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陰陽記―総真ノ章―  作者: こ~すけ
第四章『灰色の猫』
33/69

三.

 翌日、集合時間に間に合うように家を出た。電車に乗り、待ち合わせ場所である篠波駅前に着いたのは、正午を目前にした時間だった。前回と同じように人で溢れている。

 俺は駅のガラスに映る自分の姿を見る。今日は休日ということもあって、着ている服はもちろん私服だ。正直、ファッションとかには疎い。

 ――前回は制服だったしな。

 一ヶ月ほど前に綾奈と買い物に行った時を思い出す。あの時は二人とも制服だった。

 ――無難なところを選んだつもりだし、問題ないだろ。

 そう思いながら自分の装いを見直す。

 ズボンは定番のチノパンツ、色はベージュだ。上半身は、これまた定番のインナーに白のカットソーを重ね着している。六月目前ということもあり、日中も暖かくなってきたので、七分袖にした。街を歩けば一人は見かけるファッションだ。

 ――無難こそが一番だな。

 そんなことを考えながら立っていると、駅の出入り口から小走りで駆けてくる人影が見えた。


「総くーん!」


 向こうも俺の姿を見つけたのだろう。手を振りながら笑顔で走ってくるは明華だった。俺もそれに手を挙げて答える。


「はぁ、やっぱり早いねぇ。総君より早く来たことってないよ」


「そうだな。でも、お前だって集合時間の十分前には必ず来るじゃないか。早い方だよ」


「えへへへ、そうかなぁ?」


「そうだよ」


 嬉しそうな明華。そういえば、明華と本格的に待ち合わせて買い物に行くのは久しぶりかもしれない。日常的に軽く買い物するくらいだ。

 今日は明華も私服だ。ブルーのスキニーデニムに白いブラウス、そして黒いカーディガンを羽織っている。こちらも一般的だが、少し大人っぽくてよく似合っている。襟なしのブラウスは胸元が広く開いており、そこから少しだけ覗く谷間に俺の視線は誘導される。――なんの谷間かは言わない。


「綾奈は?」


「まだだな」


 キョロキョロと周りを見渡しながら聞いてくる明華。それにつられて俺も同じように周りを見るが、その姿を見つけることはできない。

 ――一番早くに着いてそうだったけど意外だな。

 しっかり者の綾奈のことだ。一番早くに来て待っていそうなイメージがあっただけに少し驚く。とは言え、集合時間のまだ五分前なのだが。


「ん?」


 綾奈を探すために周りを見渡したことで、俺はあることに気づく。


「どうしたの?」


「あ、いや、なんでもない」


 返答をはぐらかしながらもう一度周りを見る。道行く人々が俺たちの方をチラリチラリと見ているのだ。その比率は圧倒的に男が多い。

 ――久しぶりで忘れてたけど、いつものやつか。

 俺は苦笑しながら明華を見る。その苦笑の意味が分かっていない明華が首をかしげている。綺麗な黒髪がさらりと揺れた。

 こちらを見る視線たちは、みんなこの明華を見ているのだ。服装は一般的でも、着ている素材は一級品なだけに雑踏の中でもひと際輝いているのだろう。


「ねぇ、総君。さっきからみんな総君を見てるよ」


 ……なんでそうなる。

 本当に不思議だ。なぜ自分が見られていると思わないんだろう。

 ――鈍感なやつ。

 俺は内心ため息をつきながら再度周りに視線を送っている幼馴染を見る。


「あ!」


「どうした?」


 なにかに気づいた明華が声を上げる。


「あれ、なにかな?」


 明華が指差す方向を見ると、なにやら人だかりができている。俺たちがいる個所から五十メートルほどデパートの方に行ったところだ。


「……なんだろうな」


 確かに気にはなる。


「行ってみようか?」


「けど、ここを集合場所にしているからな。綾奈が来るかもしれないし離れるわけにはいかないだろ」


 明華はその意見に一瞬残念そうな顔をした後に、なにか思いついたような表情に変わる。


「だったら総君はここにいてよ! 私ちょっと行ってくるから」


「お、おい!」


 明華はそう言うと、俺の了解を得る前に人だかりに向かって駆け出す。

 ――まったく。

 ハァとため息をつきながら、俺は明華の様子を見守る。明華は人だかりにたどり着くと、果敢にもその中に入ろうとする。グイッと力強く入っていくのはいいが、その大きな胸元が知らない男に当たっている。

