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陰陽記―総真ノ章―  作者: こ~すけ
第四章『灰色の猫』
31/69

一.

 「――乾杯!!」

 

 カチンッとグラス同士が触れ合う甲高い音が室内に響く。

 毎度お馴染みの俺の部屋、そのリビングでいつものように俺を含めた三人が座っている。座り方もいつもの通りで、テーブルを挟んだ正面に明華と綾奈が並んで座る。

 ただ一ついつもと違うのは、テーブルの上にコーヒーカップの姿はなく、代わりにワイングラスが置いてあることだ。

 そのワイングラスに三分の一ほど(そそ)がれているのは、濃い赤紫色の液体だ。俺はその液体を一口飲んでグラスを置く。そして一言、


「これ意味あるのか?」


「へ?」


 俺の言葉に上機嫌でグラスの中身を飲み干した明華が不思議そうな顔をする。


「だから……ぶどうジュースをわざわざワイングラス買って来てまで飲む意味あるのか?」


 すると明華は肩をすくめると、呆れたように言う。


「総君……こういうのは雰囲気が大事なんだよ。せっかくのお祝いなのに分かってないなぁ」


 そして空いた自分のグラスにペットボトルからぶどうジュースを注ぐ。


「……雰囲気のことを言うなら、お前のその注ぎかたの方が問題あるわ!」


「なにが?」


「なんでグラス一杯まで注ぐんだよ! 普通は三分の一くらいまでだろうが!」


 グラスになみなみと注がれたぶどうジュースは、少しでもグラスを傾けるとこぼれてしまいそうだ。


「ハァ……総君、ますます分かってないね」


「……なにがだよ?」


 ため息をつき、またしても肩をすくめる明華。そんな明華に、俺は少し声を低くして尋ねる。


「こういう席は、基本無礼講でしょ!」


 ――このやろう……

 ドヤ顔で決める明華に、俺は思わず手元のワイングラスを握り潰しそうになった。

 ――だいたい、一杯目からワインが出てくる店で無礼講はありえないだろ! ……たぶんだけど。

 未成年の俺は、もちろん宴会とは無縁だが、これだけは間違いないと思う。


「ま、まぁまぁ、二人とも落ち着いてください。せっかくの祝勝会なんですから」


 俺と明華のやり取りを、横で見ていた綾奈が堪りかねて間に入ってきた。


「……そうだな」


「確かにそうだね」


 綾奈の言葉を聞いて、俺と明華は同時に矛を収める。


「つい熱くなった。ごめんな、明華」


「うん。私こそごめん」


 そして、共に謝罪の言葉を口にする。


「では、お二人の仲直りもできましたし、もう一度乾杯しませんか?」


 そんな俺たちに、綾奈が微笑みながら言う。


「いいね! 綾奈、それ名案!」


「よし、もう一回仕切り直しだ」


 俺と明華もその提案に同意し、グラスを持ち上げる。


「乾杯の音頭を、総真さんよろしくお願いします」


 自分のグラスを持ち上げながら、綾奈が俺に言う。


「俺かよ!?」


予想外の綾奈からの振りに驚いて、少し声が大きくなる。


「えぇ、だって総真さんはリーダーですから」


 そう言って綾奈がもう一度微笑む。


「……綾奈、なんか強気になったな」


「そうですか?」


 口元を軽く握った左手で押さえながら、クスクスと笑う綾奈を見て、俺は苦笑する。

 そんな俺に、綾奈が続けて言う。


「私が強くなれたのは、この一ヶ月総真さんと一緒にいたからですよ」


「――そ、そうか?」


 今日一番の笑顔と共に放たれたその言葉に、俺の胸が大きく高鳴る。小首をかしげるその仕種。そしてそれと同時に揺れるポニーテール。どれを取っても愛らしい。


「……総君、早くしてよぉ」


 そんな綾奈に少し見惚れていると、隣に座る明華がムッとした顔で俺に先を促す。さっきまで綾奈の意見を名案だと騒いでいたのに、態度が急変している。待たせすぎたせいだろう。


「分かった。では、改めて――」


 俺はそこで一呼吸置いてから言葉を続ける。


「《八卦統一演武》、予選の予選一位通過を祝して! 乾杯!」


「かんぱーい!」


「乾杯です!」


 三つのグラスが触れ合うカチンという小気味のいい音が、再び室内に響いた。

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