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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第一章:フィールよいとこ、一度はおいで
24/99

024・到着しましたよ、プラダ村に

「レベッカ!ラウス!お帰りっ!!」

「ただいま、フラム姉さん!」


 昼過ぎ、俺達はプラダ村に到着した。レベッカの姉のフラムさんをはじめ、村人総出で出迎えてくれた。

 あ、プリムとはついさっき無事に合流しましたよ。さすがに騎士団としてもギルドとしても予想外だったらしく、レックス団長もライナスのおっさんも真っ青になったそうだ。

 さらに俺達がフィールを発ってからビスマルク伯爵の飛竜ワイバーンが帰ってきたそうで、その話も聞くことができた。

 まずアミスター王国は、フィールとプラダ村に騎士団を派遣し、緋水団討伐を行うことを決定したそうだ。同時に第三王女を派遣し、プラダ村に謝罪もするらしい。騎士団は編成をしなければならないから、王女様の方が先に到着することになるだろう。

 ハンターズギルドとしては、王都にあるアミスター本部からアレグリア公国の総本部へ飛竜ワイバーンを飛ばし、ギルドマスターの処分を決定することになるそうだ。そのギルドマスターだが、残念ながら既に王都を発っていたらしく、身柄を拘束することはできなかった。

 だが今回の報告は、そんな悠長なことを言っていられる場合でもなくなってしまった。プリムが聞いたのはそこまでだが、おそらくまたビスマルク伯爵の飛竜ワイバーンを借りて、王都に報告することになるんだろうが、第三王女と入れ違いになる可能性が考えられる。王都からフィールまでは獣車で一週間程かかる。俺達が襲われた十字路を通ることになるから、こっちから迎えに行ったほうがいいかもしれないな。確かビスマルク伯爵がフィールに着いたのが三日前で、すぐに飛竜ワイバーンを借りたって言ってたから、その王女様も明日ぐらいには出発するだろう。


「ご無沙汰しています、村長。この度は対応が遅れてしまい、申し訳ありませんでした」

「顔をお上げください、副団長。こうして商隊を連れてきてくださったのですから、こちらとしても感謝しかありませぬ」


 ローズマリーさんは村長と話している。確か村長が村の若者を連れてフィールに直訴しに来たと言ってたから、そこでローズマリーさんも会ってたんだろうな。


「姉さん、この人達が護衛してくれたハンターよ」

「初めまして、レベッカの姉でフラムと申します。この子達だけじゃなく、商隊まで連れてきてくれて、ありがとうございました」


 レベッカが一人の女性を連れてきた。レベッカのお姉さんということはウンディーネの魔族かな?


「いえ、二人とも立派に護衛を務めていましたから、私達がいなくても大丈夫だったと思いますよ。あ、私はプリムといいます」

「俺は大和です」

「本当にありがとうございました。村の若い人達は、アミスター王国が頼りにならないからって言って、お隣のレティセンシア皇国に救援を頼みに行こうとしてたんですよ」


 どうやらギリギリだったらしい。バリエンテが候補に挙がらなかったのは、例の暴獣王の噂がプラダ村にも聞こえてきていたからだそうだ。プリムの故郷ではあるが、この分だと先はなさそうだな。


「レティセンシア皇国、ですか」

「そういえば聞きたかったんですけど、プラダ村ってなにか特産品みたいなのってありますか?」

「特産品とまでは呼べませんが、最近近くの山からミスリルやクリスタイトが見つかりました。これで村も発展するってみんなで喜んでいたんですが、その後から商隊が訪れなくなってしまって……」


 それだな、レティセンシア皇国が狙ってるのは。フィールのミスリルもマイライト山脈の一部から産出してるんだから、プラダ村でも採れる可能性は考えておくべきだったか。というか、それなら調査ぐらいされててもおかしくないと思うんだが。


「いえ、何年か前に調査してもらったんですが、あの山は鉄は豊富に採れるそうなんですが、ミスリル鉱山ではないと結論付けられたんです。今回見つかったのは、そことは別の場所です」


 なるほど、別の場所か。それならわかる。詳しく調査してみないとわからないが、多分それがレティセンシアの耳に入って、フィール諸共ミスリル鉱山を抑えようってことになったんだろうな。どうやって知ったかが疑問だが。


「フラムさん、最後に来た商人って、よく来るんですか?」

「いえ、年に数回といったところです。もとはレティセンシアの商人なんですけど、アミスターやバリエンテでも幅広く商売をされているそうですから」


 情報源も確定。しかも年に数回しか来ないんなら、次に来るのは数ヶ月後でも疑われない。プラダ村がその商人にレティセンシアへの伝言なりを頼めば、レティセンシアがアミスターの管理不行き届きを公表してアミスターの国際的な信用を落とし、それを理由にしてフィールとプラダ村を支援して、ミスリル鉱山ごと併合しようって魂胆なんだろうな。ということは緋水団の幹部も、レティセンシアと繋がってるってことで間違いないな。


「私も大和さんの意見に賛成ですね」


 おや、ローズマリーさんも聞いてたんですね。隣では村長が冷や汗を流しているし、よく見れば村の人達も嫌そうな顔してらっしゃる。


「先日フィールを訪れた方が直訴された件ですが、護衛に雇ったハンターの裏切りによって商人は行方不明、ギルドには虚偽の報告をしていたことが発覚しました。そのハンターは既に逮捕していますが、緋水団の動きからレティセンシア皇国が関与していることも予想されていました」

