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陰陽記―総真ノ章―  作者: こ~すけ
 第八章 激闘!Aブロック予選
61/69

一.

「アリス! 右だ!」


 俺の声に反応し、アリスが右を向く。そこには放った者の怒りを体現するかのようなほとばしる雷の塊が迫っていた。《轟雷(ごうらい)》という破魔術だ。


「ぐぁっ!」


 回避行動に移ったアリスだったが一歩遅い。躱し切れずに半身に直撃を許す。だがなんとか持ちこたえたようだ。


「まだ動けるのかよ。まったくとんでもない耐久力だな」


 体勢を崩しているアリスを睨んでいるのは、西村(にしむら)という四年生の男子生徒だ。先ほどの《轟雷》を放ったのもこの人である。


「油断したこっちも悪いが、昌一(まさかず)の仇はとらせてもらうぜ」


 新たな呪符を構える西村に俺は距離を詰めて斬撃を放つ。その斬撃はバックステップで躱されるが、その間に俺はアリスを隠すように西村との間に割って入った。


「山代だったな。邪魔しないでくれるか?」


「アリスはやらせない。それに俺も明華の仇はとってないからな」


 リーダー同士、チームメイトの脱落を受けてお互いに火花を散らす。




 試合が始まったのは十分ほど前だ。相手は目の前にいる西村をリーダーとした四年生三人チーム。人数は一人少ないながら一、二回戦と危なげなく勝ち上がってきた実力を持ったチームというのが事前の印象だった。

 俺のその予想は、そのまま当たっていた。開始二分、気を引き締めないといけない序盤だったのだが、隙をつかれたのは俺たちの方だった。

 三人の息の合った術攻撃が、集中的に俺を襲ったのだ。なんとかその攻撃は凌ぐことができたのだが、相手の狙いはその先にあった。

 狙いというのは指示系統を混乱させることだ。いくら事前に対策を伝えてあり、それに対して鍛錬をしているといっても、所詮は一年生チームだ。経験という点では遠く及ばない。必然、試合中に指示をすることが多くなる。そして、その大半の指示は俺が出しているのだ。そこを狙われた。

 回避に集中しなければならないように仕向けられて、俺は指示が出せなかった。当然、チームは浮足立つ。その中でも一番顕著に隙を見せたのが明華だった。

 相手も映像等でよく研究したのだろう。俺の指示に一番頼って行動しているのが明華だということも見抜かれていたようだ。そして急なターゲット変更からの集中打で、一瞬にして明華はリタイヤさせられてしまった。――だが、そこで崩れないのが俺たちの強さだ。

 明華の脱落は痛い誤算だったが、そういうこともあるということはミーティングの時からずっと言っていた。相手が実力のあるチームばかりになっていくのだから、今までのように四人揃って勝利を手にすることは難しくなるのは当然だ。そう言うとふくれっ面になる明華を諭し、悲しい顔をする綾奈をなだめ、「試合前から弱気とはどういうことだ!」と怒ってくるアリスに切り返し、試合前に心労でぶっ倒れるんじゃないかという目にあったが、言い含めておいてよかったと思った。

 動揺から立ち直った俺たちは、すぐに一枚目のカードを切ることにした。ここまで隠すことに成功していたアリスの耐久力だ。《天使の贈り物(エンジェル・ギフト)》はエクソシスト特有の能力であることから弱点は存在しない。これを踏まえた作戦はというと――作戦と言っていいのか俺自身疑問はあるが――『ゴリ押し』だ。

 アリスを先頭に立てての一点突破作戦。多少のダメージ覚悟の作戦だが、ただ突っ込むだけではなくて、そこに少しアクセントは加える。

 最初の方の相手の攻撃は綾奈の守護符を使ってしっかりと防御しておくのだ。そして途中から俺とアリスの斬撃による防御に切り替えていく。当然少しは被弾するが、その代わり相手に『術での防御が間に合わなくなってきた』という印象を与えることができる。相手の意識をより攻撃へとシフトさせることが目的だ。そして逃げることをせず相手が攻撃を強めてきた時を見計らって、残りの距離を一気に詰める。あとは驚く敵を一瞬で制圧から勝利――という流れの予定だったのだが、実際は思いのほか相手の攻撃も苛烈で、距離を詰めるタイミングが少し早くなった。よって、一番近くにいた一人は仕留めることはできたものの、二人には離脱されてしまったのだ。

 そして今に至るというわけだ。




「アリス、綾奈を援護してくれ。この人は、俺一人でやる」


「へぇ、ずいぶんと自信家だな」


 眼前の西村がニヤリと笑う。


「……大丈夫なのか?」


 一方、後ろから聞こえてくるアリスの声は心配そうだ。


「あぁ、任せろ。必ず勝つさ」


「――っ、分かった。勝たなかったら承知しないぞ!」


 アリスの言葉に、俺は前を向いたまま頷く。それを見たアリスが離れたところで戦っている綾奈の方に移動するのを傍目に捉えた。しかしすぐに目の前の相手に集中する。


「面白そうだから一騎打ちに乗ってやる。あの外国人を倒すのはその後だ」


 そう言うと、西村は腰の刀に手をかける。油断はしてくれなさそうだ。


「やれるもんならな」


 俺はニヤリと笑いながらそう言うも、頭の中では考えを巡らせていた。

 ――どうやら、綾奈から授かったカードも切る必要があるようだ。


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