12時ジャスト
正直な話、悩んだ。
「君に会いに行こうか?」って話を?
いいや、そんなんじゃなくって、
どんな服を着て、どんな顔をして会いに行くかを。
やっぱり、久々だから、成長した私を見て欲しい。
そのためには、どうすればいいんだろう?
必死に悩んだ。 悩みに悩んだ。
けど、結局わかんなかった。
だから、私はいつも着るような服を着て、
いつも通りの私を見てもらうことにした。
君に会うからって、特別着飾るのわけではなく、
君に会うからって、無理して笑うのではなく、
私らしい私を見て欲しくって、普段通りで行くことにした。
朝起きて、いつも通り朝ご飯を食べる。
それから歯を磨いて、うがいをして、
着替えてから、「行ってきます」と出かけた。
約束の時間は、12時ジャスト。
だけど、私はそれが待ちきれなかった。
私は小走りで、約束の木の下に向かった。
到着した時間は、9時半。
もちろん君がいるなんてことはない。
だから、私は家から持ってきた本を開く。
君は知っているだろうか?
私が昔嫌いだった読書が、今は大好きだということを。
別に、どこかのアイドルみたいに、
禁止令を出されたわけじゃないけど、
私は「待つ」と約束した以上、恋はしない。
そう決めて、今日まで生きてきた。
けれど、私も女の子。
少しくらい甘い話に触れたい。
私が経験できなくたって、触れていたい。
そうして、手を出したのが小説だった。
正直、昔は文字を見るだけで嫌だった。
漢字が苦手だったのもあるけれど、
何よりも文字がたくさん並んでいる、
その窮屈さというのを見ると頭が痛くなった。
しかし、今は違う。
次の1ページが気になって仕方がない。
今日は1章だけと、区切りを付けない限り、
私はご飯を食べることを忘れるまでになった。
そんな私の姿を君は知っているだろうか?
今日の区切りは、君が来るまで。
それまでは、じっとここで待っていよう。
もし、少しお腹が空いたら、
持ってきたサンドイッチを食べよう。
それ以外に何かするとしたら、トイレくらいかな?
もし、行きたくなったら、
すぐそこのオバちゃんの家に借りに行こう。
家まで帰っている間に、彼が来ると嫌だから。
少しでも、この木の傍に居たい。
少しでも、早く君に会いたい。
だから、私は君が来るまで、ここにいる。