 ……なんかムカつくな。

 俺の胸になにかモヤモヤした感情が浮かんでくる。たぶん兄妹的ななにかが原因だろう。

 そんなことを考えているうちに、明華が人だかりの中から抜けてきた。そして、すごい勢いでこっちに帰ってくる。


「そ、そ、総君!」


「どうしたんだ? そんなに慌てて」


「い、いいからこっち来て!」


 かなり慌てているようで、理由も言わずに俺の袖を引っ張る。

 ――なんなんだよ、まったく。

 俺はそんな明華の様子に訝しみながら一緒に人だかりの方へ行く。


「明華、いったいどうしたんだよ?」


「いいから!」


「いいからじゃないって! 集合場所離れたら、もし綾奈が来た時困るだろ?」


 明華の返事に少しムッとしながら言う。


「その心配はないよ」


「どういうことだ?」


 俺の問いに明華は答えずに、代わりに人だかりの中心部を指差す。たぶん見に行けということなんだろう。幸い、明華が一度通ったために少し隙間があった。


「私じゃ跳ね返されちゃったから……総君が行ってきて」


 その言葉を聞いて、俺は初めて嫌な予感がした。とっさに腕時計を見る。もう待ち合わせ時間は五分ほど過ぎていた。

 ……まさか、な。

 ある想像を描きながら俺は人だかりの中に入っていく。最初は簡単に入れたが、中に行くほど円が小さくなってきていてなかなか進みづらい。確かに女である明華では進むのは困難かもしれない。

 中心まであと少しというところまで来た時、人だかりの間からその中心が見えた。


「あ……」


 その光景を見た瞬間、俺は思わず天を仰いだ。あまりにも俺の予想通りの光景だったからだ。


「綾奈!」


 俺は思わず叫んでいた。人だかりを作っていた人たちが一斉に俺の方を見る。しかし、そんなのは関係なかった。

 綾奈は座り込んでいた。人だかりの中心で。

 今日もいつもと変わらない愛らしいポニーテール。しかしその服装はいつもと違って私服だ。ワンピースだろうか。薄い水色のスカート、トップスはレースをあしらった白いブラウスがよく映える。

 だけど、それを褒めている暇はなかった。


「綾奈、大丈夫か!?」 


 俺の呼びかけに反応し、綾奈が顔を上げる。その瞳は不安で揺れていた。


「……総真、さん」


「なんでこんなことに……」


 俺は呟く。


「うぅ……私、二時間前に来たんですよ? ……でも、待っている間に不安になって……デパートまでの道を往復していたらいつの間にか皆さんが集まってきて……私、そういうの苦手だから、どこにも行けなくなってしまって……」


「そ、そうか……」


 ……なんだかすごく予想通りというか。

 やっぱり綾奈は俺たちより早く来ていたのだ。ただ、それが早すぎたのが問題だったのだが。


「ハァ……」


「ご、ごめんなさい……」


 俺のため息に反応し、綾奈が慌てて謝る。


「まぁ、綾奈は悪くないって。ほら、立てよ」


 俺が綾奈に手を差し出す。その手を綾奈がすがりつくように握ってくる。綾奈がしっかりと俺の手を握ったのを確認して、グイッと引っ張って立ち上がらせる。


「きゃっ!」


 しかしその力が強すぎたのか、綾奈がバランスを崩し俺の方に倒れてきた。


「おっと!」


 その体を支える。七分袖から覗く白い腕を偶然にも掴むことになった。透けるようなその腕の白さに惹きつけられる。


「総真さん……」


 綾奈のその声にハッとなる。視線を上げた瞬間に、周りを取り巻く人たちのそれとぶつかった。

 俺たちは人だかりの中心にいるのだ。それを知覚した瞬間、俺の体温が上昇する。

 ……こ、これはかなりハズい。

 綾奈はすでに顔を真っ赤になっていて、そのまま倒れてしまいそうだ。

 ――と、とにかくこの場を脱出しないと!


「綾奈、行こう!」


「は、はい!」


 俺は綾奈の手を引っ張ると、四方から感じる視線を振り切るように人だかりから出る。


「総君、こっち!」


 俺の名前を呼ぶ声に振り向いて、明華の姿を確認する。


「綾奈、大丈夫?」


「明華さん……」


 合流するなり明華が心配そうに聞いてくる。


「顔が真っ赤だよ!」


「い、いえ……これは……」


 ――間違って俺にもたれかかったせいとは言えないよなぁ。


「とにかくデパートまで移動しよう? ここじゃ目立つよ」


「確かにそうだな」


 そう言いながら周りを見ると、さっきの騒ぎの余波か、かなりの人が俺たちの方を見ている。二人の容姿がそれに拍車をかけているようだ。


「さっ、行こう!」


 明華を先頭に俺たちは歩き出す。多くの視線を背中に受けながら。

 ……つ、疲れた。

 まだ目的のデパートに着いてもいないのに、ドッと疲れた体を引きずりながら、俺たちはデパートへ向かって歩き出した。


こんにちは、こ~すけです!

第四章三話を投稿しました。


またしても話が進まなくなってまいりました。(苦笑)

でも、総真たちに会話させるのが楽しくて……

ホントすいません。

あまり調子に乗らないようにはいたします!


感想、評価等よろしくお願いします!

では、また次回。

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