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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第一章:フィールよいとこ、一度はおいで
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010・従魔魔法と空の旅

「ここにもいないか。もう少し上まで登ってみたほうがいいのかしら?」


 現時刻はお昼前。数時間山道を登っている俺達だが、一向に魔物と出くわさない。プリムが燃やしたオークしか倒してないぞ、今日は。


「だな。確かフェザー・ドレイクは山の上の方に住んでるって話だし」


 フェザー・ドレイクは高山に住んでいる。高度が高くなれば空気が薄くなるのはこの世界でも同じらしく、植物も共通している。フェザー・ドレイクは小さいが、それでも大型犬より大きいのだから、森の中では過ごしにくい。だからマイライト山脈の山頂付近に生息している。異常種であるエビル・ドレイクも同様だろう。


「ねえ大和、あれって何かしら?」


 何気なく隣の山に目を向けたプリムだが、何かを見つけたようだ。けっこう遠いが、巨大な何かが変な動きをしてるのがわかる。


「もしかして、あれが……」

「大和、イーグル・アイ使えない?」

「少し距離があるが……なんとかなるか」


 俺はイーグル・アイを発動させた。正直こんな使い方をするのは初めてだが、これが一番早く確認できる方法でもあるから仕方がない。


「やっぱりこれ、エビル・ドレイクっぽいわね」


 予想通りだが、あまり精度はよくない。輪郭は確認できるから、それで十分ではあるが。


「だな。襲われてるのは……グリフォンか?」

「っぽいわね。グリフォンだって高ランクの魔物なのに、それを複数相手にしてるなんて、けっこう厄介そうよ、あれは」


 エビル・ドレイクは、グリフォンと思われる魔物達を襲っているようだ。近くに倒れて動かないグリフォンも見えるから、狩りの最中という可能性が最も高いだろう。


「ともかく急ごう。飛べるか、プリム?」


 翼族は短時間なら自分の翼で空を飛ぶことができるが、体力と魔力を消耗する。エビル・ドレイクを相手取る前に消耗してしまっては本末転倒だ。


「ごめん、この距離だとちょっとキツイかも」

「わかった。少し我慢してくれよ?」

「え?え?えええええっ!?」


 俺はプリムを抱え上げた。いわゆるお姫様抱っこだ。そしてフライ・ウインドを発動させ、その場から飛び立った。


「はあ……すごいわね、刻印術って。私も自由に飛んでみたいものだわ」


 俺の腕の中で、プリムが呟いた。そりゃ翼もないのに自由に空を飛ばれたら、翼族にとっては種族の根幹に関わる大問題だよな。


「今度考えよう」

「ありがと、大和」


 ニッコリと笑うプリムだが、どこか寂しそうだ。翼族は自分の翼に誇りを持っていると聞く。それをただの魔道具で解決されたら、複雑な気分にもなるってことか。何とか方法を考えないとな。


「大和、あれ、ヒポグリフだわ」

「ヒポグリフ?」

「グリフォンの亜種よ。飛竜や地竜とかと同じで、人に懐きやすい魔物なの。個体数が少ないから契約してる人は少ないけど、獣車を引かせても騎獣としても優秀よ」


 つまり上手くいけば、契約して従魔にすることができるかも、ってことですな。なら尚更、エビル・ドレイクを退治しなければなりませんなぁ!


「なら、一気に行くぞ!」

「ええ!」


 プリムを抱いていた腕を離すと、プリムの体が落下を始めた。途中で翼を広げたプリムは灼熱の翼を発動させ、槍を構えながらエビル・ドレイク目がけて地面と水平に突っ込んでいく。

 俺も加速すると同時にブラスト・アローでエビル・ドレイクを牽制する。

 そして炎を纏ったプリムが、エビル・ドレイクの頭部を貫くと同時に、俺は風性C級対象干渉系術式オゾン・ディクラインをエビル・ドレイクに発動させ、燃え上がるエビル・ドレイクの炎を消した。オゾン・ディクラインは酸素を減少させる術式だから、C級のくせに殺傷力高いんだよな。まあ刻印術が使えれば、対策は難しくないんだが。


