狐の嫁入り
前話の「狐憑き」の嫁視点になっています
うちの旦那様は所謂”狐様”でいらっしゃいます。
好物はお揚げさん。
少しつり目のお顔をしていらして、黄金色の髪の毛がとても綺麗です。
生まれつき身体の弱かった私は、いつも布団に横たわり、庭を見つめておりました。
すると、いつからか、不思議なものを見るようになったのです。
それは人々が妖、と呼ぶもの達でした。
小さな紙人形のようなもの達。
喋る二又の猫や、キセルを加えた女の人。
そこに確かに存在しているのに、他の人々には見えない彼らは、いつも同じ場所にいる私に興味を抱いたのか、ふらりと訪れては様々なお話をしてくれました。
狐様も、その中の一人。
狐様は他の妖たちよりも力が強いらしく、皆から「お館様」と呼ばれておりました。
この辺りの妖たちの、まとめ役なのだと。
ですから狐様がいらっしゃると、他の者達は狐様と私を二人きりにして、現れた時と同じように、ふわりと消えてしまうのです。
狐様は毎日私の元へいらしたので、妖達の誰よりも私と居る時間が長かった。
……気づくと狐様に、私は恋をしていたのです。
二人で長らく語らった後、狐様は必ず私の額に口付けをしていかれました。
妖力を少し分けることで、私の弱い魂を少しずつ強くしてくれているらしかったです。
今思えば私が人の身で一五まで生きることが出来たのはそのお陰でしょう。
一五になった私のもとへ、幾つかの見合い話が舞い込んできました。
その中でも身分の高い青年を勧めてくる家族に、私はついつい「狐様が居ればそれでいい」と言ってしまったのです。
すると、あれよあれよと離れに連れ込まれてしまいました。
嗚呼、このまま私は青年の元へ嫁がされ、二度と狐様に会うことも出来ないのだわ。
……そう悲痛に暮れる私が、ふと顔を上げると、そこには狐様がいらっしゃいました。
どうしたいか選べと仰る狐様に、「貴方と共に生きたい」と言えば、離れから私を連れ出してくださりました。
そういった経緯を経て、私たちは夫婦となり、狐様と永久を生きられる身体にしていただきました。
もう何年の時が経ったのでしょうか。
亡くなられたであろう両親に、狐様との結婚を報告できなかった親不孝者ではありますが……、私は今、幸せです。
「狐様、今日はお稲荷さんにしましょうか」