」
うん、それはキツい。報酬を削られたりなんかしたら、ハンターはすぐにでもレティセンシアを放れるぞ。そうなれば魔物退治は軍や騎士団が行うことになるし、治安も悪くなりかねない。
「慈善事業じゃないんだからな。それに減額と言っても、ギルドから支払う金額だけだ。差額分はレティセンシアに負担させることになるだろうから、ハンターとしての収入は変わらん」
ああ、そういうことか。ハンターからすれば、どこから報酬が出ようと、懐に入る分が変わらなきゃさして気にしないだろうな。逆にレティセンシアは国庫を圧迫されかねないが、それを理由にした増税なんかも防ぐために協力事項を見直すってことになるのか。断ればハンターズギルドが撤退するかもしれないから、そうなれば困るのはレティセンシアだ。
「それで、サーシェル・トレンネルがレティセンシア出身じゃないってのはどういうことなんです?」
「魔法審問の結果だから、まず間違いない。サーシェル・トレンネルの出身地はアバリシア神帝国だ」
「アバリシア!?」
プリムは驚いているが、俺は初めて聞く国名に首を傾げた。どこですか、その国は?
「アバリシア神帝国。海の向こうにあるグラーディア大陸を統一した宗教国家だ。このフィリアス大陸とはほとんど接点はないが、ハンターズギルドが何度か打診したことがある」
宗教国家かよ。厄介そうだな。しかも海の向こうの大陸ときたか。
「アバリシア神帝国は宗教国家だが、その実は神帝による独裁国家だ。今の神帝が即位してから、グラーディア大陸を武力で支配、統一し、無理矢理国教でもあるアバリシア正教に改宗させたんだからな」
「そしてアバリシア神帝国は、フィリアス大陸にも侵出するのではないかと噂されていたんだ」
つまりレティセンシアはアバリシアの属国になってて、そのアバリシアの命令でこんなことしてたってわけか。ということはミスリルを欲しがってたのはレティセンシアじゃなくて、アバリシアだったってことなのか?
「もしかして、ミスリル鉱山を欲しがったのってアバリシア?」
「そうだろうが疑問もある。アバリシアのあるグラーディア大陸は、フィリアス大陸より鉱物資源の産出は少ないが、オリハルコンの産出量だけは世界でも類を見ない。クセのある金属だが、硬度も強度も高く、魔力の伝達率も高い。なぜミスリルを欲しがるのかがわからん」
オリハルコンは、強度ではヒヒイロカネに劣り、硬度ではアダマンタイトに劣り、魔力の伝達率ではミスリルに劣るって話だが、それは単体で比べたらの話だ。一度魔力を流せばヒヒイロカネより強くなり、アダマンタイトより硬くなる。そして伝達率は劣っても減衰率ではミスリルより上だから、魔力が拡散しにくい。
だがフィリアス大陸では、ほとんど産出しない。一応オリハルコン鉱山はあるが、月に10キロ採れれば御の字なんだとか。逆にグラーディア大陸はほとんど鉱物資源、特にミスリルは採れない。だから狙ってるんじゃないだろうか。
「確かミスリルって、フィールの鉱山で採れたのが一番質がいいんだよな?」
「そう言われてるわね」
「ということはレティセンシアのミスリルを一応確保しておいて、フィールのミスリルも狙い、同時にアミスターの国力を削いで、レティセンシアが併合したら、そのレティセンシアを橋頭保にしてフィリアス大陸に攻め込もうって腹積もりだったってことか?」
「アミスターとレティセンシアを、同時に落とすつもりだったってこと?さすがにそれは無茶じゃない?」
「俺もそう思うが、フィールを抑えれば武器の補充ができなくなる。できなくはないが、質は落ちる。逆にアバリシアはオリハルコンの武器を使ってるんだから、装備の上では有利だろう。それにレティセンシアを支配下に置いてるなら、補給の心配もいらないはずだ」
「アミスターはフィールを取られて士気が落ちてる上に、他国の支援も期待できないどころか、逆に攻められる口実になりかねない。つまりアミスターを滅ぼすことが目的ってわけか」
「推測でしかないけどな」
だが大きくは外れていないと思う。フィリアス大陸にある国はアミスター王国、レティセンシア皇国、バリエンテ獣人連合国、バレンティア竜国、トラレンシア魔王国、アレグリア公国、バシオン教国、リベルター共和国、そしてアミスターに匹敵する国土と軍事力を持つソレムネ帝国の九ヶ国だ。このうちアミスターとレティセンシアがグラーディア大陸を挟むオルフィス海に臨んでいる。アバリシアが目をつけるのもわからない話じゃない。
「その可能性も否定できない。というか私も、その通りだと思う」
「アバリシアにはハンターズギルドはないからな。情報は手に入りにくい。なんにしても、アバリシア神帝がヘリオスオーブの統一を目論んでるのは間違いないだろうぜ」
ヘリオスオーブの統一か。どうやらアバリシア神帝ってのは、よっぽどの野心家みたいだな。宗教国家だってのに、欲深いことで。
