表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰陽記―総真ノ章―  作者: こ~すけ
 第八章 激闘!Aブロック予選
67/69

七.

 盛大な歓声が俺たちの上に降り注ぐ。だがその歓声の大半は俺たちに向けられたものではない。その大半は目の前に立ちはだかるこの小柄な先輩、夜坂由美(やさかゆみ)さんへのものだった。


「リーダー、前へ」


 俺はその審判の合図を聞き、一歩前に出る。由美さんも同じく一歩前へ。

 俺と由美さんの視線が交錯する。無言で向かい合う。


「よろしくお願いします」


 沈黙を破って俺の方から手を差しだす。由美さんはその手を無言で見つめる。


「聖斗さんと約束しました。――あなたを倒します」


 俺の言葉に由美さんはピクリと反応した。


「……先輩と約束したのは私。私を倒せるのは先輩だけ」


 由美さんの言葉に少しだけ怒気が含まれるのを感じ取る。聖斗さんの名前は効果抜群だ。少しは動揺してくれかな。――なんてちょっとだけずるい考えかな。

 由美さんは俺の手を握ることなく自陣の方へと歩いて行く。

 俺も手をひっこめると仲間の方を振り返った。


「兄さんと約束?」


 綾奈が不思議そうな顔で聞く。


「まぁね」


 聖斗さんと話し合ったは先日のこと。内容が内容だったので綾奈たちには詳細は伝えていなかった。

 四人並んで自陣へと戻る。あとは開始の合図を待つだけだ。


「ね、作戦は変更なし?」


 横からヒョイッと顔を出した明華が言う。


「あぁ、初っ端からいくぞ!」


「よし! いこう!」


 俺に続いて、アリスが後押ししてくれる。それが嬉しく思う。

 四人が一斉に振り向き、由美さんと向かい合う。

 審判が中央へと歩みより、両陣営を一瞥した後、手を大きく振り上げた。――さぁ、開幕だ。


「試合開始!」


「《神羅(しんら)》!」


 開始の声とほぼ同時に、俺は叫んでいた。切り札の名前を。

 体の奥から押し出されるように青いオーラが俺を取り巻く。感覚が研ぎ澄まされていくのがしっかりと分かった。

 それを知覚するまでの時間は一秒以内、俺は床を強く蹴り一直線に由美さんへと向かう。

 俺の気配の変化を感じたのか、由美さんも素早く拳銃を抜いていた。俺がエリアの半分を駆けた時、由美さんの手元が光った。光を纏った霊子弾が俺に向かってくる。

 ――だが、それが見える! 

 《神羅》発動時の超反応は弾丸ですら捉えることができた。二連射された弾丸を躱して、そのままの勢いで由美さんとの距離を詰める。

 この開始直後の《神羅》発動は作戦の一つだ。全国制覇を経験している由美さんとの実力差はやはり歴然だ。最初にペースを握られてしまうとそのまま最後まで攻められっぱなしで終わる可能性もある。だからあえて最初に《神羅》を持ってきた。由美さんですら見たことのないものといえばこれくらいしか思いつかないからだ。

 この日の為に隠し通してきた……もといやっとのことで習得した技だ。出し惜しみはしない。

 この作戦は成功した、と思う。弾丸を避けた俺を見る由美さんの表情は変わらないが、動きが止まっている。驚いて体が硬直した証拠だ。

 その隙に距離を詰めた俺は腰の刀を一閃する。一撃必殺! これで終わらせるつもりで刀を振った。

 ガキィッという鈍い音が響くと同時に由美さんの手から拳銃が吹っ飛ぶ。

 防がれた!?

 今度は俺が驚く番だった。まさかあのタイミングで防がれるなんて……。硬直した体を無理やり動かして、その上で自分ができる最小限の動きで、由美さんは俺の一撃を防いでいた。

 ――けど!

 由美さんの武器である拳銃は吹き飛ばした。つまり由美さんに武器はない。返す刀を叩き込むチャンスだ。

 そう思い、振り切った刀をもう一度軌道を変えて振り下ろす。――はずだった。

 だがそれより先に由美さんが俺に拳銃の銃口を向けていた。さっきまで拳銃を持っていた右手ではなく、空いていた左手の方でだ。

 二丁拳銃!!

 以前抱いた違和感。由美さんがまだなにか隠しているようなそんな疑念。それがこれだったのか。

 俺は振り出していた刀を力づくで止めると、必死に身を翻す。その一瞬前までいた場所を光る弾丸が通り過ぎた。

 ……ヤバかった。

 《神羅》の超反応下じゃなければ確実にくらっていただろう。

 しかし安心するにはまだ早く、追い撃つように放たれた弾丸を距離を取って回避した。というか距離を取るように仕向けられたというべきか。


「ちっ……」


 もう一度アタックしたい……しかしどうやら時間切れのようだった。

 俺を包む青いオーラが消えていく。《神羅》の弱点はその持続時間のなさだ。これは残念ながら俺の練度不足が原因だった。今の限界は約十秒。できればこれで決めたかったのだが……。

 俺に距離を取らせた隙に、由美さんが弾かれたもう一丁の拳銃を拾い上げた。そして両手の拳銃に素早く弾丸を装填すると、エリア中央まで後退した俺を一瞥した。

 悔しいけど第一ラウンドは引き分け――多少押され気味だけど――だ。けど、まだまだ勝負はこれからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