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太陽の花  ~幼女が人間やめて神サマに喧嘩売りに行く話~  作者: しぐまァ。
第一部 幼女、商人さんに拾われる。
2/7

二度寝の間に回想は進む。

2019/04/09 加筆・誤字修正

柔らかい風に乗って、小鳥の鳴き声が聞こえる。

その風がふんわりと私の頬を撫でていく。


目を開けなくても分かる、きっと外はとってもいい天気なんだろう。

風は少し涼しくて、それがすごく気持ちいい。


だけど、そんな気持ちよさとは対照的に、私の体はぐったりとベッドに沈み込んでいた。


仰向けになっているのに、全く楽になっている気がしない。

それどころか、頭から足の先まで押さえつけられている感じまでする。

そもそも私が目を開けていないのも、まぶたが重た過ぎるから。

頑張れば開けれない事もないかもしれないけ、けど、とてもそんな気分にはなれない。

完全に気持ちまで引きずられてる。


なんだこれ……。台無しじゃないか、これ。


寝てる状態から目が覚めきるまでの、二度寝しようかなぁー、どうしようかなぁーっていう、あの贅沢な感覚を楽しんでいたのに。


この身体でどの気分も台無しですわ、もう全力しんどい。


あー……、いい気分に浸れそうだったのに……。

気持ちが勝手にささくれてくる。


(なんでこんな思いしなくちゃいけないんだ…)


ちくしょう、なんて思いながら、もう一度寝直そうとシーツを寄せあつめる。


ずるずると重たい体を丸めながら寝返りをうつ。

頭から足の先までシーツに包まる、微かな温もりが気持ちいい。


あ、この調子ならもう一度眠れそうだな…。


あくびを噛み殺して、ぼんやり思う。

きっともう一度寝て起きたら、この体だって少しはマシになってるはずだろう。


まぁここが何処だか知らないけど、いい気分でうとうとし始めてきたし。

考えないでおこう、うん…。




……ん…?私、今、大事な事に気づいた気がするんだけど……


いや、うん、知らない。眠い、なら寝よう。

考えるな、感じるんだ。



(…うん、私ねむい。だから…、うん…おやすみ…)


誰にと言う訳にでもないけど眠気に満ちた頭でそう挨拶し、私はコトンと眠りに落ちた。





*** *** ***




去ったはずの嵐の名残が、窓から流れ込み机上の紙を煽る。

その音にハッと、リカルド・トゥルナードは我に返る。


机上の紙、それは前回の仕事で知り合った冒険者からの感謝の手紙、もとい、その後の報告兼ねた物だった。

重石のお陰で書斎に散らばる事は無かったものの、はためくそれを一瞥しながらリカルドは鬱々と溜息を吐いた。


ややあって、手紙の内容に対する感想を苦々しく呟いた。



「嫌な予感しか、しねぇんだよなぁ…」



*** *** ***


このホルム大陸で最も歴史が古く、栄華を誇る大国、ルロクーラ王国。

その領土の広さから、いくつかの都市が点在し、その中でも大都市を繋ぐ大街道が存在している。

特に、王族や貴族が住う王都ヴェ・ルロクーラと、国教である六神教の聖地がある聖都イレーニアは、二大都として国内外にも知られていた。


その二大都市の中間位置に存在するのが、商都市エステリオだ。

エステリオは元々その立地から宿村としての背景があり、今では商都市と呼ばれる程に発展していた。


広大な領土ゆえに、王都へ向かう旅行者、または聖都を目指す巡礼者など、国内だけ見ても人の行き来が多く、国外からの旅商や冒険者達を含めると言わずもがな。

そしてその多くが、移動の為に大街道を利用している。


特に、王都と聖都は両端に存在している為、結構な長旅になってしまう。

その為、中間に位置し、様々な装備や消耗品の調達ができる、この商都市は大変重宝されていた。


そんな事情も相まって商人達にとって、エステリオは王都や聖都に負けず劣らず立地の良い市場であり、商人達の苛烈な激戦区であった。


そんなエステリオで、リカルド・トゥルナードは異例の若さで店を構えていた。

エステリオの中でも名のある店を上げる時、彼の店の名前が上がる程で、都市内の有力者の一人としても数えられていた。


曰く、商人という事を引き抜いても些か強か過ぎる性分だと。

だが、だからこそ、ここまで来れた。この性分を気に入っていると、彼は自らをそう語る。


しかし、そんな彼にもどうにも儘ならない事はある。

それは丁度4日前の事。



その日、一人の冒険者が、聖都にある六神教司祭の代理人としてリカルドの元を訪れた。

冒険者は、聖都の中枢、大聖堂が求める品を用意をして欲しいという依頼を伝えてきた。


大聖堂、言わば国教の聖職者連中が、冒険者を介しているとは言え、商人へ依頼が出した事自体に訝しさを覚える。

しかし、国教の六神教を相手に下手な態度をとれば、今後に大きく影響が出るのは火を見るより明らかだ。


無碍に依頼を断ったとなれば聖都どころか、最悪王都側にも目を付けられかねない。

そもそも、何かしらあれば王都の貴族連中から強請れば大概の事はまかり通る様なものなのに。


(何でわざわざ教団連中が動いているんだ?)