「大丈夫か、プリム?」

「もちろん。エビル・ドレイクは?」

「動かないところを見るに、死んだんじゃないか?まだボックスに入るかは試してないが」


 生物はボックス・ミラーに入らないのだから、生きてるかどうかの確認は容易だ。お、入った。

 それにしても、思ったよりあっさり倒せたな。プリムが頭を吹き飛ばして、その後でオゾン・ディクラインを使って酸素を無くしたから、普通なら耐えられんだろうけど。


「討伐完了ね。ヒポグリフ達は?」

「あそこだ。多分、親だったんじゃないかな」


 見ると倒れているヒポグリフはけっこうな数だった。ほとんどが動かなくなっていたが、わずかに2匹だけ動いている。体格が小さいから子供なのだろう。


「……ヒポグリフは普段は夫婦で暮らしてるんだけど、子育ての期間は群れで過ごすって聞いたことがあるわ。そこで巣立つまでに相手を見つけて、それからずっと、死ぬまで寄り添って生きると言われているの」


 つまり今が、その子育ての期間だったってことか。他にも小さなヒポグリフが倒れているから、生き残ったのはこの子達だけっぽいな。


「クワア……」

「ん?」


 今にも息を引き取りそうなヒポグリフが一鳴きすると、残された2匹の子ヒポグリフが俺達の方を見た。まだ息のあったヒポグリフ達も次々に鳴き始めている。


「な、なんだ、いったい!?」


 俺達が驚いていると、子ヒポグリフが俺達の所まで歩いてきた。そして一礼するように頭を振った。これは、もしかして……。


「俺達にこの子達を託す、ってことなのか?」


 そうだ、というように最初に鳴いたヒポグリフの体が輝いた。それを合図にしたように、次々とヒポグリフ達も輝き始めた。


「大和、血を」

「ああ」


 召喚魔法の契約は、互いの血を交わすことで成立し、従魔魔法の契約もそれに準ずる。子ヒポグリフ達も体に傷を負っているから、俺達が傷つけなくても済んだのは幸いなのかもしれない。俺とプリムは掌を切ると、傷口に手を当てた。


「お前の名前は……そうだな、ジェイドだ」

「あなたの名前はフロライトよ。よろしくね」


 契約に呪文のようなものは存在しない。血を交わし、名前を付ければそれで完了する。どうやらジェイドがオスでフロライトがメスのようだ。2匹は嬉しそうに鳴き声を上げると、親達に悲しそうな視線を向けた。親ヒポグリフ達は俺達の契約を見届けると、光に包まれたまま姿を消した。光は降り注ぎ、ジェイドとフロライトの傷を癒し、俺達の魔力と同化するように消えていった。その場に魔石を残して。


「クワアアア……」

「泣くな、ジェイド。お前はこれからフロライトを守っていなかけりゃいけないんだからな」

「あの魔石はあんた達のために使うわ。だから、ね?こら、もう。くすぐったいわよ」


 ジェイドとフロライトは大きな声でもう一度鳴くと、俺達にすり寄ってきた。甘えん坊だなぁ。


「それじゃ魔石を集めてから山を下りるとするか。その際、ジェイドとフロライトをどうするかだが……」

「ここに置いておくわけにはいかないわ。町に獣舎があるから、そこで預かってもらいましょう。しばらくは召喚できないけど、私達と一緒に行動すれば力もつくだろうし」

「それしかないか」


 ジェイドもフロライトも、クワッ、と元気よく鳴いた。


「ところで聞きたいんだが、なんでヒポグリフ達は俺達に子供を託したんだ?」

「私も詳しくないんだけど、多分エビル・ドレイクを倒した私達を信用したんじゃないかしら。それらしい話を聞いたことがある気がするの。確か子供を殺されたヒポグリフが、仇の魔物を倒してくれた人間と契約したっていう話だったと思う。ライナスさんなら詳しく知ってると思うから、帰ったら聞いてみましょう」

