君を見つめて
部活帰りの校庭の隅。
部室棟も遠いし、校舎や下駄箱なんかも遠いそんな場所、誰も来やしない。
君と僕以外には。
君は僕がいることなんて気づいてもいないけれども。
君は吹奏楽部の個人練習で、いつもここで吹いているよね。
僕は自分の部活が終わると、仲間に別れを告げてこっそりここへ来る。
そして君が下校ギリギリまでフルートを奏でて、スポーツドリンクを片手に休憩するのを眺めてから帰るんだ。
自分でもストーカーかよ、なんて思わなくもない。
けれども声をかける勇気なんてないし、クラス数も多いこの学校じゃ、同級生とは言え彼女は僕の名前さえ知らないだろう。
それに声をかけて、もし君に気味悪がられでもしたら、立ち直れない。
その日も君を眺めていたのだけれど、いつもと様子が違った。
どうやら飲み物を忘れたらしい。
鞄を漁ってから何も取り出さなかった彼女は、近くの冷水機で水を飲む。
伏し目がちに水を飲む君を見てると、なんだかどきどきしてきた。
ぼーっとしていたら、不意に君が顔を上げて、目が合った。
うわ、どうしようどうしよう……。
そう思っていたら、君は僕の目を見ながら少し笑って、荷物をまとめてさっさと帰ってしまった。
ええ? どういうことだ?
僕はただただ混乱するばかり。
君は僕が毎日行っていること、気づいていた?
練習場所を変えなかったってことは、気持ち悪がられてない?
考えれば考えるほどよくわからなくなってきた。
明日は、勇気を出して声をかけてみようか。