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陰陽記―総真ノ章―  作者: こ~すけ
 第八章 激闘!Aブロック予選
68/69

八.

「さて、どうするか」


 とは言ってみたものの、この距離は非常にやばい。この距離はすでに拳銃の距離、俺の刀は届かない一方的な距離だ。しかももう一度近づこうにもさっきのように弾丸を避けることはできない。《神羅》の力が切れた今、防御を固めるのは必須だ。

 ……その防御の術を張れないのが問題なんだよなぁ。

 そんなことを思っているうちに、由美さんの拳銃が俺に向けられる。

 ――くそっ! とっさに横っ飛びで回避すると、俺が今いた個所に霊子弾が着弾した。

 ……こんなのいつまでも耐えれないぞ。

 今の回避で体勢を崩したまま、由美さん見る。由美さんは両手をクロスするようにして、体の前に構えた。


「……《炎弾(えんだん)》」


 ――術の詠唱破棄!

 炎の弾が俺に迫る。回避が無理だと悟った俺は、それを刀で斬り裂いた。《特待棟》で死ぬほど行った訓練の賜物だ。タイミングばっちり――、


「……《瞬炎(しゅんえん)》」


 それはまずい! 訓練の成果を実感するより速く、次の攻撃が俺を襲う。しかもそれはスピード重視の破魔術《瞬炎》だ。


「くっ……!」


 俺は返す刀で《瞬炎》を弾こうとしたが、矢の形を模したそれは俺の斬撃をすり抜ける。

 ドンッ! っという衝撃ともに俺は後方へと吹き飛ばされた。《瞬炎》が俺の左脇腹の辺りに着弾したからだ。

 痛みはないが、衝撃に顔が歪む。

 一瞬の滞空、そして背中から地面に落ちた後、その勢いを利用してすぐに体を起こす。が、起き上がって見たのは、俺に向けて銃を構える由美さんの姿だ。

 完璧な流れ、格闘ゲームでいうならハメコンボか。――怒ってるな、これ。

 由美さんが俺にぴたりと狙いをつけて引き金を引こうとしている。……この体勢と距離では避けるのは不可能だ。


「――っ!」


 思わず俺は目を背けた。――やられた! と本気で思った。その時、


「《一式結界》!」


 澄んだ声が空気を震わす。と同時に俺の目の前に光る壁が出現していた。そしてその壁が俺に向かって飛んできていた弾丸を防いだ。弾がもろに当たったというのに、傷一つ付いていない……すごいな。けど、こんなの誰が……?

 俺が後ろを振り返ると、二メートルほど離れたところに綾奈が手を体の前にかざして立っていた。

 驚いたのはその表情だ。初めて会った時の弱々しさはどこにいったのだろう。とても凛々しく、思わず俺は見惚れてしまう。


「総真さんはやらせません! 私を信じてくれたから! 総真さんは私が守ります!」


 そして、その表情に負けないくらいの強い言葉を発した。その内容は……すごく恥ずかしい気分になるけど。


「総君!」


「総真!」


 明華とアリスの二人が俺に駆け寄ってくる。


「馬鹿者! 一人で突っ込みすぎだ! 初撃が失敗したら撤退の約束だっただろう!」


 そばに来るなり、アリスが言う。打ち合わせと違うことをしたのを怒っているのだ。


「……すまん、心配かけた」


 その点について俺は素直に謝った。すると、アリスは顔を背けて「……分かればいいのだ……分かれば……」と呟いている。心なしか顔が赤いようだが……どうした?


「えいっ!」


 そして、なぜか明華が横から蹴りを入れてくる。なんでだよ! というか今ので《吸傷》の許容量超えたらどうするんだ! 嫌だぞ、味方の、しかも女子の蹴りで失格退場なんて。


「総真さん」


 理不尽な攻撃を受けた俺に、綾奈がすぐ後ろから声をかけてきた。俺は由美さんの動きを確認するために前を向いたまま、それに答える。


「使ってくれたんだな、月神の力」


「はい、今しかないって思いましたから……余計でしたか?」


「いや、完璧なタイミング。助かったよ、綾奈」


「そうですか……総真さん、あなたを守れてよかった」


 顔は見えないけど、綾奈が今微笑んでいるのはなんとなく分かった。チームとして絆を深めた証拠かもしれないな。

 とはいえ今は戦闘中で、それを確かめてはいられない。《一式結界》と呼ばれた光の壁はいまだに健在で、俺たちと由美さんを隔ててはいるが、どちらかが動けばこれに頼ってはいられなくなる。


「綾奈……例の作戦で行く。合図したらこれを解いて、先に撃ちこみを頼む」


「了解です」


「明華は呪符で援護、俺もそれに続く。前衛はアリス! お前の《天使の贈り物(エンジェル・ギフト)》に期待するぞ」


「分かった」


「よし、任せろ」


 言葉を最小限にした作戦会議。それでも全員に内容は伝わる。俺たちはそれくらいこの試合に対して準備してきた。

 ――必ず勝つ!

 もう一度気合を入れ直すと共に、俺は右手に刀を、そして空いたもう片方に呪符を構えた。


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