「そうするか」

「ええ。フロライト、ジェイド、私達は山を下りるから、しっかりついてきてね」


 魔石をボックスにしまい終えると、俺とプリムは2匹に声をかけて歩き始めた。


「クワアッ!」

「クワ、クワア!」


 だが止められてしまった。振り返るとジェイドもフロライトも、背中に乗れと促しているように見える。


「乗れってことか?」

「いいの?」

「クワアッ!」


 どうやらそうらしい。ヒポグリフは成長すると5メートルを超えることもある。まだ子供のジェイドとフロライトは馬より少し小さいといったところだが、乗るのは問題ないと思う。


「もしかして、フィールまで飛んでくれるの?」

「クワアッ!」


 そのつもりらしい。なぜかわからないが、ジェイドとフロライトの言葉?鳴き声?が、なんとなくだがわかる。乗せていってくれるのはありがたいが、子供にそんな無茶をさせたくはないんだが。


「クワッ!」


 怒られた。気を遣ったつもりなのに、なんでだ?


「ヒポグリフは地竜並みに力があるわ。体力もそれに比例するから、子供でも馬より力も体力もあると思う。自分より大きな得物を狩って、巣まで持ち帰ることもあるそうだから」


 なるほど、プライドを傷つけてしまったわけか。なら子供だからって、変に遠慮するのはよくないな。


「わかった。じゃあフィールまで頼む。道は指示するから」

「「クワアッ!」」


 元気よく鳴くと、ジェイドは俺を、フロライトはプリムを背に乗せて飛び立った。おお、思ったより快適かもしれん。


「ヒポグリフに乗ったのは初めてだけど、気持ちいいわね」


 プリムも気分がいいようだ。自分の翼じゃなくてヒポグリフの翼で飛んでるわけだが、契約することが珍しい魔物だから、それとこれとは別の話なんだろうな。


「それにしても、まさかヒポグリフと契約できるとは思わなかったわ」

「俺もだ。そもそも俺の世界じゃ、ヒポグリフなんて伝説上の存在だからな」


 まあそれを言ったら、この世界の魔物のほとんどがそうなんだけどな。


「こうなった以上、早めに家を買いたいわね。この子達も庭に放せるようになるし」

「ああ、獣舎じゃ繋がれっぱなしになるもんな」


 獣舎は馬や地竜が車を引けるように調教する施設で、体力をつけるために放牧もしている。乗馬や乗竜のレンタルもしているため、遠出する際はお世話になるだろうと思っていた。また自分の馬や地竜、従魔や召喚獣なんかも預けることもできるから、ジェイドとフロライトもとりあえずは預かってもらえるはずだ。

 だがヒポグリフはかなり珍しいから、騒ぎになる可能性もあるし、2匹ともまだ子供だから、馬や地竜を怖がるかもしれない。自分達で家を用意すれば、そこで飼う、というか面倒を見ることができるし、召喚のこともあるから都合がよくなる。問題があるとすれば、ヒポグリフは空を飛べるということだな。


「それはおいおい考えるとして、あとは獣車も買った方がいいわね」

「獣車か。確かストレージ・ミラーを付与させれば、こいつらも休む時は中に入れるんだったっけか?」

「ええ。私達もこの子達も、ストレスなく旅ができるわね」


 ストレージ・ミラーという魔法がある。ミラー系の中級魔法で、空間を拡張する魔法なのだが、これはボックス・ミラーの上位互換として使われることが多い。

 そのストレージ・ミラー、獣車なんかに使うことで、しっかりとリビングや寝室も備え付けることができるようになり、獣車を引く馬や地竜なんかの寝床も用意できるという優れた魔法なのだ。街道とかで夜明かしをする場合、地竜がやられることは滅多にないが、馬は魔物に襲われて食われてしまうことも珍しくない。そうなってしまえば立往生か、近くの町まで歩くしかなくなるため、そういった危険が減らせるだけでも十分にありがたい。ただし魔法付与が必要ということで、例に漏れず高い。ストレージ・ミラーを付与された獣車は下手な屋敷より高額になっても不思議ではなく、神金貨での取引も珍しくない。とんでもないぼったくりだ。


「刻印具を借りて、私が付与するってのが一番お金かからないでしょうね」


 俺はまだ使えないが、なんと一昨日、プリムは使えるようになった。つまり付与するための方法があれば、自分達でやってしまうほうが安上がりだし、内装もお好みでできてしまう。ヒポグリフと契約できたんだから、これはもうやる以外の選択肢がないというわけですよ、旦那!


