表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/99

001.ここはどこ?あなたは誰?

 刻印術師とは生まれながらに刻印を持ち、刻印術という古の術式を使いこなす者のことだ。

 俺、三上みかみ 大和やまとも、そんな刻印術師の家に生まれた普通の高校生だ。え?普通の高校生はそんな特殊な家に生まれない?そんなことは知らん。それにそんなに珍しいことでもない。親戚や幼馴染も、ほとんどが刻印術師だからな。まあ、普通の刻印術師よりハードな家に生まれたのは間違いない。修業は本気でキツかったなぁ……。まあ、そのおすかげで今の俺があるわけなんだが。

 だが今は、おそらくは俺の師匠でもある父さんや親戚の人達であっても、普通に驚く事態だろう。


「ここは……どこだ……?」


 気が付くと俺は、森が近くにある草原にいた。さっきまで俺は、見たことも聞いたこともない化け物と戦っていたはずで……。

 そうだ!倒したと思って油断してたら、化け物の最期の悪足掻きでできた空間に落とされたんだ!そしたらこんな、見たこともない場所に出た、ってことになるんだろうな。


「日本じゃないみたいだな。とりあえず、こんなとこにいても仕方がない。兄貴か姉さんに連絡してみるか」


 俺はポケットから携帯型の刻印具こくいんぐを取り出し、姉に電話をかけた。


「ん?つながらない?なんでだ?」


 よく見れば電波が届いていなかった。これは想定外だ。


「あっちゃあ、まさかの圏外か。今時こんな地域があるとは思わなかったな」


 電波がなければ通話はできないし、現在地を確認することもできない。俺は少し、途方に暮れてしまった。


「目が覚めたみたいね」


 そうしていると突然、背後から女の声がした。完全に無警戒だった俺は、慌てて振り返った。


「そこまで驚かなくてもいいでしょ。一応命の恩人なんだから」

「……」


 俺は絶句した。そこに立っていたのは長い銀色の髪を、ポニー・テールにまとめている少女だった。年は俺と同じぐらいだろう。胸もデカい。だがそんなことより俺の目を引いたのは、犬のもの、おそらく狐と思われる大きな耳とふさふさの尻尾、そして純白の翼だ。


「どうかしたの?」

「えっと……失礼を承知で聞くんだが……その耳や尻尾、それに翼って、自前?」

「自前だけど?まあ客人まれびとからしたら、珍しくても仕方ないのかな」

客人まれびと?なんだそりゃ?」


 確か客って意味だったか?あんまり使わない単語だから自信ないが、いったいどういう意味なんだ?


「類稀な知識と膨大な魔力を持つ、こことは違う世界から来た人のことよ」

「なっ!?」


 女の子の話に、俺は驚くことしかできなかった。こことは違う世界だと?


「つまりここは……異世界、なのか?」

「あんたからしたら、そうなるんでしょうね。この世界はヘリオスオーブって呼ばれていて、あんたみたいな人族ひとぞく以外にも、私のような獣族けものぞく、エルフやドワーフみたいな妖族あやかしぞく、魔族、竜族なんてのもいるわよ。地理的に言えば、ここはアミスター王国北部にあるマイライト山脈の麓よ」


 他にもこの世界について話してくれたが、簡単に言えばヘリオスオーブは剣と魔法の世界だが、勇者や魔王のような存在はいないとのことだ。いや、魔族の国の王様は確かに魔王だが、称号以上の意味はないらしい。ちなみにアミスター王国を治めているのは妖族で、どうやらエルフらしい。まさにファンタジーワールドだが、そんなことはどうでもいい。肝心なのは元の世界に帰れるのか、だ。


