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陰陽記―総真ノ章―  作者: こ~すけ
第五章『転校生』
37/69

二.

「山代! 俺をチームに入れてくれよ! 絶対役に立つから!」


「山代君! 私の方が絶対使えるわよ! だから入れて! ね?」


「山代! この女たらし!」


「羨ましんだよ!」


 俺の嫌な予感は的中した。

 HRと一限目開始までのわずかな時間。そのわずかな時間に、俺はクラスメイトたちによって机を取り囲まれていた。

 理由は明白だ。HRにあった北条先生の話。《八卦統一演武》の参加人数についての特別ルールのせいだ。一年生予選の一位通過のチームしか本戦に出場できない。つまり俺、明華、綾奈以外の一年生は全員、今年の《八卦統一演武》が終わってしまったことになる。そこにタイミングよく提示された特別ルールに食いつくのは無理もない。

 北条先生が退室した瞬間に、我先にと自分をチームに入れてくれとお願いしに来ているのだ。

 少し……いや、なぜか半分くらいの声が、俺への悪口に聞こえるのは気のせいだろうか? まぁ、それは置いといて、非常に困ったことになったな。

 今はまだクラスメイトですんでいるが、これが休み時間になると、他のクラスのやつらも集まってきてえらいことになる予感しかしない。


「おい、山代! 聞いているのか?」


「そうよ! 山代君!」


 俺がそんなことを考えている間でも、クラスメイトの遠慮のない売り込みは続いていた。俺の思考は、半分自棄を起こして現実逃避気味だ。


「ちょっといいだろうか?」


 そんな状態である俺の耳に届いたのは、ハッキリと澄んだ声だった。クラスメイトに阻まれて見えないが、さっきのHRで聞いたあの声だ。

 門が開くようにして、クラスメイト達が左右に割れると、その先には先ほどの声の主、アリス・エンフォードの姿があった。

 美人さんだな。モデルみたいだ。

 間近で見たエンフォードの感想は、俺のボキャブラリー不足もあってか、庶民的な感想に落ち着いてしまった。だが実際に、エンフォードは女子としては背が高く、俺と同じくらいの身長がある。それに比例して足もスラリと長い。


「君が山代総真か?」


「そうだけど」


 エンフォードの問いに答えると、彼女は「そうか」と呟いた後、咳ばらいをした。


「改めて自己紹介をさせてもらう。私の名前はアリス・エンフォード。よろしく」


 そして、俺に向かって再度の自己紹介をすると、手を差しだしてきた。俺は立ち上がってその手を握った。美人の女子との握手は少し恥ずかしい。すぐに手を離した後、今度は俺が自己紹介をする。


「えっと、俺の名前は山代総真。これからよろしく。なにか困ったことがあったら言ってくれ」


 最後の一言に、なにか思惑があったわけではなかった。ただ社交辞令として付け加えただけだ。しかしエンフォードはその一言に素早く反応した。


「ちょうどよかった。困ったことではないのだが、私の願いを聞いてはくれないか?」


「え? ……まぁ、いいけど。なに?」


 俺が聞き返すと、エンフォードは真剣な表情で言葉を発した。


「私と決闘してくれ!」


「……は?」


 今なんて言った? 決闘?

 俺は自分の耳を疑った。いくらなんでも初対面の会話が決闘の申し込みなんてあるわけない。……だよな?

 俺が頭を整理する前に、エンフォードは話を先に進めていく。


「私が勝った場合、チームへの参入と――」


「ちょ、ちょ、ちょっと待った!」


 俺が片手を上げて制止をかけると、エンフォードは不満そうな顔になった。


「なんだ? 条件の提示はまだ終わってないぞ」


「……今、なんて言った?」


「なんだ聞いていなかったのか? 決闘をしてくれと言ったんだ」


 ……き、聞き間違いじゃなかったのか。

 整理しようにも整理できそうにない状況に、俺は軽い頭痛を覚えた。


「なんで決闘なんだよ? しかもよりによって俺と」


「君が《八卦統一演武》の一年生予選一位通過チームのリーダーだからだ。一位通過チームのリーダーということは、すなわち一年生で一番強いということだろう? その君に勝てば、私にも大会参加の資格が十分にあるということだ!」


 どうだ! とばかりに腰に手をあてて言いきったエンフォード。しかしこの流れは、俺にとっては非常にまずい流れだ。


「ごめん、無理」


「な!?」


 エンフォードが驚いた顔をした。断られるとは微塵も考えていなかったようだ。それもしかたのない気がする。エンフォードが言っていることは、実は正論だからだ。しかしそれを俺が認めるわけにはいかない。


「なぜ駄目なんだ!?」


「それは……それはチームが俺一人のものじゃないからだ。チームメイトの了解もなしにそんなこと決められない」


 俺はもっともらしい理由を返す。と言ってもこれは俺の本心でもあった。三人で戦ってきたのだ。俺一人で決めたりはできない。


「確かに……」


 エンフォードは、顎に手をあてて思案顔だ。

 よし! このまま有耶無耶(うやむや)にしてみせる!


「では、他の二人にも会わせてくれ。会って許可をもらう」


「…………」


 正論が返ってきた。見事な正論だ。

 ……まずい! まずいぞ!

 明華と綾奈の顔を思い浮かべる。二人ともあっさり許可を出しそうだ。特に明華は、「総君なら余裕だよ!」とか根拠のない理由を持ち出してきそうで怖い。



 キーンコーンカーンコーン……



 万事休すか! と思ったその時、俺にとっては救いのチャイムが響いてきた。


「む、授業が始まるのか。山代総真、また後で話そう」


「あぁ、そうだな」


 エンフォードはそう言って、自分の机に帰っていく。ただ歩いているだけだが、その姿勢がすごくいい。

 さすが英国出身。まぁ、淑女と言うよりは紳士だけどな。

 ガラリと横開きのドアを開けて、一限目の担当教師が入ってくる。俺はこの授業終了後の逃げ方を、全力で考える事を心に決めた。


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