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陰陽記―総真ノ章―  作者: こ~すけ
第三章『覚醒』
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四.

 冷たい水が、俺の灼熱と化した喉を通過していく。その一瞬だけは、熱が収まり生き返った気分になるが、すぐに喉は熱を帯び出し、その反動で俺は咳き込む。


「ごほっ、ごほっ、ごほっ……」


「だ、だ、大丈夫ですか!? 総真さん!」


「大丈夫……だ……」


 ――三十分前、(くだん)の『あかいざぁくラーメン』と相対した俺は、その辛さにものの見事に完敗した。それから今まで、自販機の脇にあるベンチに腰掛け――半ば崩れ落ちながら――ひたすら水を飲んでいる。

 しかし効果はまったく上がらず、まさに『焼け石に水』だ。


「……本当ですか?」


「……う、ん」


 綾奈が心配そうに声を掛けてきてくれる。当の本人は、俺の頼んだ『あかいざぁくラーメン』よりランクが上の『さざびぃラーメン』を事も無げに食べきっていた。

 ……いったいどういう味覚をしているんだろうか。常人には理解できない。

 その綾奈への返事も、喉の一時的な機能障害のため、満足にできないのが現状だった。


「……すいません。私が調子に乗ってあのお店に案内しなければ……」


 俺の状態を気にした綾奈が落ち込んだ声を出す。

 それも当然だろう。

 友達を自分のおすすめの店に誘ったのは、たぶん初めてのはずだ。自信を持って連れて行ったお店が不評だったら、誰だってショックだと思う。

 隣で寂しそうにうつむく綾奈の横顔を見る。


「…………」


 ――まったく、俺はなにをやっているだよ。こういう時こそ、フォローするのが友達ってやつだろ。

 俺は、手に持ったペットボトルを握りしめる。

 綾奈が見せてくれた新たな一面を、無下にしてしまいそうになっている自分に少し腹が立った。

 ――よし!

 気合を一つ入れて、ペットボトルのキャップを捻る。ペキッと手の中で音がして、キャップが開く。そして、俺は開いたペットボトルの中身――商品名『篠波の天然水』――を一気に飲み干す。


「ぶはぁ!!」


「そ、総真さん?」


 突然水を一気飲みし出した俺の行動に、綾奈は目を丸くしている。


「綾奈!」


「は、はい!」


「『レッドスター』また行こうな! 今度は完食してみせるから!」


「え?」


「だから、また行こうな」


「……また、行ってくれるんですか? 一緒に」


「あぁ、俺も男だ。負けたままじゃ悔しい。……駄目か?」


「いえ……」


 そこで綾奈は一瞬戸惑ったような顔を見せたが、それはすぐに消え、いつもの微笑みを浮かべてくれる。


「はい! また、一緒に行きましょうね」


「あぁ、そうしよう」


 俺は手短にそう言って、口を閉じる。一気飲みしたおかげで、少しは冷却効果が続いていた喉の熱がまた戻ってきた。

 ……まぁ、あとは気合でなんとかするか。

 いつまでもここに座っておくわけにもいかないので、俺は決心して立ち上がる。


「さっ、次行こうぜ!」


 綾奈に悟られないように、少し大きな声を出す。


「もう大丈夫なんですか?」


「おぅ!」


 まだ少し心配そうな顔をする綾奈に、俺は笑顔を返す。


「そうですか……よかった」


 それでやっと信じてくれたようだ。


「さて、どこ行く?」


「うーん……ごめんなさい。どこに行きたいっていうのは特にないです」


「そっか、ならテキトーにぶらついてみようか」


「そうですね」


 行先は決めず、デパートの中をとにかく歩いてみることにした。

 俺が歩きはじめると、綾奈も遠慮がちに隣に並ぶ。

 ――こうして歩いていると、他人からは付き合っているように見えるかな。

 そんなあり得ない想像を巡らしながら、俺は綾奈と並んだままデパートの人混みの中へと歩いて行く。


「あっ、総真さん! 因みにあのお店、幻のメニュー『ひゃぁくしきラーメン』というのがあるらしいですよ。スープが金色なんだとか」


「……それは最早ラーメンじゃないな」


 そんなどうでもいい雑談を話しながら。


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