「それで、俺は元の世界に帰れるのか?」

「悪いとは思うけど、多分無理。記録に残ってる客人まれびとは、全員がヘリオスオーブで亡くなってるから。そもそもどうやって来たのかがわからないし」

「そうか……」


 確かにその通りだ。これが召喚とかで呼び出されたんならともかく、俺の世界の化け物の最期の足掻きが原因だと思われるんだから、帰る方法なんて、おそらくないはずだ。同時に俺より前に客人まれびとと呼ばれる人がいる理由も予想できた。多分あの化け物の特性なんだろう。うちの両親や親戚クラスの力量があれば楽勝だろうが、俺は奥の手を使ってギリギリだった。刻印術師でもない人なら簡単に犠牲になる。そしておそらく、これが神隠しの真相なんだろう。


「ちょっと、大丈夫?」


 女の子の話を反芻しながらこの世界にきてしまった理由を考えていると、心配そうな顔をされてしまった。


「ああ、悪い。ちょっと考え事をしてた。正直、まだ信じられないが、君の……そういえば君は?」

「ああ、ごめん。名乗ってなかったね。私はプリムローズ・ハイドランシア。白狐の獣族で、翼族つばさぞくでもあるわ。プリムって呼ばれることが多いわね」


 やっぱり狐だったか。ってそれじゃ背中の翼が説明つかんぞ、おい。それに翼族ってなんぞや?


「俺は三上みかみ 大和やまと。っと、ヤマト・ミカミと名乗ったほうがいいか。いろいろ教えてくれて助かった。ついでってわけじゃないが、翼族ってなんなんだ?」

「へえ、大和っていうんだ。よろしくね。それで翼族っていうのは一つの種族のように扱われることが多いんだけど、実際にはその名の通り翼を持つ人のことを指すの。あ、普通に翼がある種族もあるけど、その人達は翼族じゃないわよ」


 聞く限りだが、翼族が翼族と呼ばれる最大の理由は、その翼に宿る膨大な魔力を操ることができるからのようだ。飛竜の竜族のようにもともと翼を持つ種族の場合は、さらに別の翼を持つらしい。九尾の狐や猫又のように、尻尾が多いほど魔力が強いっていう理屈とほとんど同じで、このヘリオスオーブではそれが翼だというだけのようだ。ようするにプリムは翼族で、一般的な獣族より高い魔力を持ってるってことだ。


「そういえば、なんで俺が客人まれびとだと思ったんだ?」


 普通に俺のことを客人まれびととして話をしてくれたが、俺は人族になるわけだから、その辺は区別なんかできるわけないはずだ。


「そりゃいきなり目の前に、しかも気を失って現れたら驚いてライブラリーの確認ぐらいするわよ」

「何度もすまんが、ライブラリーってなんだ?」


 気を失っていたのは事実だからいい。目の前にいきなり現れたのも、ほぼ間違いなく事実だろう。だがライブラリーってなんだ?それに確認?そんなもん持ってないぞ、俺は。


「ああ、そっか。ライブラリーっていうのは魔力で生成される身分証みたいなものよ。自分やレイドのライブラリーならほぼ全部見れるけど、そうじゃなければ確認できるのは名前に年齢、登録ギルド、レイドってところね」


 レベルですと?そんなもんがあるのか、この世界は。


「レベルって、個人の強さのことか?」

「ちょっと違うかな。確かに個人の実力もあるけど、魔力の扱いが上手い人ほどレベルが高いよ。それにレベルに差があっても、素の耐久力は変わらないし」


 なるほど。ゲームとかじゃレベルが高いとそれに比例してステータスも上がって、レベルの低いモンスターとかの攻撃は一切通用しなくなる。それはないってことか。言われてみれば納得だ。


