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陰陽記―総真ノ章―  作者: こ~すけ
第七章『本戦予選開幕!』
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七.

 ピッという軽い電子音がした後で、テレビの画面が暗転した。


「ふぅー」


 あぐらをかいた体勢で、手を組んで頭上へ伸ばす。そのまま体を前方に倒すと、今度は背中の中心ラインが引っ張られる。その後も、柔軟体操とまではいかないが、体勢を変えながら凝り固まった体をほぐしていった。

 時刻は夜の十二時をまわったくらい。いつもならすでに夢の中にいるであろう時間帯だ。明日も学校だし、そろそろ寝よう。寝不足はよくない……。


「でも、アリスと約束したしな」


 昼間、アリスと交わした約束。アリスの能力である《天使の贈り(エンジェル・ギフト)》を主体とした作戦の組み立てを考えることに熱中してしまった。あのアリスが俺のことを少し認めてくれたんだ。――頑張らないわけにはいかないよな。


「ま、今日は寝よう」


 欠伸まじりにそう呟いて、俺は寝室へと向かう。一時間以上も今度の対戦相手の映像を見続けていたおかげで目がしょぼしょぼする。これはすぐにでも眠れそうだ。

 布団を敷いてすぐに潜り込む。といってももう夏も近い。そろそろ掛布団をタオルケットに変えようか悩みどころではあった。

 仰向けに寝転がって、暗くした部屋の天井を見上げた。しばらく眺めていると、その無機質な白い壁に同じチームである三人の顔が浮かぶ。明華、綾奈、アリス、三人とも俺にとってすでに大切な仲間であり、友達だ。


「――もっともっとあいつらを助けることができたら」


 大切なものを守るために必要なもの。それを通すための覚悟、か。……寝よう。眠い。

 俺は目を閉じた。そして限界だった意識はすぐに暗転してしまった。





 どれくらいの時間が経ったのかは分からない。ただ、いきなりある感覚が俺の体に走ったことによって俺は目を開いた。ある感覚といっても、それは別段特別なものではなかった。地上であれば普通の感覚。地に足をつける感覚だ。――でも俺は寝ていたはずなのだ。

 目を開くと俺は木造りの門の前にいた。何時ぞやと同じ大きくて威厳のある門だ。


「こ、ここは!?」


 そう、ここはあの場所だ。あの事件の時、俺に《ムラクモ》を授けてくれた六道とかいう男がいる屋敷の前に俺は立っていた。

 そこで俺は初めて気づく。俺の着ている服のことだ。前回は、その時着ていた制服だった。だが今回は違う。俺が今着ているのは――、


「陰陽師の着物……?」


 俺が着ているのは黒衣の衣装、雫さんが着ていたような特級陰陽師の着物に酷似していた。唯一違うのは、その着物の各所に金の意匠が施されている点だ。深い闇の中でも常に光を失わない。そんな意志を込めた意匠のように思えた。しかし、なんで俺がこんなものを着てるんだ? まったく分からないが、とりあえずその問題は置いておこう。

 俺は歩を進めて門をくぐった。正面の大きな屋敷が視界に入った。前回、《ムラクモ》を受け取った屋敷だ。しかし以前は開かれていたその大きな扉は、今は閉じられていた。

 扉の前まで行く。依然としてその扉が開かれる気配はない。ここではよく扉に邪魔されている気がする。

 例に扉を叩いてみた。一度中の様子を確認しているし大丈夫だろう。同時に声もかけてみたが、扉の向こう側からの反応はない。


「どうしたもんか」


 俺は目を瞑って思案する。初めて来た時は、門扉の向こうから六道が声をかけてくれたのだが、今回はそう都合よくはいかないだろう。


「――なにをしているのです」


 そうでもなかったようだ。今回も都合よく声がかかった。ただし、扉の向こうではなく俺の後方からだったが。

 声の方へ振り返ると、そこには依然と変わらない六道の姿がそこにあった。


「久しぶりですね、山代総真君」


 男だと分かっていても、その微笑みに一瞬ドキッとしてしまう。……いやいや、そっちの気はないんだけども。


「えっと……」


 すでに顔は知っていても、この人の正体を知っているわけではない。俺は口ごもってしまいうまく舌が回らない。


「こ、この扉は開かないのか?」


 俺は少々どもりながらも言う。とっさに口にした言葉だったので、言葉遣いが乱暴になった。しかし六道はそんなことを気にも留めない様子だ。


「えぇ。前にも言いましたが、ここは《継承の間》です。あなたが力を継承するのに相応しい意志を持った時、自然に開きます」


 自然に開く? ということはこの扉を開閉している別の人間がいるというわけか。


「そういうことです。ここを開くことができるのは、今は五人の方々のみ。この扉が開き《継承の間》が機能する時以外は、この向こうはその方々の世界ですから」


 俺の思考を読み取ったかのように、的確な言葉で教えてくれる六道。しかしその顔にはどことなく悲しげな表情が浮かんでいた。


「さて、立ち話もなんです。よければお茶にしませんか?」


 だがその表情も一瞬のもので、すぐに微笑みを取り戻すと――少し無理やりのようにも感じたが――俺に誘い文句を言ってくる。


「お茶、ですか」


 けどそれに簡単に乗るわけにもいかない。前回はのっぴきならぬ状況だったが、今回は時間がある――と思う。 


「そんなに警戒せずともよいですよ。それに私はあなたの知りたいことを知っている。例えばその目の制御の仕方など」


「――なっ!?」


 すべてを見透かしたように六道が言う。……確かにその方法は是非とも知りたいものだ。寝る前に俺が望んだみんなを守るための力を得ることに繋がるのだから。


「どうしますか?」


 ……しかたない。


「もらいましょう」


 俺は六道の誘いに乗ることに決めた。


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