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フィールに戻った翌日、俺達はリディア、ルディアと一緒にハンターズギルドに足を運んだ。俺とプリムは今回依頼者になるから報酬はないんだが、懸賞金なんかは貰えるらしいから、それを受け取りにと、リディア、ルディアのウイング・クレスト加入の手続きのためだ。途中でライナスのおっさんも受付に降りてきたが、そこでしばらくフィールから離れないように頼まれた。フィールのハンター全員が捕まったり逃げ出したりなので、これは当然の話だ。マイライト山脈にある遺跡の調査はしたいが、状況が落ち着くまで行くつもりはなかったし、リディアとルディアも異存はないようだ。
「ハンターがいないなんて思わなかったけど、せっかくだからしばらくはここで稼がせてもらうわ」
「ミスリルの武器に買い替えたいしね」
「というか、せっかくだしレイド組まない?」
と考えてた二人を、プリムが誘ったんだよ。
「ぜひ!」
「足手まといにならないように頑張りますね!」
うおい!なんでそんなあっさり決めるの!?この場合、俺達のレイドに吸収されるってことになるんよ!?と、驚くぐらいあっさり加入を決めてたからな、二人とも。
あ、言い方は悪いが、レイド同士が合併することは珍しくなく、その場合ランクの高いレイドに統合されることになっている。これには登録したばかりのハンターを守るという意味合いも含まれている。手続きしなきゃ。
「というわけで大和、後でリチャードさんとこで一式作るわよ」
「わかってるよ。いくつか見繕っとく」
「わかってるじゃない。さすが大和」
一式ってのは当然装備のことだ。ミーナの装備も作りに行く予定だったが、そこにリディアとルディアもねじ込むわけですよ。30万エルあれば足りるだろう。んで何を見繕うかといえば、例のゲームの装備画像に決まっている。既にミーナの希望は聞いており、剣と盾に騎士鎧でデザインも決まっている。リディアが双剣でルディアがガントレットなわけだから、それっぽい装備を探してみるか。
そーゆーわけで、リディアとルディアがウイング・クレストに加入したわけですよ。宿は俺達と同じ、というか俺達が借りてる部屋はまだ寝室が二部屋空いてるから、そこにねじ込んだ。もちろんプリムが。
「すごい部屋ね。こんな貴族が泊まるような部屋を使ってるなんて、やっぱりAランクは違うってことね」
「私達まで使っていいんですか?」
「いいのいいの。部屋は余ってるんだから」
プリムさん、なんで二人にそんな好待遇?意図はわからなくもありませんが、やっぱりそういうことなんですか?
「私とミーナだけじゃ、多分足りないのよ。アミスター王の意向次第だけど、ユーリアナ姫のことは断り切れないでしょうからね」
おうふ、外堀がどんどん埋められていく。確かにその場合は断り切れんかもしれん。ミーナとの婚約をレックス団長に報告にいったが、同時にユーリアナ姫のこともレックス団長の耳に入って、逆に止めようとしてたからな。落ち着いたら王都にある実家にご挨拶に行くことにもなったが、お義父様とお義母様が倒れるんじゃないかと心配されています。
そのミーナだが、今回の件が落ち着くまで、退団手続きは待つことになった。まだ見習いだし引継ぎもそんなにないが、ローズマリーさんとともにユーリアナ姫の護衛をすることになったんだから仕方がない。確かにユーリアナ姫の護衛は全員殺されてしまったから、フィールの騎士団から護衛を出すしかないしな。もちろん他の女性騎士も護衛についてるよ。
ユーリアナ姫は、ベールホテルに入られた。数日したらビスマルク伯爵が飛竜で王都まで送っていくことになったので、湖畔にある別邸を使うのはやめたようだ。使用人なんかもいないから、使うに使えないってのが本当のとこみたいだったが。
「ともかく大和君、ミーナをよろしく頼む」
とても疲れたような顔で頼まれたから、今でも悪いことした気がして仕方がない。後でローズマリーさんが教えてくれたんだが、レックス団長はミーナを、俺の第二夫人として薦めてみるつもりだったらしい。ところが俺が予定外の候補を三人?も引き連れて帰ってきて、しかもそのうちの一人が自国のお姫様だったりしたもんだから、本気で考えを改めようとしていたそうだ。なんかすいません。
「ラウス、こっちの剣の方がよくない?」
「いや、盾もミスリルに変えるから、そっちだと少し重いんだ」
ラウスとレベッカは報酬を受け取り、リチャードさんの店で新しい武器に買い替えることにしていた。報酬1万5千エルに加えて情報料や緋水団の懸賞金、盗賊と化したハンターの討伐報酬なんかも上乗せされたから、予定の倍以上稼いだことになる。さすがに遠慮していた二人だが、いつまでも初心者装備では心許ないからということで、無理やり納得させて報酬を受け取っていた。本当は二人も誘ったんだが、実力不足を痛感したとかでしばらくは二人で動くことにすると言っていた。
そんなわけで、今回の事件は一応落ち着いたと思う。まだまだ解決には遠いが、目の前の危機は去ったと言ってもいい。しばらくはゆっくりしたいから、フィール近隣の魔物でも狩っておくことにしようかな。
無事にフィールに帰ってきました。まあ今回は事後処理話ですが。
ミーナ、リディア、ルディアの装備を注文してますが、登場は次回以降の予定です。




