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陰陽記―総真ノ章―  作者: こ~すけ
プロローグ
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プロローグ

こんにちは、こ~すけです!

このたびは「陰陽記ー総真ノ章ー」に目通しいただきありがとうございます!

長編作品となっていますので、お気に入り登録して御覧いただければと思います。

また、感想、評価、レビューは随時受け付けていますので、ドンドン書いてください!

私の励みにもなりますので。

あと、イラストを描いていただける方を募集しています!

この話を読んでみて描いてもいいよという方は、こ~すけまでメッセージをお願いします!

さて、長々と前書きを書いてしまいましたが、それでは「陰陽記ー総真ノ章ー」をお楽しみください!

――東京都、とある場所、とある公園。

 キィキィと鎖同士が軋んだ音をたてながら古びたブランコが揺れる。

 ひとりでに揺れているのであるならば、随分と不気味な話なのだが、そうではない。

 本来の役割通り、自身を操るものの意志を反映し揺れているのだ。

 ブランコに乗っているのは身の丈からして小学校の低学年くらいの児童だ。着ている服は学校の制服なのだろう。

 長袖の白いカッターシャツに濃紺のスカート、そして背中に背負う赤いランドセル。これらの点からブランコの乗り手は女の子だと分かる。

 髪型はおかっぱで、それがよく似合っている。

 この少女がただブランコに乗っているだけならば、随分と日常的な話なのだが、そうではなかった。

 時刻は深夜二時、周囲は闇に染まり、この公園を照らす光は、まるでついでのように取り付けられた公園の電灯だ。その電灯でさえ、配線の接触不良からか、チカチカと弱々しくまたたいている。

 こんな時刻、そんな場所で少女が一人ブランコに乗る姿はあまりにも異質で不気味だった。しかもその少女の顔は無表情で、目前の暗闇を見つめたまま黙々とブランコを漕ぎ続ける。

 その時、少女の後方の茂みがガサッと音をたてた。

 その途端、その音に敏感に反応した少女は、瞬時に音がした方を振り返る。

 一瞬前まで無表情だった顔は大きく変化しており、目は大きく見開かれ、音がした方向を食い入るように凝視している。だが、この時も少女の首から下は今までと変わりなくブランコを漕ぎ続けていた。振り返ったのは首から上だけだったのだ。

 ほぼ真後ろに向いた少女の頭は、人間の限界をとうに超えており、回された首は捩じ切れんばかりだ。

 しばらくその異様な姿のまま、茂みを見つめていた少女――いや、すでに少女と呼ぶには明らかに語弊がある存在――は、先ほどの音を風の仕業と判断したようで、振り返った時とは正反対にゆっくりと首を前方に向けていく。

 そして、何事もなかったようにまた無表情に戻り、ブランコを漕ぎ続ける。

 しかし、その少女が凝視していた茂みには、ただ吹き抜けるだけの風ではなく、明確な意思を持つものが潜んでいた。



   ◇

 

 

「こちら岩崎、配置に着いた」

 

