第二章 暗中模索
厨2臭いのはデフォルトです
ドア越しに聞こえる嗚咽ごと塞ぐように、クレイグは静かにドアを閉めた。
ハンスの奪還に失敗した旨、ハンスの体を使うアヴィスという魔族。
全てをありのまま、ケイに伝えた後、クレイグは泣き崩れてしまったケイを抱きしめてやることも出来ず、一人、部屋を出てきた。
シャルロットは仕方ないだろう、といった表情で首を振り、俯いたままのロベルトの腕を乱暴に組み、クレイグをそのままに歩き出した。
どんな想いでケイがハンスの捜索という依頼を出したのだろうか、その心中の全ては推し量らずとも知れた。ハンスは元々気が弱く、友達が少ない。
叔母であるケイもそのことをいつも気にかけていたし、失踪する以前にも、ハンスのことはよく耳にしていた。背後から聞こえるケイの泣き声は、クレイグの全身を貫くように頭に響き渡る。
冷たいメイデンの感触に少し目を見開き、クレイグは二人の後を追うようにゆっくりと歩き出した。
この銃を渡されたあの時に似た、罪悪感を抱きながら。
「こうなっては、ハンスを捜すよりあるまい。我輩の力を使えばまた追えるはずだ」
クレイグの自宅であるアパートに戻ってきた三人は、玄関先で顔を見合わせながら立ち止まって話をしていた。シャルロットはアパートのドアにもたれ掛かりながらそう告げ、クレイグはそのシャルロットの言葉に嫌な表情をした。今日は既に力を使って、体はボロボロ。
本来使いたくない力をケイとハンスの為ならばと使ってきていたが、依然として力そのものの嫌悪感は拭えなかった。そんなクレイグの気持ちを悟ってか、ロベルトがシャルロットに口を挟んだ。
「でもさ、今日はもうやめておかないか?お互いに気持ちの整理とかしたいだろうし…クレイグも疲れてるって。なあ、俺今日泊まっていってもいいか?」
「構いませんよ」
「おい、ロベルトお前…」
「シャルロットも、疲れただろ、あんな叫んでたんだし痛かっただろ。もう休めよ。終わり、何ももうしないって言ってるんじゃないんだから」
不機嫌に頬を膨らませたシャルロットの背中を押し、ドアを開いたロベルトはそのままクレイグのアパートに入っていった。まだ立ち尽くしていたクレイグに振り返り、ロベルトは薄く笑んだ。
「おいおい、家主が居ないのはおかしいだろ、早く入れよクレイグ」
「え…、ええ。今行きます」
彼なりに、気を回してくれているのだ。漸く気づいてクレイグも弱弱しく微笑み返した。
ハンスの体を乗っ取ったアヴィスという謎の魔族。その存在はシャルロットにもわからないという。クレイグは明日、どうしても会わなければならないと確信している人物を頭に思い描いた。
そのアヴィスを召喚したであろう男、ブルーメの存在を。
「聞いた?お姉さま」
少女が一人、肉感的な美女の体をなまめかしく撫でながら耳元で尋ねる。美女の方は別段、彼女の行動を咎めるわけでも受け入れるわけでもなく、顔を上げて尋ね返した。
「何を?」
「お兄様が人間界にようやく降り立ったって…ベルゼブブが言ってたの私、お兄様にお会いできなくて寂しい」
「あら、私がいるじゃない」
「うふふ、それもそうなのだけれど」
少女は嬉しそうに美女の髪に顔を埋めて甘えるそぶりをしていたが、やがて急に態度を変えて一言呟いた。
「でも…そんなお兄様の寵愛を受けてるあの女、気に入らないわ」
「だぁれ?」
「シャルロット…あいつ、人間界にいるんですって」
くるん、とウエーブがかかったロングの髪を弄びながら、美女はその端正な顔に相応しく、美しく微笑んだ。
「ふふ、本当にあなたは嫉妬深いわね、レヴィアタン」