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陰陽記―総真ノ章―  作者: こ~すけ
第五章『転校生』
36/69

一.

 次の日、休日が明けた月曜日の朝。俺は机に座り、HRを受けていた。教卓では担任の北条先生が今日もだるそうに朝の挨拶をしている。

 俺は、昨日出会った灰色の髪を持つ先輩のことを思い出していた。夜坂由美(やさかゆみ)、それがあの先輩の名前だ。名前は綾奈が教えてくれた。綾奈と先輩は知り合いだったみたいだ。

 猫を返した後、二人に先輩の特徴を話すと、綾奈はピンッときたようだった。まぁ、なかなか灰色の髪色を持つ人がいないだろうから当たり前かもしれないが。

 夜坂先輩は、去年まで綾奈のお兄さんである月神聖斗さんと同じチームの一員だったようだ。そして聖斗さんたちが卒業した中、唯一在学しているのが夜坂先輩らしいかった。

 そんなすごい人だったなんて思わなかったな。

 机に頬杖をつきながら、ぼんやりとそんなことを考えいた。その時、いつもなら右から左へと流れていくだけの――喋る本人も流しているだけの――北条先生の言葉が俺の耳に飛び込んできた。


「えー、突然だが転校生を紹介するぞー」


 その言葉に当然ながらクラス中がざわつく。

「転校生?」、「こんな時期に?」など、その声のほとんどが疑問を含んでいた。俺も同じ意見だ。入学して一ヶ月というこんな中途半端な時期に転校してくるなんて、一体どんなやつなのだろう? そんな疑問を抱いていた。


「では、入って来てくれ」


 北条先生がそう言って廊下に向かって呼びかけた。一拍の後、教室のドアがガラリと開き、件の転校生が入ってくる。と、同時にざわついていた教室が一瞬にして静かになった。男女問わず、教室にいる全員が言葉を失ったからだ。その転校生の姿を見て。

 転校生が教卓の前まで歩いて行く間、俺の目を惹いたのは、鮮やかな金色の髪だ。確かショートボブといったはずだ。肩口にかかるくらいの髪がさわやかに揺れる。制服がスカートであることから、転校生は女の子だということが分かった。

 転校生が教卓の前で、俺たちの方を向く。

 ――が、外人? 

 日本人とは明らかに異なる欧米系の面立ち、そして青い瞳。先ほども述べた金髪が、見事なまでにその容姿とマッチしていて綺麗だった。

 けど、外人ってのには驚いたな。……陰陽師って外人もオッケーなのか?

 フッと思った俺の疑問を打ち消すように、転校生は口を開いた。


「はじめまして、私の名前はアリス・エンフォード。イギリス出身。父が日本語の先生をしていた影響で、日本は大好きだ。日本語も問題ない。みんな仲良くしてほしい」


 スラスラと、そしてハッキリとした流暢な日本語で、転校生――アリス・エンフォードが自己紹介を終えた。

 その後ろでは、北条先生が黒板になにかを書こうとした状態で固まっていた。あの書きかけから察するに、たぶん『ア』だ。

 ドラマや漫画でよくあるように、黒板に転校生の名前を書いてから紹介したかったのだろう。

 初めて担任らしいことをしかけたのに……。

 これぞ、日頃の行いというやつだろうか? これで少しはテキトーぶりを直してくれればとも思うが。

 ……まっ、無理だろうなぁ。

 早めにあきらめておくことにした。

 北条先生は名残惜しそうにチョークを置くと、アリス・エンフォードに空いている席に着くように指示を出す。昨日のうちに運び込まれていたのだろう。今まで気づかなかったが、廊下側の一番後ろの席に机とイスが一つ増えていた。

 アリス・エンフォードがその席に着くのを待ってから、北条先生が口を開く。まだHRを続けるようだ。もうメインの話は終わっただろうけど。


「えー、これからもう一つ重要な話をする。特に月神綾奈、山代総真には深く関係することだからよく聞くように」


 北条先生から名指しされ、空中に漂いそうだった意識がまたしても引き戻された。

 なんだろう? 俺と綾奈ってことは、《八卦統一演武》のことかな。


「すでに予想できたかもしれないが、《八卦統一演武》の予選についてだ」


 やっぱりそうか! 大会まであと二週間くらいだもんな。

 六月上旬から始まる予選は、参加チームが八つのブロックに分けられて、勝ち抜きのトーナメントをやるらしい。そして、各ブロックの一位通過者のみが、決勝トーナメントに進めるのだ。

 ものすごく険しい道のりだよなぁ……。

 まるで麓から富士の山頂を仰ぎ見るくらい遠い道だ。俺はいったい何合目まで登れるだろうか。

 そんなことを考える俺をよそに、北条先生は話を続けた。


「この《八卦統一演武》だが、一年生にのみ適用される特別ルールがある」


 特別ルール? なんだろう?

 疑問に思って綾奈の方を見た。しかし、これに関しては綾奈も分からないらしく、首をかしげていた。


「と言っても普通は適用されない。今回は本当に特別だな」


 そう言うと、北条先生は手元の資料に目を移す。


「えー、その内容だが……正規の文面は長いから省略する。簡潔にまとめるとだな。一年生予選を一位通過したチームの人数が、定員上限、つまり四人ではない場合、人数の補充を認めるということだ」


 北条先生の言葉を理解しようと、なんとか朝一の寝ぼけた頭を働かせた。

 えーと、つまり……俺たちのチームにあと一人なら人を入れることができるということか。

 これは朗報だ。一人増えるだけで純粋な戦力アップになる。誰を追加するかを考えないといけないけど。


「人数追加申請の期限は今週末までだ。よく考えて決めるように。当然、増やさないという選択肢もあるからな。他の生徒も自信があるやつは山代まで申し出るといいだろう。――以上だ」 


 北条先生はそれだけ言うと、HRの終了を告げた。残されたクラスメイトの視線が一斉にこっちを向くのを見て、俺はとっても嫌な予感がした。


こんにちは、こ~すけです。

第五章『転校生』一話を投稿しました!

感想、評価等受け付けています。

よろしくです。

では、また次回。

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