「ではワシ等がレティセンシアに助けを求めていれば……」

「筋書通り、アミスターの国際的な信用は地に落ち、レティセンシアだけではなく、バリエンテやソレムネ帝国、リベルター共和国すら敵に回した戦争になっていたかもしれません」


 しかも非はアミスターにあるってことでな。真相がわかったとしてもレティセンシアは絶対に認めないし、そんな盗賊をのさばらせていたことを非難されるだけだ。本当に手遅れになる寸前だったかもしれないな。


「今後ですが、商隊の護衛には必ず騎士団が付くことになります。ミスリルやクリスタイトが発見されたということですから、王都にも報告し、調査隊が派遣されることにもなるでしょう。本来であれば事前調査をさせていただきたいのですが、我々は商隊の護衛ですから、長期間滞在することはできません。無論、私と共に来た騎士は置いていきますが、調査ではなく警護のためと思っていただきたい」


 これも事前に話し合っていたことだ。ミスリルやクリスタイトが産出していたのは予想外だが、下手に村を襲うとアミスター側に気づかれる恐れがある。そうなってしまえば騎士団が常駐し、護衛も鉄壁になるだろうから、レティセンシアとしても避けたいはずだ。

 それに真相がどうあれ、アミスターとの関係は間違いなく悪化する。なにせ悪いのは先に手を出したレティセンシアなんだから、露見すれば国際的な立場も弱くなる。そこから戦争を起こしたとしても、レティセンシアに味方する国はおそらくはない。レティセンシアは決して認めないだろうが、それで通せるほど世界は甘くはない。逆にアミスター側への情報を遮断し、プラダ村が自発的にレティセンシアに救援を求めてくれば、悪いのはアミスターとなり、プラダ村を救ったレティセンシアは合法的にプラダ村、そしてフィールを併合できると踏んだんだろうな。


「ま、待ってください。では緋水団という盗賊団は、まさか……」

「盗賊ではないでしょう。いえ、末端の者はそうでしょうが、幹部クラスは違うはず。おそらくはレティセンシア軍でも上の者と思われます」

「加えてギルドマスターもな」

「ギルドマスターって……まさか、ハンターズギルドの!?」


 ローズマリーさんのセリフに村人が青くなるが、俺の一言でラウスとレベッカが蒼白というのも生易しい程顔色を失った。ギルドマスターがレティセンシアと繋がってただけならともかく、積極的に加担してたんだからな。そもそもハンターズギルドは、その性質から一国に加担することを禁止している。ハンターズギルドがどこかの国に協力してしまっては、ギルドとしての存在が危ぶまれるからだ。過去に何度かそういったことがあったようだが、その結果滅んでしまった国もあるという話だからな。


「ここで話が繋がるってわけね。そうでもなければフィールを孤立させたり、ハンターと盗賊を結び付けたりなんてしないでしょうけど」


 今回の件に限って言えば、ギルドマスターがフィールのハンターを抑え、いや、盗賊のように扱っているからこそ、アミスターへ情報が洩れず、レティセンシアに有利になるよう話が進んでいたように感じる。おそらくだが、俺とプリムがフィールを訪れなければ、その企みは成就していた気がする。自惚れじゃなくそう思う。


「で、ローズマリーさん、これからどうします?」

「もちろん商隊の護衛ですよ。真相がわかったところで、私達のやるべきことに変わりはありません。それにギルドマスターの身柄が拘束されれば、レティセンシアも大人しくなるでしょう。我が国だけではなく、ハンターズギルドも敵に回すことになりますからね」


 気になることはありますが、という呟きが聞こえたが、どうやら聞こえたのは俺とプリムだけのようだ。まだ何かあるってのか?いや、それよりもまずは、ギルドマスターを捕らえなきゃいけない。確かギルドマスターもハンターで、ランクはPだったって話を聞いた覚えがある。ギルド総本部から高ランクのハンターに指名依頼が出るレベルだな。

 なんにしても、プラダ村に来たのは正解だった。今日はこのまま村に泊まって、明日フィールに戻ることになるが、早い方がいいな。というか、俺達がプラダ村に到着したことは既に知られているだろうから、俺達とギルドマスター、どちらが先にフィールに着くかで勝負が決まる気がする。となるとあの十字路、監視ぐらいはしといたほうがよさそうだ。後で適当な魔石にソナー・ウェーブを刻印化させておくか。ジェイドとフロライトがいるから、移動速度はこっちの方が早いはずだからな。

 まあさすがに村の人も信じてるかどうかは微妙だ。ハンターズギルドがこの件に関与してたんだから、簡単に信じられないのも無理はない。まあ関与してたのはギルドマスターだけみたいだが。ハンターども?今更何をどう言い繕うとも、全員逮捕ですよ。

 さて、明日からまた忙しくなるから、今日はゆっくり休ませてもらうとしますかね。

はい、お隣さんの陰謀でした。ギルドマスターの動機はいずれ。ハンターども?金と自由ですよ。ええ、もちろん全員です。まあ全貌を知られるとマズいので、脳筋ばかり集められてたわけですが。

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