彼と彼女の飛行機 side:B
わたしは、小学校に上がる前、声を失いました。
理由はなんだったか、もはや定かではありません。
よく覚えていないし、両親や家の者はその話をすれば口を噤んでしまいますから。
小学校に上がり、待っていたのはいじめでした。
いえ、いじめというほどに大袈裟なものではありませんでしたが、子供は異質なモノを受け入れない傾向が強い。
わたしは、異質なモノでした。
けれども一人の男の子だけが仲良くしてくれたのです。
よく、折り紙を折っていたのを覚えています。
わたしは特に紙飛行機を折っていました。
いつだったか彼はわたしに、なぜ紙飛行機ばかり折るのか、と聞いてきました。
母が何かで読み聞かせてくれた本で、主人公が恋人と紙飛行機で文通をするシーンがあったのです。子供心にわたしはそれに憧れ、ついつい紙飛行機ばかり折ってしまうのでした。
そう伝えると、彼も気に入ってくれたのか、一緒に紙飛行機を折るようになりました。
父が学校を辞めさせたのは、その数日後でした。
仲良くしていた彼は離れたクラスだったので、普段の教室でのわたしの様子を、不憫に思ったのでしょう。
確かに学校はつまらなかった。
しかしわたしは彼との別れがどうしようもなく辛かった。
最後のお別れの日、彼はわたしに言いました。
―――紙飛行機があるから、大丈夫。
たったそれだけの言葉。
けれどもなんだか心がふっと軽くなって、悲しいという気持ちも、寂しいという気持ちも、薄れていったのです。
あれから十年と少し。
彼とわたしは偶然にもまた出会い、そして文通をしています。
もちろん紙飛行機で。
彼はわたしのことを覚えていないようですが、構わないのです。
どうやら心はまだ、繋がっているみたいですから。
今のわたしは、子供の頃よりも紙飛行機を折っています。
あの頃込めていたのは主人公と恋人への憧れ。
今込めているのは、彼への恋心。