魔王の悩み
私の経営しているアパートは町の住宅地のところにある。
周りに暴走族やビルなどのうるさいものがない静かな場所である。
私はよく朝早くから掃除をしたりして外にでていたりするのだが、その時にご近所の人達と交流することがある。
ご近所さんはいい人達ばかりだ。
この前もアパートの掃除をしていると、向かいの一軒家に住んでいるおばちゃんから、「若者の一人暮らしは大変だから」という理由でカボチャの煮物のお裾分けをもらった。
「‥‥というわけ何だが、何を返せばいいと思う坂本」
「唐突です。魔王様」
今は客が誰もいないのでいつも通りに話をしている。
「まあ、お前の方が先に転生しているわけだしアイデアを聞こうと思ってな」
「いつもみたいに料理を渡せばよいのではないでしょうか」
「いや、こうお裾分けをもらうたびに毎回料理をわたすのもなマンネリは避けたいのだよ」
「‥‥料理といっても自家製漬け物や自家製干物を渡す魔王様は珍しい方に入ると思いますが(小声)」
「ん?何かいったか?」
「いえ、魔王様はこの世界に本当になじんでいると改めて思っただけです」
まあこの世界に転生した以上この世界の住人とは良好な関係を築きたいと思っているからな。
「ああ、できるかぎり町内会や町内のイベント、ボランティアには参加しているし、ゴミは燃えるゴミと燃えないゴミと分別しているし、近所の人と出会った時はあいさつはこちらからするように心がけているし、他にも‥‥‥‥」
「いろんな事をやっていますね (この世界では魔王は悪役という立場が多いですが、魔王様のような人が魔王をやっていると知ったらどうなるでしょうね‥‥) 」
「それでだ。私としては料理ばっかりでは芸もないので何かいいものはないか」
「魔王様は他に何か渡して喜ばせるようなものを作ることができましったけ?」
「うーむ、そうだな。私の魔力を結晶化して作り上げた宝石に近いようなものならできるが」
「‥‥お裾分けとしてあげるものではありませんし、それに魔王様の魔力を結晶化したもだとこの世界ではとんでもない力をもった宝物として扱われかねませんよ」
「ダメか」
「料理でも食べ物ではなく飲み物をあげるのはどうでしょうか」
「飲み物? 確かに私は家庭菜園でトマトなどを作っているがまだ収穫できるようなできばえではないぞ」
「そうではなくてですね。というか収穫できたらジュースを作ることができたんですか」
「まあ少し前に料理のネット検索していたらな」
「家庭スキル高いですね魔王様。私が言ってるのは転移魔法で遠い所に行って珍しい飲み物を手に入れてくることです。別の所に住む友人が送ってきたのでとでも言えば受け取ってくれますよ」
「‥‥‥いや自家製で作る」
「え?まだ収穫できないっていってませんでした?」
「菜園の所だけの時間を進めて収穫できるようにする」
「別にそこまでしなくてもよろしいのでは」
「いやッ!自家製で作るのだ」
「分かりました(なんというか魔王様はこの世界に転生してから家庭スキルに目覚めてしまったような気がします)」
「うむ、それではさっそく作ってくる。アイデア感謝する」
「いえいえ、何なりとお申し付けください」
バイトを終え、私は意気揚々で外に出て行った。
翌日
「自家製で作った野菜ジュースです。初めて作ったので感想を聞かせてるれるとうれしいです」
「あらあら、ありがとうございます。天羽さんはすごいですね。漬け物やジュースを作ってしまうなんて」
「料理をするのは好きですから」
「ありがとうございます。味の方を楽しみにしています」
「おてやわらかに」
「で、渡したんですか」
「ああ、よろこんでもらえたよ」
近所の方にお手製野菜ジュースを渡してバイトに来たわけだが
「確かにおいしいです。この野菜ジュース」
坂本にも試飲してもらっている
「私としてもいいできばえだと思う」
「またメニューに追加してもいいですか」
「構わんが、段々私の考えた料理がメニューに乗っている数が増えてないか?」
「それだけ魔王様の料理がおいしいってことですよ」
「まあ私もほとんど毎日ここに来て働いているわけだが」
「もう魔王様アルバイトっていうより、ここの正社員ですよ」
「まあバイトでかまわないが」
「そんなあ。居てくださいよ」
「別にいいだろう」
「今はあまり客がいませんけど、最近店の子が何人か辞めちゃって少し大変なんですよ」
「分かった分かった、もう少し来るのを増やそう」
「ありがとうございます」
「ただし、他の店員や客が近くにいる時は言葉づかいに気をつけてくれ」
「‥‥‥善処します」
「そこはいい返事が欲しかったのだが」
何はともあれ魔王の悩みも解決し、またメニューが増えたのでした。