三話
最初にご注意を…シャルロットは変態です。最初にこの作品を思い浮かべたときに、主人公はえげつない好青年と、変態の女の子にしようと思って考えたお話ですので、ロベルトはそんな二人にいいように使われる為に生まれました…。
教会は、静かに祈りを捧げる信者と少し退屈そうにしている子供たちの小さな声だけが埋めていた。ケイの後に続き、クレイグ、ロベルト、シャルロットの順で歩いてゆき、聖堂の両脇に供えられている扉から通路を少し行けば、修道士の宿舎があった。
一番奥の部屋であるケイの部屋までもう少し歩いてゆき、彼女は三人を招きいれて手を洗いに洗面所へと向かった。女性の部屋であることを忘れてしまいそうなほど、彼女の部屋はシスターらしからぬ銃器で埋め尽くされている。一見、違和感はあるが、彼女はクレイグの使う銃を整備する腕の立つ整備士を兼ねていた。ギルドに教会の仕事、整備士と彼女は実に多忙である。
ぶら下がった散弾銃などを忌々しげに見上げたシャルロットは、無表情を貫くクレイグを見遣る。
先ほどから少し様子がおかしかったのは気がかりだったが、彼は時々癇癪を起こすことがあったので、今回もまた、それに似た苛立ちか何かなのだろうと、あまり気に留めないことにした。
暫くするとティーセットを抱えたケイが、笑顔で戻ってくる。
「お待たせしました。では、お話を。」
細く、つい目がゆくスリットから伸びた足を組みケイは紅茶をカップにそれぞれ注いだ。
「実は…今回の依頼は私から受けてもらうのですが構いませんか?」
「ええ、そうではないかと踏んでいました。何かあったのですか?」
「それが…甥の事で困ったことがありまして…」
彼女には妹がいて、シスターである彼女が独身を貫く一方、妹は早くに結婚し、子を生していた。
その妹の子供のことで話があると切り出したケイは、待てない様子のシャルロットに紅茶を渡してやり、残りをそれぞれ分配して最後に自分の紅茶を淹れた。
「甥は今、9歳になるのですが…行方が知れないのです」
「えっ、行方不明…?!警察には連絡したんですか?」
「勿論、してはありますが…この件はもしかしたらヴァンパイアが絡んでいるかもしれないのです」
伏せた長い睫が、涙が出そうになるのを堪えているのか震えていた。クレイグは静かに彼女が続きを話すのを待ち、シャルロットは関心がなさそうに紅茶を飲んでいた。
「ここ最近、妹が住む街で頻繁にこうした失踪事件が相次いでいて、同一犯だと考えるならばヴァンパイアが一番しっくりと来るものですから…まだその姿や瘴気などは見つかっていない為、警察どころかギルドも動くに動けません。姿があれば既に賞金をかけてギルドに委託するのですが…」
「なるほど、甥っ子さんは一刻を争いますし、懸命な判断です」
「受けて頂けますか?もちろん、報酬はご用意させていただきました…どうか甥を、助けてやってください…!」
深々と頭を下げたケイに、クレイグは少し驚きを感じていた。
いつもは冷静で嫌味の一つも言い合うような仲の彼女がこんな風に懇願するように頭を下げる姿は見たことがなかったからだ。それだけ、甥の安否を気遣っているのだろう、クレイグはそっとケイの肩を撫でた。
「お任せ下さい。任務は必ず遂行してみせますよ。」
「ありがとうございます…ロベルトさんもありがとうございました…お使いみたいな真似をさせてしまって」
「いや、いいよ。それより俺もクレイグ達を手伝っていいかな?俺もケイには世話になってるし」
善意の申し出をするロベルトを、ふっと隣に座っていたシャルロットが嘲笑する。
「全くお前は相変わらず甘い奴だな、クレイグの奴は守銭奴だからこの依頼を受けているんだぞ、分かっているのかお前は」
「シャルロットさん、人聞きの悪いこと言わないで下さい」
「何だよお前はいちいち突っかかってくる奴だなあ!」
「お前をからかうのが我輩の今の生き甲斐だからな、おらおら!」
そういいながらシャルロットは怒るロベルトの体をいやらしく触りながら高笑いを浮かべる。すっかり慣れているケイとクレイグは止めもしないし、何の反応もしなかったが、ロベルトは絶叫しながら必死に抵抗していた。
しかしその内硬かったケイの表情も少し和らぎ、その顔には笑みが戻っていた。