彼と彼女の紙飛行機 side:A
一枚の紙を、半分に折ります。
折った紙を開いて、向かい合う角の一組を、その折り目に合わせて折り曲げます。
最初に折り、開いたものをもう一度折り曲げ……そうです、先ほどから僕は紙飛行機を折っているのです。
毎日毎日飽きもせず、僕がこの作業を繰り返しているのは、別に紙飛行機が好きなわけではありません。
その人に出会ったのは、桜が散り、青々とした葉が生い茂る初夏のことでありました。
古い家屋が残るこの街でも、とりわけ古く由緒正しき家。
彼女はその家の一人娘でした。歳は僕と同じくらい。
ではなぜ学校に通っていないのかといえば、声が出ないのだそうで。
幼い頃それを原因に小学校に馴染めず、その後は家庭教師を雇い、あまり家から出ないのだそう。
近くの小学校なら、僕と同じでしょうから、知っていてもおかしくはない。
しかし彼女のことは記憶にありませんでした。
その日はなんとなく学校をサボってしまい、ふらふらと歩いていました。
そしてその家の前でふと上を見ると、彼女と目が合いました。
どちらともなく手を振り合って、彼女は僕に少し待つよう身振り手振りで伝えると、一度窓から顔を引っ込めました。
しばらく待っていたのですが……驚きました。
唐突に、彼女の部屋から紙飛行機が飛んきたのです。
思わずキャッチすると、窓からひょこっと彼女が顔を出しました。
紙飛行機を日にかざしてみると、なにやら文字が見えます。
開いてみると、それは手紙でした。
自己紹介と、時折こうして手紙を交わしてくれないか、そのような内容が書かれたものです。
きょとん、と彼女を見つめてみれば、神妙な顔でうなずかれました。
その様子がなんともおかしく、可愛らしくて。
その日から、僕と彼女との文通が始まったのです。
彼女の手紙は、言葉選びが丁寧で、綺麗で…読むと心が温かくなります。
繊細な形のいい字が綴られたそれは、僕の胸に不思議な作用を与えるのです。
彼女の手紙が手元に増えていくたびに、その不思議さは広がっていきました。
そして、僕は自分が彼女のことをどう思っているのか、わからなくなってしまいました。
ただの友人とも言えません。
そういうには彼女の存在は僕の中で大きすぎる。
この気持ちは、なんなのか。
いいえ、本当は気づいているのです。
これが、恋だということに。
今日も私は紙飛行機を作ります。
彼女への思いの小さな欠片を、その中に織り込めながら。