 耳に付けた小型の通信機に声を吹き込みながら、岩崎は自身の潜んでいる茂みから『対象』を覗き見る。

 先ほど茂みを鳴らして、こちらを振り向かれた時は肝を冷やした。

 隊長である自分のミスで気づかれたとなれば部下である三人に顰蹙(ひんしゅく)を買うだろう。


「こちら田代、配置に着きました」


「こちら前原、配置完了です」


「こちら遠坂、配置完了。待機します」


 男性隊員である田代と前原はもちろんのこと、岩崎隊唯一の女性である遠坂も場数を踏んでおり、さすがに三人とも落ち着いている。

 今は対象を中心とした四方の茂みに同じように潜んでいるはずだ。


「了解。平山隊、そっちの準備は?」


「とっくに完了してる。いつでもいけるぞ、岩崎」


「了解だ。そのまま合図まで待機してくれ」


 そう言って岩崎は一端通信を切ると、再度対象を盗み見る。

 対象、すなわち今もブランコを漕ぎ続ける少女。いや、あれは少女の姿を借りたバケモノだ。

 一般人ならあれがバケモノと分かった時点で、恐れおののき逃げ出してしまうだろう。

 しかし岩崎たちはそのバケモノを退治するのが仕事だった。

 ――『陰陽師(おんみょうじ)』、それが岩崎たちの職業名だ。

 古来より存在し、魔を祓う闇の守護者たち、それが陰陽師。

 現代では、その存在は世間に広く知れ渡り、職業として認知されるまでになっていた。

 岩崎たちも陰陽師を職業として選んだものの一人だ。


「岩崎隊、各員へ。手筈通り、合図と共に対象を攻撃、殲滅する。対象は今日までに五人の人間の臓物を貪り食った畜生だ。遠慮はいらん」


 岩崎はそう言うと、白い着物の胸元から一枚の札を取り出す。

 着物を着ているのは、それが隊服だからだ。正直、とても戦闘に適した服装とは言い難いが、古来より受け継がれた伝統的な陰陽師の服装とされているのだからしかたない。


「各員へ、秒読みを開始する。――五……四……三……二……一!」


 最後の一秒を言い切ると同時に、岩崎は潜んでいた茂みから身を躍らす。そして、手に持った札をバケモノに向けて叫ぶ。


「『瞬炎(しゅんえん)』!」


 その言葉に反応し、手に持った札が光る。次いで、札より細い炎の筋が放たれた。

 岩崎が放ったものを含めた四つの炎の筋は、夜の闇を素早く走り、バケモノの下で交錯し爆ぜ、静寂な空気を震わせる。


「やったか?」


 岩崎がそう言ったのも束の間、爆発により照らされた光の中から、身を翻し、俊敏に逃げようとする影を確認する。


「ちっ! 各員、対象は公園の東側の出入り口に向かって逃走した。このまま追い詰めるぞ。田代、前原、俺に続け! 遠坂はそのまま姿を隠しておけ! 対象に隙ができたら狙って構わん」


 岩崎は茂みから完全に姿を現すと、逃げるバケモノを追いかけながら隊員に指示を送る。

 その指示に各隊員がそれぞれ返事をするのが通信機より聞こえた。

 田代と前原の二人は、岩崎に続いて茂みから姿を現し、同じようにバケモノを追跡する。

 遠坂も指示通りに身を隠したまま移動していることだろう。

 逃げたバケモノは、すでに少女の姿をかなぐり捨てて、髪を振り乱しながら公園の出口に向かっていた。

 先ほどの爆発によるものなのだろう、バケモノの右腕は肩口から無残に吹き飛び、なくなっている。

 必死に逃げるバケモノが、公園の出入り口から出ようとしたその時だった。

 バシッという鋭い音と共にバケモノの体が吹っ飛ばされ、無様に地面へ打ちつけられた。


「ガァッ……!」


 潰れた悲鳴を上げたバケモノの前に、淡く光る透明の壁が出現していた。

 その正体は、公園の外周四隅に展開した平山隊により、岩崎隊の攻撃と共に形成された『四式結界(よんしきけっかい)』だ。


「そこまでだ、バケモノ」


 追いついた岩崎が、腰に差した刀を抜きながら言う。後ろに控える田代と前原もそれに倣って抜刀する。


「オ、オォ、オンミョォジィ!!」


 血走った(まなこ)で岩崎たちを睨みつけるバケモノ。その姿は怒りから変身が解け、その正体を現していた。

 それは『鬼』だった。

 昔話の種類分けからすると、これは『赤鬼』だろう。しかし陰陽師は、そんなややこしい分け方はしていない。

 一部の強力な『名前持ち』と呼ばれる鬼以外は、すべて鬼という呼び方だ。

 目の前の鬼は、額に二本の角を持ち、爪や牙は鋭く尖っている。体躯はとても少女に化けていたとは思えないほど筋肉隆々で、身長は二メートルに届くかというほどある。

 鬼としては、実に標準的な体躯だ。

 『符術』と『結界』によるオーソドックスな作戦にテンパっている辺り、まだ若い鬼なのかもしれない。――とはいえ、人間の年齢にすればいい齢だろう。


「終わりだ、ロリコン野郎」


「グオオオォォ!!」


 『ロリコン』という言葉に怒ったわけではないだろうが、鬼が怒声を上げて突っ込んでくる。

 岩崎も手に持った刀を握り直し、正面から果敢に向かう。

 鬼は残った左腕を振り上げ、鋭く尖った爪を岩崎に振り下ろす。が、その動作の途中で腕が横から飛来したなにかによって貫かれ、その物質の勢いによって弾かれる。

 それは、岩崎の指示で待機していた遠坂によって放たれた『破魔矢』だった。


「ナイス、遠坂」


 岩崎は、自身の部下の狙撃を褒めながら、躊躇なく鬼の懐に飛び込むと、手に持つ(やいば)を一閃させた。


「ガッ……カッ……!!」


 断末魔の悲鳴でも上げているのだろう。しかし、岩崎によって喉笛を掻き切られた鬼は、その喉から空気を吐き出すだけだ。

 やがてそれも尽き、鬼は崩れ落ちた。

 闇より生み出されし妖魔の命は、陰陽師によって散華し、また闇へと還る。

 岩崎は、動くことのない鬼を一瞥した後、夜空に目を向ける。頭上には三日月が輝いていた。


「対象の活動停止を確認。作戦終了だ」


 三日月を見上げたまま、岩崎は作戦の終了を通達する。


(さて、今日はうまい酒が飲めそうだ)


 そして、一般的なサラリーマンと同じく、仕事終わりの一杯に思いを馳せながら、職場への帰路に着いた。


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