魔王の日常②
今日の夕飯のためスーパーにやってきた。
このスーパーは私にとって楽園のような所でもあるが、同時に戦場でもある。
かつて私はスーパーにやってきた時、その品物の多さに驚いたものだ。
この店一軒で必要な物がそろってしまいそうなものである。
魔界の城下町をみていてもここまでの品揃えのものはなかっただろう。
さて、楽園と言ったのはその商品の多さから言ったものであるが、戦場といったのはこのスーパーにあるタイムセールスである。
ここのスーパーのタイムセールスは他のスーパーのタイムセールスとくらべ、はるかに安い。よって目当ての商品を買おうとしても他の客に買われてしまうことが多々あるのだ。
私も最初は苦労したものだ。あの時の買い物客の群生は昔闘ったドラゴンの群生に近い覇気があったと確信している。
しかし、私にも師匠ができたおかげで、そんなことも少なくなってきた。
「天羽さん、こんばんわ」
うわさをすればなんとやら、目の前にいるのは五十半ばであろう、おばちゃんがいた。
この方こそ、私の買い物師匠である浪花のおばちゃんこと、安田 恵子さんである。
「ええ、こんばんわ」
「いまから、買い物?」
「はい、バイト帰りに冷蔵庫の中身がほとんどないことに気づき買っていかなければと思って」
「おしいわね~」
「何がですか?」
「あともう少し早く来ていれば、キャベツ一玉50円で買えたのに」
「……はっ?!」
キャベツ一玉50円?!
いくら何でも安すぎる。
何時もなら150円なはず!……これを逃したのは大きな損失に……
「ドンマイドンマイ、明日はこれくらいの時刻にまたタイムセールスやるだろうから、それを狙っていけばいいのよ」
「師匠……」
「あんたはまだ若いんたがら、これくらいの失敗で挫けないの。一度の失敗で挫けないで次に目を向けていくんだよ」
……この魔王やはりまだまだ修行が足りぬな。
これくらいの失敗は最初は何度もあったではないか、師匠の言うとおり今日がダメなら明日にこの失敗を生かせばよい。
「ありがとう師匠、やはりあなたは私の師匠だ」
「やだねぇ、私はただのタイムセールス大好きのおばちゃんだよ」
そう言って師匠はクールに去っていった。
ふーむ、これからは魔法の使用も考えるべきか時を止めて最前列に先回りするべきか、それとも軽い洗脳で店員からの商品がこっちにまわりやすいようにするか
タイムセールスとは戦いである。
ならばこちらも手加減するのは無礼にあたる。全身全霊をもって、この戦いに参戦するというのが礼儀であろう。
「まあ、仕方ない。今日は通常の価格で必要なものを買い物するか」
トマト、レタス、大根、あとは豚肉二パックと小麦粉も買って……。
「ふう、結構買ってしまったな」
気づいてみると両手の袋にはいっぱいの物が入っていた。
「今日の夕飯は豚肉の生姜焼きでもつくるか、後は近所の人からもらった牛蒡のきんぴらがあったはずだ。それを夕飯にしよう」
帰っていると夜なのに町の電灯が光ってとても明るい。
魔界の夜はここまで明るくなかっただろう。
「平和だな」
心から来る言葉であった。
魔界も平和であったがここまで文明は発達してはいなかった。
この世界には魔法がおとぎ話のようはものとして扱われていると知った時は驚いたものだ。
一体どうやってここまで発達したのか不思議でしかなかった。
魔法なら当たり前と思われていた事がこの世界では有り得ない事で、魔法で難しいことがこの世界では科学の力によって実現している。
「なんとも奇妙なことだ。しかし、それでいて、やはり素晴らしいなこの世界は」
この日本という国では戦争がしばらくおこってないらしい。
戦争はしないという国の決まりがあるのだ。
私は魔王として戦場として戦いの場にでることもあった。その時は圧倒的な力によって外部の世界からの侵略を防いでいた。争いで得られるものなど多くはなかった。私は蘇生魔法が使えるが、それでも間に合わない者はいた。
部下を失うのはつらかった。
私は冷徹にはなろうと思わなかった。部下の死を悲しみ、忘れないようにするのが精一杯だった。
「この世界では、そういう事もめったに起こらんだろう。魔王としての肩の荷が降りたきもするな」
今関わっている人を大事にしていかなければなと改めて思った魔王だった……
午後八時半に夕食を食べ終わりテレビを見ていると、メールが一件届いていた。
「む、店長からか、なになに『明日、別の店員さんの誕生日パーティーをするので魔王様も参加していただけませんか?』か、魔王様とつけるのはやめろと言っているのに全く」
誕生日パーティーには参加するか、パーティーでは魔法をマジックとして偽り盛り上げでもやるかな、店長に「魔王様、魔法を使うのはマズいですって!」などど止められそうだが問題あるまい。
しばらくして…
あれから、午後11時まで読書をしていたわけだがメールには「参加ありがとうございます」ときていた。
明日魔法をマジックとして披露するのが楽しみである。
「さて、もう寝るかな」
そうして今日も布団につく。
これがいまの私の平和な日常だ。