「だな。帰ったら練習するか。ぶっつけ本番で失敗したら、目も当てられない」

「そうね。それにしてもこの子達、けっこう速いわね」

「ああ。もう見えてきたぞ」


 湖の上を飛んだから30分もかからなかったな。行きは湖を迂回しなきゃいけないから、5時間もかかったってのに。


「このまま町に入るわけにはいかないから、門から少し距離をおいたとこに降りるか」

「そうね。幸いというか、人は少ないみたいだし」


 ヒポグリフが降りてくれば驚かれるのは間違いないが、俺達がいるからそこまで混乱はしないだろうな。しないよな?


「よし、ジェイド、フロライト、降りてくれ。騎士団に説明しなきゃいけないからな」


 そうこうしているうちにフィールに到着。門までは数百メートルといった所に2匹を降ろし、ゆっくりと歩いてもらう。すると当然のように、門から騎士やら兵士やらが大勢出てきていて、しっかりと迎撃態勢を整えていらっしゃる。けっこう練度高いんじゃないか、この騎士団。


「団長!あのヒポグリフには人が乗っています!」

「なんだと?ということは、もしや契約したということなのか?」

「まさか……ヒポグリフと……?」

「いったい誰が……」


 あとで聞いた話だが、やはりヒポグリフが現れたことで、混乱しかけていたらしい。騎士団がしっかり態勢を整えていたから町の人はそうでもなかったが、ハンター達は我先に逃げ出そうとしてたってのが一番の問題だったそうだ。そいつらのライセンス剥奪しろよ、マジで……。


「団長!あれは大和さんとプリムさんです!」

「なんだと?いや、あの二人か。何故だろうな、納得した自分がいる」

「自分もです、団長」

「実は私も」


 ヒポグリフに乗っていたのが俺達だとわかると、騎士団はあっさりとその場から撤収し、持ち場に戻っていったそうだ。それも納得がいかなかったんだよな。


「大和君、プリムさん、驚かさないでくれよ」

「そんなつもりはないんですけどね。契約できたのも偶然でしたし」

「ヒポグリフと契約か。君達なら不思議とは思わんが。それにしても、どこで契約したんだい?」

「マイライトです」


 この辺り、というかアミスター王国では、ヒポグリフはかなり珍しい。住処は高い山の上だが、魚を主食としているため、海に近い山に群れがいることが多い。まあ子供は飛べないから、肉や果物を食べてるそうだが。


「マイライト山脈に群れがいたのか。そんな話は初めて聞いたな」


 フィールとマイライト山脈の間にある湖―ベール湖はかなり大きく、魚も豊富に生息している。多分ベール湖に魚がいることを知ったから、マイライトを住処にしたんだろうな。


「この件に関しては、後程報告します」

「もしや、例の件も片付いたのか?」

「はい。この子達にも関係があることなので、まとめて報告させてください」

「さすがに早いな。わかった。なら私も、ギルドへ向かおう」

「すいません、私達は先に、この子達を獣舎に預けたいんですが」

「それは構わない。町の人も君達と契約したと知れば安心するだろうからな」

「すいません、なるべく急いでギルドに行きますから」


 レックス団長に断りを入れてから、俺達は獣舎に向かった。そこでも驚かれたが、俺達のことを知っている職員さんがいたので、スムーズにジェイドとフロライトを預けることができた。幸いヒポグリフの面倒を見たことある人がいたからお願いしたが、とても喜んでいたな。

 そういえば、なんでジェイドとフロライトの言いたいことがわかったのかを聞いてみたんだが、俺達の魔力が高いからだと言われた。従魔は契約者の魔力に、一番影響を受けることが最大の理由だそうだ。まあ周囲の環境にもしっかりと影響を受けるから、躾けもしっかりしてくださいとも言われたが。

はい、子ヒポグリフとの契約がメインです。エビル・ドレイクさんは前座なのです。デカい魔物だからって、正面から戦う必要はないですからね。頭を吹き飛ばしたり、窒息させたりすれば普通に死にますよ。まあ大和の性格的にそんな真似はしませんが。あ、緊急時はさすがに別ですよ?

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