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五話


 街に到着した三人は、まずは街の住人に聞き込みを開始するべく、ケイから預かった甥のハンスの写真を見せて回った。元々友達も少ない子だった為、大人に聞いてもいまひとつの感触が得られなかったが、小さな公園に差し掛かり、遊んでいた少年に見せるとようやく有力な情報が得られた。


「ハンスの事?最近、行方不明なんだろ?」

「でもさ、誰も心配してないよ、あいつ友達いないんだ」

「…御託はいい、この少年について知っていることを述べたまえ」


数人の少年に食って掛かるシャルロットを押しのけ、クレイグは柔らかく言い直した。


「ハンスくん、いつ頃から来なくなったとか…最後に見たのはいつだったとか教えてくれないかな?」

「オジサン警察?」

「私は教会所属する神父、諸事情があってこの少年の行方を追っているんだ」

「まあ、ハンスの事だからどうでもいいけど、俺たち最後にハンスを見たのはスクールバスでだぜ」

「スクールバス…」


クレイグは胸ポケットから小さなノートを取り出し、少年達の証言をメモ始めた。

一方協力したのにも関わらず足蹴にされたシャルロットは不服そうにクレイグの背中を見つめながら、ヴァンパイアが放つ瘴気の臭い嗅ぎ別けていた。

だがシャルロットの鼻を持ってしてもそれは感知できず、おおよそ、この街にはヴァンパイアは潜んでいないだろうと伺えるほど。

今回の誘拐も本当にヴァンパイアが関連しているのかまだ知れておらず、シャルロットはその辺りにきな臭さを感じていた。


「そうか…それで、彼はいつもどこに行くかとか…君達は知っているかな?」


少年達は顔を見合わせる。さすがに友達でもなさそうだし、知っていないのかと思えば、一人の少年が人差し指を地面に向けてクレイグを見つめた。


「ここ」

「えっ?」

「あいつ、この公園で一人で遊んでたんだ」


クレイグはシャルロットに振り返る。シャルロットは面倒そうに首を振り、二人は一つの確信を得た。

ハンス少年はここで誘拐されたのだと。













 時間も分からない部屋で一人、どうにか唯一の出口であるドアから脱出しようと試みたハンスだったが、どうにもドアは開かない。何かで押さえつけているのだろう、少年どころか大人の男でさえ苦戦するようなドアの硬さに、ハンスは脱力して不気味な部屋を見渡す。

異臭もするし、何だか肌寒い。男はどうして自分を誘拐したのか、その目的は何一つ浮かばないし、先ほど泣いた為か空腹がハンスの腹を刺激する。


ふと、もたれかかっていたドアから足音が聞こえる。拘束こそされていなかったが、何だかここにいるのはまずい気がして、ハンスは急いで立ち上がって元居た場所まで走っていった。やがて足音は大きくなり、ドアの支えを取る音と共に、ドアが開いた。

ハンスは息を飲み、出来るだけ離れるように後ずさりをした。


「目が覚めたかい?」


改めて、公園で見た男を目にしたハンスはその男の異常にまず気がついた。目の焦点がどことなく合っていない。まるでこの世界を見つめてないような濁った大きな目、全体的にやせ細った体。まるで骸骨だ、ハンスはそう思って体の震えが止まらない。


男は静かにハンスに歩み寄ると、震えるハンスの頭を撫で、その上からなにやら生臭い液体を体にかかるように満遍なく振り掛ける。動物の腐ったような臭いがして、ハンスは思わず吐き気に襲われて体を屈めた。


「大丈夫、大丈夫…魔族の友達を作ってあげよう、一人で寂しかっただろう?それも…とっておきの魔族だ…」

「オジサンはどうしてこんな事をするの…?家に帰りたい…友達なんていらないから…家に帰して」

「ダメだよ、オジサンだけじゃあ友達は喚べないんだ、いい子だからここに居るんだ」

「…帰りたい、帰りたいよ」

「…この世界を憎んだことはないかい?」

「えっ?」


男は少年が怖がらないように優しい声音で繰り返す。


「この世界でなければ、自分は輝かしい未来があると…思ったことはないかい?」

「それは…」

「オジサンが叶えてあげよう…そして君の友達を作ってあげる、最高の友達だ、名前は…」


ドロッとハンスの顔に、男が撒いた液体が雪崩れ込み、男はそれをほんの少し拭ってやりながら恍惚としてその名前を囁いた。


「吸血王…シャルロット…」




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