◆ ◆ ◆4.
◆ ◆ ◆ ???
がさり、と草を掻き分けて何かが近付いてくる。
何か徒人ではない力の波動が伝わってくる。しかし、その中におぞましさは含まれていないようだ。
どんどん足音は近付いてくる。不思議なことに恐怖は少しも感じない。
まるで近付いてくる者が誰なのか分かっているかのように、安心しきっていた。
◆ ◆ ◆4.
佇んでいた女性がつかつかとこちらに歩み寄ってくる。心なしか怒りが垣間見える気もする。
無意識にじりじりと後退していた薫は、足元にいた鴉に躓き、均衡を崩し、たたらを踏んだ。今、雲我は普通と同じくらいの大きさの鴉に変化している。
歩みを進めている女性、極力神気を抑制しているようだが、こぼれ出る僅かな神気は雲我のそれだ。
人一人分くらいの間合いをあけ、薫の前に立つと、歩を止め、まっすぐに薫を見据え、口を開いた。
「さぁ、説明してもらおうか。あの程度であんなに手こずるとは、何かそれなりの訳があるのだろう?」
う゛っとうめくと薫はうつむき、視線を彷徨わせた。
「…今日は特訓と称し、早朝から俺相手に真言を数十回以上唱えていた。そ、そうだな、だから霊力が弱まっていた。手こずってしまった訳はそれだ」
代わりに口を開いた雲我だったが、完全に気迫負けしている。
軽く小さな鴉を睥睨し、女性は目元に険をにじませ、嘆息した。
「ものの限度を知らぬのか―はて誰の口癖だったか」
薫と同様、う゛っとうめくと雲我は神気を完全に抑制し、姿を隠してしまった。
一人取り残された薫は、そろそろと顔を上げた。目の前に佇立する女性、その髪は初夏の新緑を映す緑。さざ波一つない静かな相眸には、金の輝きがある。身に纏う神気は雲我と同じものだが、幾分苛烈さを含んでいる。
そんなことをつらつらと考えていたが、背後に新たな神気が顕現した気配を感じ取り、振り返った薫は午後の陽を弾く黄金の輝きを目にした。
「―雪風。どうしたの?」
少しくせのある金髪を耳の下で二つに括った優しげな風貌の女性。彼女もまた、水神四精の一人、雪風である。
雪風は一礼し、口を開いた。
「―薫様、霧月、雲我。全員招集の号がかかっておりますので、お呼びに上がりました」
感情を映さない金色の瞳を胡乱げに細めた霧月が、無言で身を翻した。
そろそろと顕現した小さな漆黒の鴉は瞬き一つで巨大化し、その背に薫を乗せると、大きくはばたいた。