海を越えて side:A
「この水平線のずっと向こうに、君の生まれた国があるんだね」
海を二人して眺めているとき、そう言った。
すると君は、なんだか誇らし気に、そして少し恥ずかしそうな口調で、母国の良さを沢山語ってくれたね。
でも、僕は君の口からその異国の良さを伝えられる度に、君と過ごせる時間の期限を思い出してしまうんだ。
けれども嬉しそうに話す君を見るのは嫌じゃないんだから、始末に負えないよね。
君が国に帰る直前、僕は辞書とにらめっこをしていた。
なんと発音するのかもよくわからない言葉たちを、出来うる限り丁寧に紡いで、一枚のラブレターに仕立て上げた。
君は言葉は話せても、日本語は書けないものね。
英語は読み書きできるみたいだけど、せっかくなのだから君の国の言葉で綴りたかったんだ。
そして当日、餞別として渡した色々なプレゼントの中に、そっと、僕の想いも忍び込ませた。
そんなことを露ほども気付いていないであろう君は、みんなや僕からのプレゼントを嬉しそうに抱えながら、お返しだと言って、僕に小さめの小包をくれたね。
その場では開けるなと言うから、帰ってから、丁寧に施された包装を順番に開いていった。
中に入っていたのは君がいつもつけてた小さな鈴のお守りと、手紙。
僕の隣でりんりんと鳴っていた鈴が、今手の中にあるのが妙に不思議で。
君がいなくなってしまったことが余計に強く感じられて少し涙が溢れた。
次にそっと手紙を開き、驚いた。
カタカナやひらがなの入り混じった、お世辞にも綺麗とは言えない、しかしそれは紛れもなく日本語であった。
ねえ、僕らの間には越えられない距離はあるけれど、心は随分と近いところにあると思うんだ。
いつか僕が君を迎えに行くまで、その距離を埋めるように、沢山の言葉を交わそうか。