◆ ◆ ◆5.
◆ ◆ ◆ ???
聞こえていた足音がぴたりと止まり、傍らに強靭だが清冽な神気を感じた。
重い瞼をゆるゆると開けると、青い髪の青年が片膝をついて、こちらの様子を窺っていた―。
◆ ◆ ◆5.
「…なんで号をかけた雫葉がいないのよ?」
ため息混じりにそう呟く薫は、既に半目になりかけている。
雫葉。水神四精最強にして、実は誰よりも、
「―正義感の強い質だからな、あれは」
薫同様、うんざりした面持ちの雲我が嘆息する。
先の雲我との特訓で破れてしまった薫の衣を繕っていた雪風が手を止め、顔を上げた。
「…土産つきか」四人の近くに突如として起こった青い竜巻きに、見知らぬ気配を感じ取った霧月が軽く目を見張る。
竜巻きが掻き消えた時、そこには長身の青空よりも深い色の髪を持つ青年が、佇立していた。
右腕一本で、何かを支えるように抱いている。
「…雫葉、それは―…妖の類か?」
青い髪の青年、雫葉の腕に抱えられている布の下から、一房銀の髪がこぼれている。
気配はとても脆弱だが徒人ではない、そう思った雲我が問うたが、雫葉はそれに答えず、薫の方に歩み寄った。
「…?」薫が怪訝そうに雫葉を見つめるのと、雫葉が口を開いたのはほぼ同時。
「――回復の呪文を唱えろ」
回復の呪文、それは止血や怪我の治療に使う難易度の高い呪文だ。
それが人にものを頼む時の物言いか、と顔に書いてあるが、あえて反論せず、薫はそっと布を捲った。
布に包まれていたのは、二十歳前後の若い女性だ。後頭部で括った長い銀の髪には、真紅の蝶の飾りがついている。
秀麗な面差しは血の気が失せ、青ざめていた。
左肩の骨の所が割れ、乾いた血がこびりついている。かなりの重傷のようだ。
それだけにとどまらず、体中のあちこちに火傷が見られる。
「…何これ、ひとすぎじゃない」
息を呑む薫を睥睨し、雫葉は怒気のにじむ声音で繰り返す。
「――回復の呪文を唱えろ」
分かってるわよ、と雫葉を肩ごしに振り向き、薫は女の肩口に両手をかざし、目を閉じた。
「華表柱念…」薫の手のひらから女の傷口へ、目に見えぬ霊力の波動が注ぎこまれる。
完全に回復させることはできないが、ある程度は良くなったはずだ。
体中に見られた火傷は小さいものは全て消えていた。
雪風が気を効かせ、用意してくれた茵に女を横たえると、雫葉は全員に向き直った。
「…邪悪な妖気が満ちていた所に倒れ伏していた」
おそらくこの女のことを指しているのだろう。
「それは、どのあたりだ?」
前髪を掻き分けながら、霧月が問うた。
閉じられた女の瞼につい―っと視線を下とし、雫葉はおもむろに口を開いた。