そこまで思惟した時、不意に彼の脳内である『噂』が過ぎった。

それは聖都で起こった『奇跡』と囃されていた出来事なのだが…。


奇跡、と言うには、六神教の教え自体に懐疑的なリカルドにとって、それは趣味の悪い冗談にしか思えない代物だった。


まさか、それに巻き込まれるんじゃ……。



リカルドの背にじわりと嫌な汗が滲んだ。


それは何としてでも忌避したい。

絶対なる神々の存在は理解できずとも、リカルドは信仰心、もとい一つの対象に心酔する者の恐ろしさはよく知っていた。


だからこそ、リカルドは聖都に関する仕事には殆どといって自ら携わる事は無い。

六神の教えを信じぬ者など、存在する訳が無いと心酔している連中の相手ほど厄介な物は無い。


リカルドにとって、信仰という行為はともかく。

この六神教とそれを信心深く信仰する連中の存在は――――うんざりする程嫌いだった。




(……うん、他の奴を紹介してやろう)


リカルドの決断は早い。

聖都の依頼を無碍には出来ない、だが今の状況下の聖職者共に関わるのは非常にまずい。

第一に精神衛生に悪すぎる。


見た所、目の前の冒険者も己から買って出たという訳では無く、ギルドからの依頼か何かで派遣されたのだろう。

でなければ、神の名の元に素晴らしき働きをして仕えられるのだ!と使命感やら幸福感などを垣間見せてくれるはずだ。


しかし目の前の人物は一切そんな事はなく、それ所か自ずと諦めめいた物すら感じ取れる。


可哀想に、貧乏くじを引かされているという事が分かっているのだろう。


六神教の聖職者共は、神の威光の下に、人は須らく跪くと思い込んでる節があり、独善的で高圧的な物言いをする者も少なくない。


神の威光など恐れぬ商人の様な生業の者からしてみれば、馬鹿馬鹿しく感じるものなのだが、なまじ巨大な権力と影響力を有しているせいで、その『神の威光』は遺憾無く発揮されている。


そう思うと、リカルドはこの冒険者に同情すら覚えた。

下らない『威光』に捕まってしまったのなら、そこから逃げ出すには余程骨だ。


強いてそこから引く事ができるとすれば、向こうの望みをそれなりに叶えてやる。

それしか道は無い。


下手に逃げ出そうとしたり、失敗しようものなら、一体どんな事(天罰)が待ち受けているか分からない。

最悪、王族や貴族に根を回して、国外追放なんて目に遭いかねない。


(こいつ、本当に可哀想だなぁ…)


そこで先の決断である。

哀れな冒険者と自分が波風を立てず助かる道はそれしか無いだろう。


リカルドは冒険者にこう告げる。


申し訳ないが、自分には別の『大きな取引』が控えているので、その依頼に協力する事は出来ない。

だが、その埋め合わせと言ってはなんだが、他に信頼のおける商人を紹介する、それならば問題は無いだろう、と。


そして、全てを言わないがリカルドは冒険者に説明をする。

そうすればお互いにいい思いができると。


リカルドにとっては関わりたく無い相手だが、六神教自体は特異な権限を持ち、また強い権威も有る。

それにあやかる為、関わりを持ちたいと切望する者も存在する。


だがあの連中ら取り入る機会など、そうそうある訳でも無く、限られた少ない機会を狙うのが定石だ。

リカルドの交流がある商人達の中にも、幾らかそういう者がいる。


ならば、それらの誰かに繋がる機会をくれてやれば良い。

そうすれば、リカルドはこの件に直接関わらず済むし、また紹介した商人に対し、一つ貸しも作れる。


後はそいつ次第だが、教団との関わりを持てるこのチャンスを生かしきれば、そいつも美味しい思いが出来る。

また、この哀れな冒険者も、代わりの商人さえ紹介されれば教会からの依頼をこなす事が出来るだろう。


最も、冒険者が一体どれ程の実力を兼ね備えているかは知らないが、ギルドから任されているのだから、それなりに信頼はあるのだろう。

そして教団もお望みの品が手に入れる、良い事づくめでは無いか。


話を聞いている内に冒険者も得心がいったと頷く。

その後はトントン話が進み、最終的にまとまった流れはこうだ。


紹介する商人の元にリカルドが冒険者を案内し、紹介と聖都の依頼の口添えをする。

紹介状を書いて渡してやれば済む話でもあるが、断る口実で出した『大きな取引』というのは、あながち嘘では無い。

実際にその商人にのいる土地に用もあった。


春も終わり、夏へ向かい始めた季節。

本格的な夏になればエステリオでは、祭りが開かれる。

その際、この土地には、いつも以上に人が訪れ、書き入れ時になる。

その為、エステリオの商人達は一定の協力体制に入り、祭りへの準備に追われる。


リカルドも例外無くその準備を進めている者の一人で、リカルドは案内がてら、他の商人達へ進捗を伺いにでも行こうと考えていたのだった。


そして、冒険者の案内を翌日に約束し、その日は別れた。



一人になったリカルドは、自然と自分の頬が緩んでいる事に気づく。


最近、何かと書類と睨みあう事が多かったせいか、外に出る機会が減り、出るのは店先までという事も珍しくなかった。


そのせいか、久々のちょっとした遠出に、少し心が躍った。


今の自分の顔を妻が見たら、また何か悪巧みでもしてるの?と言われそうだとリカルドは思う。

全く自覚は無いが、楽しみな事や良い事があると、何か悪巧みでもしているのか?と訊かれる程、悪どい笑みを湛えているらしい。

全く失礼な話だよな、とは思う。


まぁ常日頃、柔和で人のいい笑みを浮かべる事を心がけている反動で、素で笑うと悪い笑みに見えるのかもしれない。


そう一人心地をついていたリカルドだが、従業員が店の様子を報告をしに来たので、意識を切り替える。


報告を聞きながら、明日の予定を端的に告げ、自分の留守の間の指示を出す。

そして従業員が去った後、彼もまた仕事に戻るのであった。





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