「素ってことは、耐久力を上げる方法はあるんだな?なんとなく想像できるが」

「多分あってるわよ。魔力で強化すればいい。そういう魔法もあるしね」


 やっぱりか。それはおいおい教えてもらうことにしよう。


「ところでそのライブラリー?どうやって見るんだ?」

「無属性魔法の一つにライブラリー系っていう識別魔法があるんだけど、その初級魔法を使うの。『マインド・ライブラリー』」

「おおっ!」


 おもむろに詠唱を終えると、プリムの左手からカードみたいなものが現れた。


「これがライブラリー。見てもいいわよ」

「それでは失礼して」


 個人情報の取り扱いが厳しい世界から来た俺としては、少し躊躇してしまう。だが許可があるので、一言断ってから見せてもらった。するとそこには。


プリムローズ・ハイドランシア Lv.46 17歳 

白狐の翼族


 とあった。俺と同い年じゃないか。


「同い年だったのか」

「実はね。っていうか、私のレベルには驚かないのね?」

「基準がわからないから、驚きようがない。多分高いんだろうなとは思うが、それぐらいだ」


 レベルに関しては、昔のゲームじゃ上限は99だったそうだが、今のゲームは200とか、ひどいと999とかあるからな。正直、高いのか低いのか判断できん。


「それもそうか。だいたい一般の人の平均が10~15ぐらいで、この国、アミスター王国っていうんだけど、ここの兵士の平均が15~18って言われてるわ」

「おお。ってことは、かなり高いんじゃないか。すごいな」

「あんたに言われても、あんまり嬉しくないのよね」

「なんでだ?」


 正直、かなりすごいと思う。俺と同い年でそこまでレベルが高いということは、翼族という特性を差し引いても、日々の修練をしっかりとしているということだ。ましてやこの世界じゃ自分の命がかかってるんだから、素直に尊敬できる。なのになにゆえその発言?


「自分の見てみればいいわ」

「とは言われても、俺は魔法を使えないんだが?」


 そう、魔法があるということだが、俺はそんなもの使ったことはない。刻印術は魔法みたいではあるが、魔法ではない。いや、使えるものなら使ってみたいですよ?


「無属性の初級魔法は誰でも使えるわ。魔力を集中させて呪文を唱えればね」


 そういうものか。誰で使えるなら、俺としてもありがたい。


「ふむ。では……『マインド・ライブラリー』だったか。おおっ!」


 できた。なんか嬉しいな。っと、見てみるか。


ヤマト・ミカミ Lv.51 17歳 

異界からの客人まれびと、異世界の刻印術師こくいんじゅつし


「えっと……」


 レベル51だと!?なんでそんな高いんだよ!?あ、元の世界の経験が加味されてるってことか。


「そういうことよ。まったく、同い年なのになんでここまで差があるのかしらね」

「あー、多分だけど、師匠達につけてもらった修業関係が反映されてると思う」


 俺の師匠は両親や親戚、その友人達で、いずれも超一流の刻印術師だ。日本じゃ知らないヤツはいないし、世界でも名が知れ渡っている。俺達兄弟や幼馴染達は幼い頃から地獄の修業をつけられていたものだ。あ、思い出すだけで泣きそう……。


「なるほどね。ところで大和、これからどうする?」

「ん?どうする、とは?」

「いつまでもここにいても仕方ないし、あんただっていつまでも無一文じゃ困るでしょう?」


 俺の財布の中には24,391円ほど入っているが、どう考えても使えない。つまり無一文と同じだ。うん、非常に困るな。


「確かにな。だけどそうは言われても……。ああ、そうだ。なんか冒険者のギルドみたいなのってないのか?」


 そう、異世界といえば冒険者!魔物やモンスターを倒したり、依頼を受けたり、盗賊を倒したりする冒険者(偏見)!少し大きな町とかにはギルドがあったりするから、小金稼ぎならなんとかなるはずだ、きっと!


「冒険者?何それ?」


 俺の夢は潰えた。

前作連載中にも関わらず、新連載という暴挙に躍り出ました。魔法と刻印術の両方があり、師匠筋が化け物揃いなので、神様チートではなくリアルチートに分類していいと思っています。更新は数日に一回程度できるように頑張りますので見てやってくださいまし~。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